タミル文学史の概観

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バクティ文学期(600〜900年)
この時期はタミルの宗教・社会・文化に、最も大きな変革をもたらした時期である。タミル全土にバクティ(bhakti, 神に対する熱烈な帰依信仰)の気運が盛りあがり、それまで優位にあったジャイナ教、仏教は徐々に排斥され、古典は過去のものと考えられるようになる。

当時、北はパッラヴァ王朝、南はパーンディヤ王朝に統治されていたが、為政者の支持を得てシヴァ教や、ヴィシュヌ教が勢いを増す。ヒンドゥー寺院の建立もさかんとなり、宗教詩人たちはこれらの寺院をわたり歩きつつ、シヴァ神やヴィシュヌ神に対するバクティをタミル語で唄いあげた。彼らの言語は平易で音楽的要素に満ちていたため、民衆にも受けいれられた。

彼らの宗教詩(讃歌)は後にまとめられ、『ティルムライ(&tirumuRai、「聖なる秩序」)』(シヴァ派聖典)、『ディヴヤプラバンダム(&tivviya-p-pirapantam または &divviya-prabandham、「聖なる作品集」)』(ヴィシュヌ派聖典)と総称される。

前者には初期(7〜8世紀)の三聖人、サンバンダル(&campantar)、アッパル(&appar、別名 &tirunaavukkaracar)、スンダラル(&cuntarar)の作品をおさめた『デーヴァーラム(&teevaaram、「神への讃歌」)』マーニッカヴァサガル(&maaNikkavacakar)の『ティルヴァーサガム(&tiruvaacakam、「聖なる言葉」)』(9世紀ごろ)、伝説を盛り込みつつシヴァ派の63聖人ナーヤナール(naaya_naar/ naaya_nmaar、6〜8世紀ごろ)を描いたセーッキラール(&ceekkiZaar)の『ペリヤプラーナム(&periyapuraaNam、「大古譚」)』(12世紀ごろ)などがある。

後者はヴィシュヌ派聖人アールヴァール(aaZvaar、7〜10世紀の12人)の作品をおさめるが、アーンダール(&aaNTaaL、9世紀)の『ティルッパーヴァイ(&tiruppaavai、「乙女の祈願」)』やナンマールヴァール(&na_nmaaZvaar、10世紀)の『ティルヴァーイモジ(&tiruvaaymoZi、「聖なる真理の言葉」)』などが有名である。

中世文学前期(900〜1200年)
チョーラ王朝のもとで、歴史上最も栄えた時期である。ヒンドゥー寺院の建立は続き、寺院が人々の生活で大きな位置を占めるようになる。ジャイナ教、仏教は後退し、シヴァ派が圧倒的な勢力をもつようになる。古典文学は文人や注釈家だけのものになり、作品としてはサンスクリット文学の影響の濃いものが多くなる。

ヒンドゥー教の隆盛とともに多量のサンスクリット語彙がタミル語に入り、両者の混じりあったマニプラヴァーラ(maNipravaaLa)という語体が生まれる。マラヤーラム語がタミル語の西域方言から発展し、独自の言語となるのもこのころである。

この時期にはジャイナ教徒ティルッタッカデーヴァル(&tiruttakkateevar、10世紀?)の『ジーヴァハチンターマニ(&ciivakacintaamaNi、「ジーヴァハンの如意珠」)』など、前代にひきつづきジャイナ教徒や仏教徒により幾篇かの叙事詩が書かれたが、最も重要なのは「詩人の皇帝」カンバン(&kampa_n、9/10/12世紀説あり)の『イラーマーヴァダーラム(&iraamaavataaram、「ラーマの降臨」)』(通称『カンバラーマーヤナム(&kamparaamaayaNam)』)である。

これはヴァールミーキの『ラーマーヤナ』の枠組にしたがいつつ、タミルの伝統をふまえ翻案したもので、6篇約10500の4行詩からなるタミル文学中最長の作品である。先述した『ペリヤプラーナム』もこの時期の重要な作品である。

一方、古典文学に対する注釈書や、伝統的文法書も書かれるようになる。12世紀末にジャイナ教徒パヴァナンディ(&pavananti)によって書かれた『ナンヌール(&na_n_nuul、「良き書」)』(461詩節)は、中世を代表する文法書である。


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