はじめに

グローバル化の波にさらされ、変化し続ける現代社会において、将来を近視眼的に予測しようとする現状分析はもはや有効な指針たりえない。世界的視野で過去から現在までを複眼的に見通す歴史学の視点こそ、錯綜する情報を的確に選り分け、長期的展望に立った判断を可能にする。我々の目指す歴史学研究とは、悠久の時の流れの中に揺るぎない視座を確保する営みに他ならない。
西洋史学専修課程における研究と教育は、時代的には古代から現代まで、地理的にはヨーロッパを中心としながら、南北アメリカやアジア・アフリカとの関係も射程におさめる。西洋史学専修課程の専任の教員(教授、准教授)は現在6名であり、各分野を代表する研究者である。授業は、教員各々の専門研究にもとづいた「特殊講義」と「演習(ゼミ)」が中心となる。前者は専ら教員が講義する形式で授業が行われ、後者は史料や文献の講読、発表が中心となる。また教養課程2年生を対象に、必修の入門講義として「西洋史学研究入門」および「史学概論」を開講している。学生各自の研鑽は最終的に「卒業論文」にまとめられるが、その指導のために、全教員による「卒論ガイダンス」および博士課程の大学院生(TA:ティーチング・アシスタント)が主催する「サブゼミ」も実施される。授業以外の場でも、最新の知識や方法論について助言できる体制が整っており、学生は機会を捉えて積極的に教員や大学院生などから話を聞き、主体的に自らの学習、研究に取り組むことが求められる。

アテネ、アクロポリス

アテネ、アクロポリス

ベルリン、ブランデンブルク門

ベルリン、ブランデンブルク門


研究室について

西洋史学専修課程は、文学部屈指の大所帯である。在籍する学生の数は、大学院生をふくめて合計で90名になる。大学院生の存在感が大きいこともこの専修課程の特色であり、教育とならんで研究にも大きな比重がかけられていることを示している。助言を与えてくれる先輩には事欠かないだろう(ただし、常に10名前後の大学院生がヨーロッパ各地に留学している)。
法文二号館一階、附属図書館に一番近い一角に西洋史学研究室があり、基本的に出入り自由である。入口近くには新着雑誌の棚があり、その奥で助教、事務補佐の嘱託が勤務している。助教は若手研究者であると同時に、学生と教員の重要な仲介者であり、研究室事務をとりまとめる。奥の談話室には、参考図書が配架されている。西洋史学の対象範囲の大きさを反映して、英・独・仏はもちろん露・西・羅・伊・希など、西洋諸言語の図書が四方の壁を埋めている。
進学後は教室や図書館に通うのと同じように、研究室に顔をだすことが必要となる。進学後すぐの専修課程別進学ガイダンスから翌年度末の卒業証書授与まで、行事のほぼ全てはここで行なわれる。また履修のコツや教職、卒論、サブゼミなど、様々な情報がここで交換される。さらに重要事項は、全て研究室前の掲示板に貼り出されるため、研究室に顔をださないと、いろいろと困ることがおこる。研究室で同級生、先輩学生、助教等と交流し、情報交換に務めるべきだろう。
また、研究室旅行も重要な伝統行事の一つである。学部4年生が幹事となり、5月の中旬から下旬にかけて2泊3日の日程で開催される。近年では、伊東(2007年)、伊香保(2008年)、白子温泉(2009年)、湯河原(2010年)、熱海(2011年)、鬼怒川(2012年)、伊東(2013年)、箱根(2014年)、熱川(2015年)を訪れている。全教員に加え、大学院生の有志も参加するため、教員や大学院生とも個人的に話ができる良い機会である。例年、夕食後は教員を囲んで、あるいは学生同士で熱い議論が交わされる。この旅行を通じてはじめて「研究室の一員になった」という実感を抱く3年生も多いことだろう。
このほか、研究室では新入生歓迎会や卒業祝賀会が開かれ、ゼミごとに交流会が開かれるなど、学生間の交流が盛んなことも、当専修課程の特色の一つである。

2009年、白子温泉にて

2009年、白子温泉にて

研究室談話室

研究室談話室


進学のまえに

西洋史学専修課程への進学希望者は、教養学部時代から知的関心を広くもち、多くの読書体験を重ね、高い語学力を身につけてほしい。ただの歴史ファンでは、専門的学習はおぼつかない。進学を希望するものは、第一に、図書館などを最大限に利用して、歴史関係の講座やシリーズ、単行本はもちろん、人文・社会科学の古典や話題の書物を読んでおいてほしい。進学するまでに、研究したい時代・地域・テーマをおおまかに見つけ出せるとよいが、しかしそれにあまり固執する必要はない。研究テーマは変更されることの方が多い。むしろ幅広い読書経験を通じて、同時に専門研究がもつ意味合いを広い視野から眺め、教養と専門とを知的に往復することが肝要である。
第二に、外国語は西洋史学にとって生命線とでもいうべき手段である。教養学部時代にじっくりと勉強しておいてほしい。すくなくとも、英語と第二外国語を「読む」力をしっかりと身につけておくことが不可欠である。なお、古代史をこころざす場合にはギリシア語・ラテン語を、中世史ではラテン語を、また近現代史ではそれに対応する地域の言語の学習をはじめておくことが望ましい。
第三に、当専修課程にかぎったことではないが、人文系の学問にあっても電子メディアの利用は必要不可欠である。実際に、コンピュータに熟達すると、従来の歴史学ではみえなかった新たな問題や解法がひらけてくることもある。IT技術の基本は早めに体得しておいてほしい。

パレルモ大聖堂

パレルモ大聖堂

マルセイユ旧港

研究室談話室


卒業後

卒業生は、マスコミ・出版、金融・保険、サービス、製造、商社など、各種の一般企業、国家公務員、地方公務員、高等学校の教員など、幅広い分野で活躍をしている。社会で活躍する人材を育て、各界に送り出すことも、西洋史学専修課程の大切な役目である。2010年度、2011年度には研究室でもOB・OGを迎え、3年生を対象に就職相談会を開いた。就職を希望する学生は、他の就職支援機関とあわせて、こうした機会も積極的に利用してほしい。
また例年、東京大学大学院人文社会系研究科(西洋史学専門分野)をはじめ、国内及び海外(欧米)の大学院に進学を希望する者が少なくない。進学を考えている者は、教員や大学院生、助教と早くから接触し、研究や生活などについて話を聴いたほうがよい。自分の道を発見する機会となるだろう。

研究室での学位記伝達式

研究室での学位記伝達式

ロンドン大学キングスカレッジ図書館

研究室談話室