「小域地域空間分析」グループ

 

研究課題:トルコの諸都市のGISを用いた空間構成分析



研究分担者・協力者・アドヴァイザー・オブザーバー一覧

 浅見 泰司

 東京大学空間情報科学研究センター 教授

 

 

「小域地域空間分析」グループ幹事(分担者)

 

 新井 勇治

 日本学術振興会特別研究員PD(東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻)

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 Istek, Ismail C.

 日本学術振興会外国人特別研究員(東京大学空間情報科学研究センター)

 

 

GISを用いた空間情報分析(協力者)

 

 及川 清昭

 東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教授

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 陣内 秀信

 法政大学工学部建築学科 教授

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 寺阪 昭信

 流通経済大学経済学部 教授

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 曲渕 英邦

 東京大学生産技術研究所第5部 助教授

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 Kubat, Ayse Sema

 イスタンブール工科大学建築学部都市地域計画学科 教授

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 太記 祐一

 福岡大学工学部建築学科 専任講師

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 鶴田 佳子

 昭和女子大学大学院生活機構研究科 博士課程

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 山下 王世

 国士舘大学イラク古代文化研究所 共同研究員

 

 

現地調査による空間情報の取得と分析(協力者)

 

 江川ひかり 

 立命館大学文学部 助教授

 

 

 (アドヴァイザー) 

 

 林 佳世子

 東京外国語大学国語学部 助教授

 

 

 (アドヴァイザー)

 

 伊藤 香織

 東京大学生産技術研究所第5部 博士課程

 

 

 (オブザーバー)

 

 豊島さおり

 イスタンブール工科大学 修士課程

 

 

 (オブザーバー)

 

 ソレマニエ貴実也

 東京都立大学大学院工学研究科 修士課程

 

 

 (オブザーバー)

 

 深見奈緒子

 東京大学東洋文化研究所 非常勤講師

 

 

 (オブザーバー)

 

 山田 幸正

 東京都立大学大学院工学研究科 助教授

 

 

 (オブザーバー)

 

 


 

研究計画

 本グループでは,トルコの諸都市を対象として,伝統的市街地の道路パターン分析とジャーミーの立地との関係をGISを用いて分析する。対象都市の道路パターンを線形ネットワークとして抽出し,パターンの類似度把握のための指標構築,ネットワークにおける形態的中心地(面的施設も含む)の抽出方法の構築,生活の中心拠点のひとつであるジャーミーの立地と中心地との一致度の検討,道路ネットワークの自然発生モデルを構築し,必然的にイスラム的ネットワークの生成がどの程度まで可能なのかの検討などを行う。また,トルコの住宅の形態的合理性,民族と住宅様式・住宅地構成の違い,他イスラーム諸国との住宅・都市の構成の変化の比較分析を行う。 このために平成9年度は,小域地域分析に耐える空間データをディジタル情報として整備する。さらに,他の研究班における情報通信網の円滑化し,相互研究交流の活性化に資するため,研究分担者への情報ネットワークや情報端末に関する調査を行い,適切な整備の補助も行う。本年度秋には現地の空間情報整備のためのトルコに赴き,イスタンブル,イズミル,バルケスィル,ブルサ,サフランボル,スィヴァス,アンカラの諸都市をまわる予定である。 また,平成10年度以降は:(1)道路パターンを線形ネットワ ークとして抽出し,パターンの類似度把握のための指標構築やグラフ理論よりもさら にメトリックなものを取り入れた指標の構築,そしてネットワークにおける形態的中 心地(面的施設も含む)の抽出方法の開発。 (2)生活の中心拠点のひとつであるジャーミーの立地と中 心地との一致度の検討,ジャーミーがその後市場として発展したものとそうでないも のとの空間的特徴の解析,道路ネットワークの自然発生モデルを構築し,イ スラム的ネットワークの生成シミュレーション。 (3)建物のデータを収集し,トルコの住宅の形態的合理性,民族と住宅様式・住宅地構成の違いの分析。(4)他イスラム諸国との住宅・都市の構成の変化などの分析を行い,文化的背景の違いなどに起因する空間構成の特徴の分析。などを順次行っている。


トルコ調査(1997年9月〜10月)報告

トルコ調査(1999年3月)報告

トルコ・シリア調査(2000年8月)報告


1998年度研究会活動

1)第1回研究会 (1998年4月3日 東京大学都市工学専攻会議室にて)

 新井勇治「サフランボルの傾斜地における住宅について」

  緩斜面については、住宅2軒の住宅形式を報告。方位を重視するというより、谷側に良い部屋を配置。ホールがセミパブリックな空間となっており、わざと曲げたアクセスで小部屋につながっている。1軒の1階、2階部分をそれぞれ賃貸している。急斜面についても2軒の住宅形式を報告。やはり谷側を優先して部屋を配置。前庭を設けて眺望を確保。等高線に沿った道路では家が連続して建ち並ぶ。

 新井勇治「イスタンブールのハーンについて」

  斜面地におけるハーンの立地を調べた。急斜面に規模の大きいハーンが多い。急な坂に面して中央部に出入り口を取る傾向がある。対称的なプランで、通路は片廊下型。岸辺近くの平坦地のハーン。斜面地よりも前期のものか。グランドバザール付近では、シンメトリーを崩している。規模も小さくなっている。

 

2)第2回研究会 (1998年5月26日 東京大学都市工学専攻会議室にて)

 江川ひかり「19世紀中葉バルケスィルの都市社会と商工業:アバ産業を中心に」

  1840年の資産台帳の分析。資本主義の「周縁化」が見られるのかという観点から、バルケスィルの内部構造の変化、及びバルケスィルのaba(毛織物)産業から、当時の産業活動の連携を分析。

 

3)第3回研究会 (1998年7月6日 東京大学都市工学専攻会議室にて)

 豊島さおり「トルコの都市における商業地区の空間構成について」

  商業地区の立地について城壁外部型は、城壁は高台に建設される傾向があるため、それと交通結節点をむすぶ地点に立地する傾向。城壁内部型は、トルコでは例外的であるが、ビザンチン時代の商業地区を継承している例が多い。 ブルサの対象地区(緩斜面上)とイスタンブールの対象地区(急斜面上)を例に商業地区の全体の構成と形成過程(歴史的変遷)を説明。 イスタンブール、ブルサのハーン(都市型隊商施設)の平面的形態の分類を行うと、中庭が1つのハーンでは、U型(回廊で中庭を囲み、一面が店舗となっているのが典型)、O型(中庭が回廊で囲まれた形)、及びその変形、中庭が2つ以上のハーン(O型+U型、O型+O型など)がある。店舗が張り付いたハーンとそうでないものがあり、ハーンの中での店舗の立地場所は主として商業地の商業的ポテンシャルの高い場所に多い。今後特に、レベル差を考慮した分析を行っていきたい。

 鶴田佳子「トルコ諸都市における商業地区の空間構成について」

  今まで調査したトルコの諸都市の商業地区について報告。商業地区の構成要素としては、ベデステン、アラスタ、ハン、屋根付きマーケット(アラスタが面的に広がったもの)、通り(屋根で覆われない店舗群)、公共マーケット(露天市が常設化したもの)、地下マーケットがある。また、関連施設として、宗教施設、ハマム、泉・水場、広場、交通施設、公共施設(大学、城、郵便局など)がある。各都市を商業施設の空間構成で分類。

 

4)第4回研究会 (1998年9月30日 東京大学都市工学専攻145教室にて)

 イスマイル・イステッキ「イスファハンとイスタンブ−ルのマ−ケット空間:「スペ−ス・シンタックス」手法によるマーケット空間の分析」 (Ismail Istek: "Market Places of Isfahan and Istanbul: A 'Syntactic' Approach to the Study of Market Places")

  本研究は、イスファハンとイスタンブ−ルという伝統のある2つのマ−ケット空間を取り上げ、それらの商業空間の構成について比較文化的に論ずるものである。マ−ケット空間に関する従来の研究では、建築学的な空間構成と社会経済学的な人間の行動の間の「ミクロレベル」での相互作用を強調するきらいがあった。すなわち、それらの理論では、空間を配分する過程での「ミクロ経的」決定要素が強調されてきたのである。しかしながら、より現実を踏まえた調査研究を見ると、人間と環境の関係をこのように決定論的に解釈することは、マ−ケットが現実にどのように機能するかを理解する際に、大きな問題を生じせしめる。本研究は、商業空間の構成を研究するものであるが、これまでとは異なる方法によるアプロ−チを試みている。イスファハンとイスタンブ−ルのバザ−ルの空間レイアウトを調べると、空間構成上のダイナミックスが理解される。その空間のダイナミックスは現実的・象徴的原理に基づく、人々の動きと社会的インタ−ラクションに関わるものである。つまり、宗教上の原理と経済の原理が組合わさったものが、空間のダイナミックスから読み取れるのである。イスファハンとイスタンブ−ルでは、バザ−ルの社会経済的機能が異なるので、人々の動きと社会的インタ−ラクションはある意味で正反対の様相を呈している。本研究では、さらに社会経済的見地から空間のダイナミックスに注目し、バザ−ルを動かしているギルド的な商人の社会組織と空間の使われ方との関係を明らかにした。

  (Available theories for market places tend to emphasise on "micro-scale" interactions between architectural space organisation and socio-economic behaviour. These theories equally stress a need for "micro-economic" determinants in the process of space allocation. However, it is possible to observe, in review of general research, that this deterministic interpretation of man-environment relationships engender some considerable problems in our understanding of market places and how markets actually work in more practical terms. Their evidence is circumstantial and hearsay. This research proposes an alternative approach to the study of commercial space organisation. The examination of the spatial layouts, which exist in two cross-cultural cases -Isfahan and Istanbul- show certain (configurational) properties. It is argued here that these are based on some instrumental and symbolic principles related to organising movements and social interaction (encounter) patterns. However, in some sense, the two cases are inverse of each other, each being a function of the different socio-economic cultures of the markets. More awareness of these spatial properties with their social and economic implications would seem to be required if micro-economics is not to lead to the real.)

 太記祐一「エストムボルへの旅:旅行記にみるパライオロゴス朝時代ののコンスタンティヌポリス」 (Yuichi Taki: "Travels for ESTOMBOL: Constantinople in the Palaiologus Dynasty through the contemporary Travelers' Witness")

  1.史料紹介、2.都市の様子に関する記述、3.言及建造物に関する分析、4.都市構造あるいは住居形態に関する試論、5.考察と問題点

  (Through the analysis of the texts on Constantinople written by the 14th and 15th century travelers, Ibn Battuta, Ruy Gonzalez de Clavijo, Russian Pilgrims, Bertrandon, Tafur and Buondelmonti, this study tries to describe the general situation of the Byzantine Capital. The City was formed by the loosly connected populated quarters in open fields. And the groups of houses connected by the courtyard (AULE) play an important roll as the constructive element of quarters.)

 

5)第5回研究会 (1998年11月26日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

 陣内秀信「南イタリア都市の空間構造---イスラーム都市との比較の視点から」

  中庭、プライバシー、住宅の内と外、家族構成、斜面都市の構成などに着目した。アラブ・イスラーム圏とイタリア圏の違いに注目している。

1.チュニジア都市:スース

  古代の都市構造を基礎にしている。ゆるいグリッド状でそこに袋小路が入り込む。街路網は比較的わかりやすく、道路に階層性が見られる。中心にスーク。アーケードで商店街を形成。人が集まるカフェがスークのはずれにある。大モスクは中心にない。チュニスの旧市街の建物のタイプ分けを行った。(中庭型)

2.シャッカ(シチリア)

  斜面で港に続く。袋小路が中心。色調はスースに似る。中庭はなく、皆、外に出てくる。戸外空間が重要な点が、イスラームとも類似。16世紀に北部を開発。農民が住む。(羊を飼う。)庶民住宅のタイプ分けした。都市構造と住宅の内部に関する研究は皆無に等しい。パラッツォは、中世には非対称的デザインで外階段、19世紀になると対象性が現れ、内階段化。袋小路は登って入るようにデザインされている。中庭にはマリア像と洗濯桶がある。

3.レッチェ(プーリア州)

  貴族のパラッツォがあり、今も活用。一般の庶民住宅は袋小路が発達。比較的裕福な生活。古代ローマ以前のコアもある。ローマ都市から発達、その後バロック様式に。アラブの支配はない。内部に袋小路が発達。中に大きい宗教施設が多い。(南イタリアの特徴。)袋小路はコルテと呼ばれる。ピアツェッタと呼ばれる中庭的空間もある。そこに人が集まる。バロック化する時、大きな都市の改造はされなかった。民間の住宅にバロック性があるところが特徴的。入り口からアトリウムがあって、先に庭園がある形式が典型。

4.アマルフィ(カンパーニャ州)

  1012世紀に繁栄。その時の地図がある。完全に中世の都市。9世紀に独立都市に。川に蓋をして通りにしている。トンネル状のアーケードが多い。公的空間と私的空間のクロスする所にトンネルが作られる。「天国の中庭」がある。途中の家のバルコニーからパノラマが開ける。中庭型はメジャーではない。住宅への入り口は商業スペースからはとらず、側面から。積み上げているため、建物は上部ほど新しい形式。メインストリートの窓は高く作り、プライバシーを守っている。自分たちの豊かさを外から隠し、プライバシーを守る。住宅のタイプ分けを行っている。

 

6)第6回研究会 (1999年1月20日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

  来年度の研究計画・予算計画について議論した

 

7)第7回研究会 (1999年2月24日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

 陣内秀信:「3月のトルコ調査の概要とねらい」

  今後の研究発展の展望とギョイニックの調査について述べる。

  トルコ(イスタンブルなど)(GISデータ)、シリア(ダマスクスなど)、イラン(イスファハン)、南イタリアを比較考察したい。斜面都市のあり方の比較する。

  ギョイニックの調査について、民家個々の研究はあったが、地方都市全体の調査報告は少ない。

 新井勇治「今後の研究発展の展望」

  1999年度以降の研究試案について説明。地中海に面した都市群を比較考察する。特に対象とするのは、イスタンブル、ダマスクス、イスファハン、シャッカ。立地性、歴史性、城壁の有無、都市施設の配置、商業地域の分布(市場形状:面的、線状、中間)、住宅街の構成、建築タイプ(中庭式、独立式)などに着目。

  都市のvoid(隙間)を定量的に把握し、集合の仕方、密度等と関連づける。同じ条件での地区選定を行う。モスクからの距離圏、街区、商業地の包含などを条件とする。具体的にダマスクスの地図を例として傾向を説明。

  都市の景観(外部、内部)の作り方とそれによる建築タイプの定まり方の分析。住宅の接道性、公共性への意識、壁面の連続性、屋根、店舗、住宅へのアプローチの取り方、道路のヒエラルキーと住宅の配置・形式、立面での開口部率、高さと幅に着目する。

 鶴田佳子「ギョイニックなどの調査について」

  トルコ都市調査(特に、ギョイニックなど)について説明。平面などの測定、ヒアリング、文献資料収集などを行う。

  イスタンブル(商業地区、住宅地区)調査:ガラタ、ウスキダル、ヤルなど。

  ギョイニック調査:サフランボルに似た構成。勝利の塔が町のシンボル。その下に、商業地域が広がる。ビザンツ期に城塞があった。調査対象は、住宅(斜面と景観の関わり方、街路からのアクセス)、都市施設(キュリエ、モスクなど)、街路パターンなど。VOID、公私、内外に着目。市内の川と地形が重要。

  ブルサ調査:同上を調査。

 

1999年度研究会活動

1)第1回研究会 (1999年4月22日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

  3月のトルコ調査報告(詳細は上の報告参照。)

 陣内氏:

 調査の概要を説明。イスタンブル(エユップ、フェネル、バラット地区)、ギョイヌック、ブルサにて、町並みの構成原理を調査。

 鶴田氏:

 ギョイヌックでの調査について説明。川にはさまれた地区。川沿いにモスクが点在。1960年に新たな街道を通した。それまでは、旧街道が主な道路。街道沿いや「ラクダ道」に沿って発達した部分、袋小路(房状地区)などを調査。

 城塞の下の商業ゾーン:金曜日に商業発展を願う儀式。日用雑貨品店が多く、高齢者が経営。2階が倉庫(地下部分も倉庫)。モスクに来る前に床屋でおしゃべりする習慣。店前には、泥よけ兼商品台がついている。

 住宅地:街道の谷側。3階建ての高級住宅。3Fが街道と同じレベル。サロンが中心にあるパターン。下の方の階はほとんど使われていない。別の住宅(ピンクハウス)。

 ラクダ道(急峻な抜け道)。道路からスロープで住宅にアクセス。

 国道から直行する道の住宅も調査。庭から住宅にアクセス。

 房状地区。小さな庭があり、密度が低い。妻は街路に面して見せていない。

 住宅以外に街路も保存。(石畳)

 ギョイヌックに行く途中にあった農村も見学。

 新井氏:

 イスタンブル(エユップ地区):城壁外の地区。金角湾沿い。平坦地にある。モスクが中心の地区。庶民的な場所。保存対象地区に指定されている。住宅を中心に調査。集合の仕方、プランを分析。

 イスタンブル(フェネル・バラット地区):城壁内の地区。金角湾沿い。フェネルでは等高線に沿った道と傾斜方向の道で構成。坂道に面した場所を調査。出窓によって眺望・採光・通風を確保する工夫が見られる。フェネルとは灯台の意味。もともとギリシャ系の人がいた。バラットは比較的平坦。ユダヤ人居住区だった所。シナゴーグもある。計画性が強い。間口4m程度の住宅を見学。ワンルーム型。高密住宅地では中心部に出窓をとる傾向。(低密だと両ウィングが出窓。)出窓が居心地の良い場所で、隣とも会話できる。1階は農村では動物用。都市部では居住空間。ファサード部の3列型の住宅は都市部でも農村部でも統一して見られる。集合率(voidと宅地率)をGISで調べたい。(1900年頃にはすでにグリッド状。)

 ブルサ:ヒサール(ビザンツ時代の城塞)の中の住宅。高台で眺望が良い。敷地規模の大きな住宅が多い。街路から直接住宅にアクセス。庭は後ろ側にある。ビザンツ時代:中庭式住居。ヒサール内ではビザンツの中庭形式のものをオスマン的に変更したのではないか。泉もある。平屋の家も多い。中庭型的で、中へ開口部をとっている。ヒサールよりも低い部分の住宅。庶民住宅が並ぶ。斜面地では、2階部分に入り、半地下部分は倉庫的。

 

2)第2回研究会 (1999年6月10日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

山下王世:「メフメト2世・バイェズィト2世期のイスタンブルにおけるモスク建築に関する研究 〜モスクへ改修されたビザンティン教会堂との接点について」

 1453年のメフメト2世によるコンスタンティノープル征服時を中心とし、その前後の時期でのモスクを取り上げている。モスクの平面形態、構造、構法などを比較し、初期、古典期、チューリップ期などに分け、オスマン建築の特徴を考察している。特に、初期のメフメト2世期から、古典期の始めの10年のバイェズィト2世期まで時期に焦点をあてていく。

 まず、征服時の社会背景やメフメト2世の人物像を明らかにする。コンスタンティノープルからイスタンブルに変わり、人口は大きく減少する。メフメト2世は、イスラーム教ばかりでなく、他宗教や外国に対して寛容な政策をみせ、人口回復のため、商人や裕福な階級のキリスト教徒を使い、生産活動に力を入れた。さらに、都市施設を充実させるため、新たな施設の建設も行なった。

 征服以前の初期に建設されたモスクは、逆十字型の平面構成をとり、中央ドームは円柱によって支えられていた。付随する小部屋が多く、重厚な造りとなっている。また、小規模なモスクでは方形プランを示し、4壁面によってドームを支えている。小規模なモスクの形態は時代を通して建設されていく。しかし、アラブ地域に普遍的にみられる多柱式の形態のモスクは、6例があるのみで、ほとんど建設されていない。

 古典期になるにつれて、逆十字型の平面構成から、礼拝室両脇の部屋や小部屋が喪失していき、方形の大ホール空間に変わっていく。中央ドームは大きくなり、ピアやペンデンティブによって支えられ、半ドームや小ドームがともなう。壁構造から、柱構造に変化し、開口部が確保できるようになる。この時代のモスクの建築要素として、ピア、ペンデンティブ、半ドーム、柱構造、礼拝室脇の部屋に注目している。

 次に、ビザンティン教会堂から改修されたモスクでは、メフメト2世期で6軒、バイェズィト2世期で8軒を取り上げている。これらは、メフメト2世のワクフ文書やハイルルラフ・エフェンディの歴史書などの史料に基づいている。多くのモスクのプランはギリシャ十字型で、柱によって中央ドームを支えている。2例のみ例外で、1つはバシリカ式、もう1つは壁構造でドームを支えている。

 これら教会堂から改修されたモスクと新設されたモスクとを比較し、共通点、相違点を探り、オスマン建築の特徴を描き出そうと試みている。今後の課題として、両者の関係性をより明らかにしていく。さらに、オスマン時代のモスクでは、大ホール形式の礼拝空間が多く造られ、また、外観のあるドーム建築が嗜好されており、その理由にも踏み込んでいく。

ソレマニエ貴実也:「イラン・カーシャーンにおけるガージャール朝期の街区と住宅 −98、99年の調査事例より−」

 カーシャーンの旧市街は城壁に囲われ、7つの城門が設けられている。1778年の大地震によって、大半が崩壊し、ガージャール朝期(1796−1925年)に復興していく。近年、都市計画道路が通され、旧市街は分断されてしまう。

 調査地域は旧市街の北西部で、都市の中心となるバーザールの一部を含み、重要な施設であるイマームザーデ・ターヘル・マンスール廟がある。この地域は、3つの街区(マハッレ)から構成されており、それぞれに都市施設が設けられている。しかし、全てのマハッレに全ての都市施設が整っているわけではなく、地域差がみられる。また、住人の生活もマッハレ内で完結するわけではなく、近隣のマハッレやバーザールに出かけていた。近年さらに、マハッレの範囲に関しても住民の認識は薄れ、年配の住民からの聞き取りによって、やっと当時の姿が浮かび上がってくる。

 ここで、特に興味深い点は、ターヘル・マンスール・マハッレにある小広場(ファターヒー)である。

小広場は、シーア派の宗教的祝祭や集会に利用されている。アラブ地域では、都市内の住宅街では公共的な広場はほとんどなく、宗教施設や住宅の中庭がその代わりとなっている。今後さらに、マハッレについて考察を深めていく。

 次に、調査した20軒の住宅の特徴を考察している。その中で、中規模の典型的な住宅を取り上げ、住宅の構成や使われ方、そして住人からの聞き取りによる歴史的変遷について言及する。調査住宅には2つの中庭があり、ビールーニーと呼ばれる接客のための男性空間と、アンダルーニーと呼ばれる家族のための空間に分かれる。アンダルーニーの中庭では、中央にプールのような泉がおかれ、緑が豊富に植えられている。庭の回りの居室は一段高くなっており、涼を取るための地下室も設けられている。庭は、街路レベルからかなり低く掘り込まれており、その理由として、水を引き込みやすくするため、涼を確保するため、掘った土などを建築の材料にするため、などの複合的な理由があげられる。半戸外空間のイーワーン

にも特徴があり、天井はアーチやボールトになっており、華やかな装飾が施されている。アールヌーボーやオットーワーグナーの様式を彷彿させる。

 住宅の規模による相違では、大規模な住宅になると、ビールーニーとアンダルーニーの規模が逆転している。来客が多く、かなりの頻度で接客が行われていたと考えられる。小規模な住宅では、中庭は1つしかなく、接客はサルブーシーデと呼ばれる、ドーム天井に穴が空けられた部屋で行われる。今後は、さらにこのサルブーシーデに注目し、考察を進めていく。

 

3)第3回研究会 (1999年7月15日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

及川清昭:「インドネシア・モロッコ・イエメンにおける伝統的住居の空間構成 −世界の伝統的住居・集落形態に関する調査・研究−」

 東京大学生産技術研究所の原広司研究室、藤井明研究室では、1972年から伝統的住居と集落の調査・研究を行なっている。これまでに世界各地で、17回、500に及ぶ集落調査を行なっており、調査資料は膨大なものとなっている。特にスライドによる記録は、4万枚ほどに達している。その成果は、論文や雑誌などに報告されているが、近い将来インターネットによる公開を目指し、データベースの準備も進めている。

 今回は、特にイスラーム地域の集落や都市に焦点をあて、集落や伝統的住居の形態の比較を、スライドによって解説を行なった。

 インドネシアでは、幾つかの島での住居の形態と構法の特徴について考察している。島によって生活習慣、民族性、さらには宗教も異なることがある。気候的にはほぼ同じであるため共通性も多くみられるが、住宅の形態や集合の仕方、住まい方に差異が生じている。どの集落の住居も、屋根の形状にそれぞれ特徴があり、方位性が重要視されている。高床形式のものでは、1階はピロティであったり、集会場的に使用され、上階に台所や居間、寝室が配されている。地床式では、土間が台所になり、平面的に空間が分節される。男女の住まい方や棟の集合の仕方に大きな特徴がみられ、同じ敷地内に幾つもの小屋を建て、男女に分かれ、用途別に使い分けている集落や、長屋形式で1部屋に1家族で住むものなど、多彩なバリエーションがみられる。イスラーム教が支配的な集落では、やはりメッカへの方位性が重要視されており、住居内の礼拝空間が中心となっている。

 モロッコでは、砂漠に近いカスバ街道のベルベル人の集落(クサール)を紹介している。オアシスに隣接し、ドワーヤと呼ばれる中庭をもった塔状の住宅が、立体的に密集している。中庭は狭く、各部屋への間接光の取り口ともなっており、外部への窓は小さい。1階は倉庫、家畜のスペースで、上階が生活の場となり、屋上に台所が設けられている。住宅の4隅にボルジュと呼ばれる塔が設けられているが、物見塔からデザインへと移行している。

 イエメンでは、塔状住居が密集し、集落全体が砦のようになっている。1階は家畜小屋で、2階が倉庫、その上が居住スペースとなる。最上階はマドラージュと呼ばれ、男性の居間となっている。モロッコの住宅とは外部形態的には似ているが、中庭はなく、逆に外部に対して開放的で、装飾豊かな窓が設けられており、伝統的住居の特徴となっている。

 首都のサヌアでは、旧市街の地図をポロゴンデータ化しており、これからGISを使用した研究の可能性をもっている。データは建物6500棟、都市内にある農園(ブスターン)などに及び、その割合や構成をみることが可能である。

 最後にアフリカ、カメルーン、マリの集落の紹介があり、詳しい報告は、次の機会に行われる予定である。

 

曲渕英邦・伊藤香織:「業種の分布からみた都市空間の地域特徴の定量化 秋葉原電気街とその週辺地域を事例として」

 GISを用いた研究報告で、イスラーム地域研究へ応用するための一つの指針を与えようとするものである。研究は、秋葉原電気街において、店舗や主要用途による分布を調べ、地域地図を用い、データをおとしていく。データは、電化小売店、製造・卸、事務所、住宅、駐車場、オープンスペースなど8業種に分類し、さらに秋葉原周辺地区を58ブロックに分け、それぞれのブロックでの業種の情報量によって色分けし、エリアでの相違を示している。

 研究では、まず延べ床面積によって、8つの業種の分布を表している。次にそのデータを使い、業種を区別せず、各ブロックにおいて構成比が平均からのどれだけ乖離しているかを表すために情報量尺度を求め、店舗配置の「個性」の度合いを測っている。これらをまとめ、地域の傾向図で表現した。情報量の大小により、ブロックを塗り分け地域ごとの特徴を表現している。駅周辺や調査範囲外縁部では、特徴ある業種構成がみられ、その間においては平均的な業種構成を示していることが分かった。

 これからの課題として、構成比の卓越するものを色調として強調した図で表現してはどうか、あるいは小売り店舗の中で、さらに業種を細分化して、分布状況を調べてはどうか、イスラーム地域での市場空間などに応用を試みることはできないだろうか、などの意見が出された。

 

4)第4回研究会 (1999年9月28日 東京大学都市工学専攻2階145番教室にて)

 Asami, Y., A.S. Kubat and I.C. Istek Characterization of the Street Networks in the Turkish-Islamic Urban Form

Turkish-Islamic street network is characterized by discriminant functions of several space-syntax-related indices as well as image-analysis and graph-theoretical indices.  A set of space syntactic indices is found to be powerful enough to distinguish Islamic network.  Axial ringiness, in particular, characterizes Islamic network patterns, implying that formation of larger blocks is a typical feature.  Relative abundance of dead-end edges is another important feature of Islamic network.  Most of the areas in Istanbul are judged to be non-Islamic from the network patterns.

 

5)第5回研究会 (1999年12月9日 東京大学都市工学専攻2階144番教室にて)

浅見泰司「トルコにおける大地震の都市への影響と今後のあり方」

 10月に佐々波氏と訪れたトルコの状況について説明。8月のコジャエリ地震の概要、トルコ政府の対応、各国・国際機関の対応、被災地現地の状況などを報告。また、今後のイスタンブール工科大学および中東工科大学との共同研究の可能性についてコメント。

鶴田佳子「トルコにおける大地震の都市への影響と今後のあり方」

 11月に参加したトルコ地震復興関連調査に参加した概況を報告。ギョルジュック、デイルメンデレの状況、コジャエリ県での地震後3ヶ月後の取り組み(仮設住宅、テント村)、アダパザル市の状況、ボル県での地震後2週間後の取り組み(緊急災害対策本部、ボル市内被害状況、テント村、マーケット)、今後の課題について報告。

6)第6回研究会 (2000年1月14日 東京大学都市工学専攻8階都市工学専攻会議室(802号室)にて)

中東工科大学建築学部長Prof. Dr. Necdet Teymur City as Education Learning from Cities (& from Disasters)

1. Introduction, Questions and Definitions

  Modes of Understanding the Cities: A) Experimental/Touristic, B) Pragmatic/Professional, C) Aesthetic/Poetic, D) Analytical/Pedagogic

  Learning and the City: 1) Learning about the city, 2) Learning from the city, 3) Learning to design and plan the urban, 4) Learning to design an urban curriculum

  Two learning experiment: 1) The Istanbul Project, 2) Learning from Disasters

 

7)第7回研究会 (2000年2月8日 東京大学都市工学専攻8階都市工学専攻会議室(802号室)にて)

陣内秀信「アンダルシア都市の空間構造:アルコス・デ・ラ・フロンテーラのフィールド調査より」

イスラーム時代に形成された都市空間を基底にもちながら発展してきたアルコスの構造を、建築、都市の両方のレベルから分析する。この町の住宅はパティオを中心とするが、アラブ都市との相違も様々な形で見られる。その点を比較しながら論じる。

新井勇治「3月の海外調査計画について」

 

2000年度研究会活動

1)第1回研究会 (2000年4月20日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

  午前10:00〜12:00

3月の海外調査報告

新井勇治(学振、特別研究員)「ダマスクス、アレッポにおける都市構造と住宅」

 ダマスクス、アレッポの旧市街は、市壁に囲われ、中世イスラーム支配時代の伝統的な街並みや建築群が今も残されている。そこはビザンツ時代に都市の骨格が形成され、碁盤目状の街路網が所々に残しながら、迷宮都市へと変容している。

 都市の中心部には、商業に特価したスークが広がり、聖域の大モスクが隣接している。

スークの天井にはアーケードやドームが架かり、強い日差しや砂埃などから商品や人々を保護している。住宅街に入ると人の往来は少なくなり、道路上に2階部分が張り出して、トンネル状になっていたり、道路の幅も狭くなり、至る所で袋小路になっている。

 閉鎖的な街路から、住宅に入ると一転して、開放的で緑溢れる中庭に出会う。中庭には泉があり、レモンやオレンジなどの柑橘系の樹木や奇麗な花が植えられ、楽園を地上に演出しているかのようである。住宅にはイーワーンと呼ばれる、中庭に開いた半戸外空間が設けられ、夏の避暑や接客のための空間として利用される。このイーワーンは、住宅に軸性や方位性を与え、住宅の規模や格式を考察するうえで重要な要素となる。

 

谷田明義・山下雅絵(東大、生産研、修士2年)「GISを用いたダマスクスでの現地調査内容について」

 Plan cadastral(500分の1の土地・家屋地図)を利用し、旧市街全域の住宅境界線や街路網、噴水、トンネルなどの地図データを入力する。さらに、現地調査で得た住宅の入口、ミナレットの高さ、樹木、泉の位置、2回の張り出し部分を加えていく。これは、街路のヒエラルキーの判別に利用していく。

 旧市街全域の街路をビデをに撮影しており、それにより全住宅の街路側での階数や高さが分かり、等高線地図と合わせて、旧市街の3次元モデルを作成する。

 住宅の実測データから図面を作成し、既にある住宅図面資料と合わせて、格付けやタイプ分けに利用していく。Plan cadastralに書かれている各住宅壁面の所有情報から街区内での各住宅が兼摂された順番を推測し、街区の形成過程、住宅の集合の様子や格付けを考察していく。

 

及川清昭(東大、助教授)「ダマスクスの都市空間分析」

1.住宅と街路の分析様態と関連性

住宅の格式や規模などによって、順序化(格付け)を行い、さらに街路の階層化を明らかにする。

2.都市平面(立体)構成の複雑性

 平面構成をジグソーパズルに見立てて、その形と数の複雑性を検証する。

3.モスク・ミナレットの可視性

 都市内のミナレットからどの範囲が見通せるのか、それを住宅側面や街路網状でシュミレーションしていく。

 

 

2)第2回研究会 (2000年5月30日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

・北川賢介「トルコ・ブルサにおけるモスクの立地傾向:3次元地理情報システムを用いた地域研究」

1. トルコの古都ブルサにおいて、GISの3次元解析機能を用いて統計的・視覚的に分析を行う。

2. ブルサの歴史的背景を把握し、キュリイェと呼ばれる都市複合施設に注目する。

3. 仮説として、見る・見られるという可視性の意識が都市施設の建設場所に反映し、市街地拡張がもたらされてきたのではないか、という視点に基づく。

その実証として、まず1つ目に、可視性の高い場所にモスクが立地することを示し、2つ目にそのモスクの可視性が意識されながら市外が形成されたことを示していく。

4. 3次元立地分析によって、4つのモスクについて分析を行う。

Green Mosque、Shehadat Mosque、Ulu Mosque、Murdiye Mosque

5.3次元空間情報データを作成する。1つ目はTIN(水準点による三角形の埋め合わせで地表面を作成)での地表面作成と、等高線を作成する。2つ目はソリッド(Solid)による建物の表現で、ポリゴン(面)に高さを持たせて柱として建物を表現する。そして3つ目にドレイプによる古地図との張りあわせで、TINのサーフェス上に古地図を貼り付ける。過去との変化の分析に有効となる。

6. 高線地形図による分析と立地・向きについての分析を行う。具体的には、先の4つのモスクにおいて、立地する周辺の地形、そして斜度・向きによる傾向を分析する。結論として、モスクは段丘、尾根上に立地し、また北向きの緩やかな斜面(10%以下)に立地する傾向があることが分かった。

7. 可視領域分析を行う。モスクのミナレット・ドーム・モスク全体での3つの可視を対象とし、1451年の首都であったときまでに成立した市街地の2つを対象領域とする。可視性が大きいと示すためにはほかの場所と比較して優位であることを示す必要がある。まず104点の可視領域の広さを円の面積で示し、順位で示す。そのとき、条件を同じにするためすべての場所にGreen Mosqueが建っていると仮定する。

結論として、Green Mosqueはモスク全体のシルエットが最もよく見える位置に立地していることが分かった。

8. 景観再現分析を行う。道路ネットワークとモスクの可視性の関係を調べる。

結論として、道路の延長線上にモスク全体のシルエットが見え、都市構造がモスクの可視性の影響を受けていることが分かった。

9.結論として、スルタンは先にモスクを可視性が高い場所に建て、その後にその間を埋めるように市街地が形成されていった。そして、モスクはインフラとしての箕田はなく、そのシルエット・可視性によっても都市の発展をコントロールしていた。

 

・陣内秀信、鶴田佳子、新井勇治「GISを用いたイスラーム都市研究の手法へ」

1. 地図資料の確認作業と、作成を必要とする図面の把握。

2. 目的として、トルコ都市の特徴を抽出する。1に都市の集合システム、2に屋根形態、3に景観上の効果、4に斜面地での空間利用、この4点の関係を明らかにする。

3. 次に、都市間比較を行う。まず、トルコ国内での都市規模の差で比較を試みる。さらに、トルコ以外の都市との比較を試みる。その都市として、同じ中東地域のアラブ都市であるシリアのダマスクス・アレッポ、斜面都市での比較となるイタリア・アマルフィ、イスラームの影響を受けたスペイン・アルコスが候補となる。

4. 分析内容として、1・集合システムから、眺望・プライバシーの確保・緩衝空間の持ち方・居住密度を考察する。2・屋根形態から、ピクチャレスク・自然環境との関係・居住密度を調べる。3・景観上の効果から、建物の内と外の関係・ピクチャレスク、そして4・斜面から、住宅の立体的な使い方・緩衝空間との関係・居住密度を調べていく。

5. 住居エリアに関しては、まずオープンスペースと開口部との関係の把握で、建物の開口部率を求め、外部と内部の関係を調べる。次に、Voidによる緩衝空間の比較を行い、斜面地と平地での建て方の違い、都市間での相違性を分析する。

6. 商業エリアに関しては、1・イスタンブル旧市街のハンと斜面の関係を調べる。2・商業空間の形態比較を行う。

7.            質問や意見として、具体的な作業の内容についてのビジョンが求められる。GIS研究としての可能性について意見を得る。

    

 

3)第3回研究会 (2000年6月27日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

  午後2:00〜4:00

・浅見泰司:「8月の調査研究計画」

8月のトルコ・シリア調査研究計画の日程、予算、参加メンバー、内容などについての説明が行われる。

 

・北川賢介:「8月トルコ調査予定」

 調査予定として、イスタンブル、ブルサ、エディルネの3都市において、キュリイェの立地特性を可視性、ネットワーク上の特性、住宅との関係から調査する。

 具体的な内容として、1・ブルサでは、前回(第2回研究会・2000年5月30日)の発表で行った、卒論の分析結果に基づき、スルタンの計画したキュリイェの可視性を実地検証し、確認する。そのため、ビデオや写真による撮影を行ない、その結果で分析の修正を行なっていく。2・イスタンブルでは、地形を中心に分析を行なっているので、どの地点の可視性を対象とすればいいかなど、現地での観察点の選考を行なう。また、海上からの可視性も意識する。3・エディルネでは、前の2都市と異なり、平地での特性に着目し、都市施設を観察する。4・アレッポでは、モスクの配置などを写真に収め、立地特性の定性的な把握に努める。

 

・鶴田佳子:「アマルフィ及びトルコ都市調査計画」

調査テーマとして、1・商業エリアの構成を比較し、各都市の特徴を抽出する。2・斜面と密度の関係を探る。

調査地別の内容として、

1.アマルフィ(イタリア):商業エリアでの商業施設の接道を記録し、斜面地の居住区について調べる。

 2.イスタンブル(トルコ):グランド・バザール一帯のハン群、バラット地区での商業地、フェネル地区での斜面地における居住形態について調査する。

 3.ブルサ:都市センターの商業エリア、住宅地区の商業エリアの観察を行なう。

4.エディルネ:都市センターの商業エリアの観察を行なう。

5.アレッポ(シリア):旧市街の商業エリアの観察を行なう。

 6.ギョイヌック(トルコ):商業エリアの追加調査、居住地区での追加調査を行なう。

 

4)第4回研究会 (2000年9月20日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

  午前10:00〜12:00

・浅見泰司:「8月の調査旅行の日程概要」

8月に行なったトルコ・シリア調査の日程、予算、参加メンバー、内容などについての説明が行われる。イスタンブル工科大学のクバット教授、ブルサのウルダグ大学のNeslihan Turkun Dostoglu 教授との話合いが紹介される。

 

・寺坂昭信:「トルコとシリアの歴史的都市の比較」

1. オスマン帝国の3首都の性格−ブルサ・エディルネ・イスタンブ

首都の期間とスルタン及びそれに関わるモスク(コンプレックス)の建設順序について。敷地面積、ドーム・ミナレットの高さ。街路パターンとの関係。宮殿とモスクの立地、商業施設の立地。

都市の現代的な意義として、歴史的保存地区と観光。官庁などの政府機能。

都市の今後の発展(拡大)方向として、工業地域の拡大、オトガール(都市間バス乗り場)の整備、高速道路の整備・建設。

2. 商業地域の比較研究

伝統的な商業:バザール、ハンと中心商店街、モスクのコンプレックス。

近代的な商業:ショッピングセンター(核店舗の有無)、ブッティック街の形成。

都市の核としての商業機能(業種構成)

過去と現在でのハンの変容

中心モスクとの距離、街路パターンの分析

公共空間の比較分析、関連施設としてアーケード、ハマム、歩行者専用道路、水飲み場、広場としてのモスクの中庭など。

3.     都市の人口規模と地域性、経済発展

 

・北川賢介:「トルコ・シリア調査報告」

 調査内容として、イスタンブル、ブルサ、エディルネの3都市において、キュリイェの立地特性を可視性、ネットワーク上の特性、住宅地との関係から調査した。また、イスタンブル工科大学のクバット教授、ブルサのウルダグ大学のNeslihan Turkun Dostoglu 教授に論文を説明、意見をもらう。

具体的な方法として、ビデオ・写真撮影、文献資料の収集を行なう。

 調査内容として、1・イスタンブルでは、どの地点の可視性を対象とすればいいかなど、現地での観察点の選考を行なう。そのため、ガラタ塔、ガラタ橋、イエニ・モスク前などから、ビデオ撮影を行なう。また、海上からのポイントも行なう。注目点として、モスク周辺に近代的な6階建ての建物が建ってしまい、可視性が低くなっている。しかし、いまだにモスクをはっきりとらえることができ、シンボリック性・スケールの大きさが把握できた。2・ブルサでは、第2回研究会の発表で行った、卒論の分析結果に基づき、スルタンの計画したキュリイェの可視性を確認する。そのため、各ポイントでビデオや写真による撮影を行なった。地図上での分析と異なっていた点は、モスク周辺などで樹木が茂っており、おそらく高さも高くなっているため、可視性の妨げとなっていた。3・エディルネは、前の2都市と異なり、平地に近く、都市密度も低い。ただし、セリミエ・モスクは、やや高い場所にあり、微地形での立地性が分かり、シンボリック性が観察できた。

 今後の展望として、ブルサに再注目し、モスクの立地傾向の分析を深めていく。調査によって、地図資料として利用している20世紀初頭のブルサと現在とでは、大きく変わっており、モスクの可視性が低下している。また、街路のネットワークも近代に西欧的な都市計画となるネットワークとなっている。これらの点に留意して、分析を進めていく。

 

・鶴田佳子:「アマルフィ及びトルコ、シリア都市調査報告」

 都市における商業エリアの構成を比較し、各都市の特徴を抽出することを目的に調査を行なった。

1.アマルフィ(イタリア):旧市街における商業施設の配置を把握し、メインストリートに面する商業施設の建築形態の記録を行なう。

 2.イスタンブル(トルコ):バラット地区での商業エリアの構成について、常設店舗・

仮設店舗を確認し、週市の観察を行なう。また、バラット・フェネル地区でのバッカル(雑貨屋)の立地状況を記録する。

 3.ダマスクス・アレッポ(シリア):旧市街、新市街の商業君間の現状把握を行なう。

4.エディルネ(トルコ):都市センターの商業施設、街路を含めた商業空間全体の活動状況の観察を行なう。また、役所などで資料収集を行なう。

5.ギョイヌック(トルコ):旧市街全域の各戸屋根形態、敷地境界の確認、そして役所でのヒヤリング、及び資料収集を行なう。

 6.サフランボル(トルコ):ギョイヌックの比較事例として、チャルシュ(バザール)

   の構成を観察する。1994年、界遺産登録後の歴史的建造物の修復や街路の整備などについて、記録を行なう。

 

5)第5回研究会 (2000年11月1日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

 

  午前10:00〜12:00

 

    山下雅絵:「ダマスクスの街路ヒエラルキーについて」

ダマスクスの旧市街の地図、Plan Cadastral をパソコンデータとして入力を行ない、街路に注目して、分析を進めている。

 街路の区分として、まずは4段階に分けている。主要街路、次主要街路、小路、袋小路とし、それぞれの機能、形状、そして幅員などによって、分類している。

 次に、Plan Cadastral に描かれている住宅の境界線と壁の帰属に注目し、その新旧を推測し、街路で囲われた区域での住宅の新旧での分布の様子を描き出している。

これまでの研究成果として、まずは住宅の間口と街路のタイプとの関係を見ると、袋小路では間口平均が9230.136mm、通り抜け道では12789.136mmとなり、袋小路での住宅は小規模なものが多くなることが明らかとなった。

次に、街路の単位距離あたりの屈折度についてみると、袋小路では3.27115°/m、通り抜け道では1.2459°/mとなり、袋小路において屈折度が高いことが分かる。また、幅員との関係を加えると、幅員が広いほど屈折度が低く直線的になり、幅員が狭くなる袋小路ほど

曲がり具合が高くなることが分かる。

 

・谷田義明:「住宅からみたダマスクスの街区特性について」

 山下さんと同様に、Plan Cadastral のパソコンデータを用いて、住宅の分析を行なっている。

 まずダマスクスの住宅を中庭の配置で、O型、U型、L型、I型、I変形型の5つのタイポロジーに分けている。その住宅分布状態から街区特性の把握を試みていく。

 住宅の敷地面積が大きくなると、中庭も大きくなるが、あるレベルに達すると、中庭は複数化し、中庭一つに対する敷地の限界が読み取れる。

 次に、敷地の複雑な形状に注目し、敷地の重心位置と中庭の重心位置との距離関係について、分析を行なう。敷地形状に関しては、規模の大小によらず、不整形であるが、中庭は整形に保とうとしていることが分かる。また、規模の大きい住宅ほど、中庭を中心に平面計画をしようとしていることが分かる。

 また、ナッカシャート街区を3次元化し、空間の特性を読み解こうとしている。

 

6)第6回研究会 (2000年12月14日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

午前10:00〜12:00

 

    新井勇治:「GISを用いた都市構造の解析について」

 GISを用いた都市構造の解析についての方法論を提案する。ある任意の街路に注目し、その街路の50m、もしくは100mの距離で抽出を行なう。その街路に接する一皮の建築群を合わせて取り出し、その形状、配置の様子、種別などの分析を試みる。

 実例紹介として、ダマスクスの商業空間と住宅街の袋小路から100mの単位で街路を抽出し、街路に接する一皮の建築群の形状、配置の様子、種別などについての説明を行なった。

 

    鶴田佳子:「トルコにおけるGISを用いた都市構造の解析について」

トルコのイスタンブル、ブルサ、イズミールなどの大都市において、商業空間の街路に注目し、100m単位の距離で抽出し、分析を行なった。

ブルサでは、バザール(チャルシュ)の中でメインの通りを100m抽出する。その通りに面する、ハン、商業店舗、ベデステンも合わせて、帯状の一画について分析を進めた。

総面積、VOID率、総戸数、道路との境界線と背割り線との比率などを求め、その一角の特徴を表わす。

 

・佐藤淳彦:「ギョイヌックにおいてGISを用いた都市構造の解析について」

 トルコの山岳都市ギョイヌックにおいて、3ヶ所で街路を抽出し、分析を行なった。

まず、街路に注目し、街路の面積、屈折点、幅員、分岐路の有無について調べた。次に、

街路と建物の境界線と背割り線との比率を求め、街路の面する一皮の建物の形状や規模などについて、数値化を試みた。また、総面積、VOID率、建物用途などについて分析を行なった。

 

7)第7回研究会 (2001年1月18日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

午前10:00〜12:00

 

    鶴田佳子:「トルコにおけるGISを用いた都市構造の解析について」

まず、トルコのイスタンブルにおいて、グランド・バザールからエジプシャン・バザールにかけての賑わいを見せる一つの街路に注目し、分析を行なった。また、イズミールの

バザールのメインの通りを抽出し、考察した。

 それぞれの街路に面した一皮の建築群について検証し、心地のよい空間がいかなるものによって構成されているのか、分析を試みている。

 

    新井勇治:「GISを用いた都市構造の解析について」

 GISを用いた都市構造の解析について、ダマスクス、チュニス、フェズを取り上げ、城門と中心にある大モスクを結ぶメインの通りに注目する。その通りの総距離、形状を求め、

次に、その通りに接する一皮の建築群を取り出し、その形状、配置の様子、種別などの分析を試みる。これらの都市で、それぞれの特徴を描き出し、さらに比較することによって、

地域での特色を浮かび上がらそうと試みるが、その成果は芳しくなく、改めて目的、分析方法について検討を行なうこととなった。

 

8)第8回研究会 (2001年3月21日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて)

午前10:00-12:00

寺坂昭信:「イスラーム圏の都市と商業の一考察」

日本の城下町研究との関わりからイスラーム圏の都市構造をみる。日本の場合、城郭と商業地の空間構造と発展形態が研究されている。この観点からイスラーム地域の都市を城、モスク、スークの都市内の相互関係と国土全体の交通路との結びつきをみると、ダマスクスやアレッポは構造が見えてくる。トルコの都市の場合、城との関係で商業地の形成を見ることは難しい。

 

山下雅絵:「ダマスクス旧市街の街路特性」

 ダマスクス旧市街の迷路状の街路の特性を地図上に視覚的に表し定量的に分析する。1930年代の500分の1の地図をもとに街路網の交差点をノード、街路をリンクとしてネットワークのモデル化を行う。街路の屈曲や幅員、トンネル状街路を幾何学的分析で示す。次に、街路を形作っている住宅から街路を評価し、面する住宅入口による街路の階層化や住宅面積による街路の階層化を行う。また、街路の隣接関係を考慮し、街路上での人の流動をシミュレーションすることによって街路のアクティビティを視覚的に表現する。

 

曲渕英邦、谷田明義:「ダマスクスにおける中庭型住居集合の空間分析」

 都市を構成する最小要素を住居とし、その幾何学的形態の集積として都市の全体性を捉えてゆく。1930年代の地図中に存在する全3912軒を対象とし、その敷地面積、中庭面積、中庭数、噴水数などの指標を抽出し、その相関関係をみる。中庭外形の形態の矩計度を算出し、住宅の敷地全体に対する中庭の位置と形態を類型化する。住宅の敷地面積に対する中庭面積の占有割合は約33.5%で一定しているといえる。

 

 

2001年度研究会活動

1)第1回研究会 (2001年5月15日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて) 午後3:00-5:00

発表予定者:

 深見奈緒子: イスファハーンの都市的解析

 浅見泰司・木村隆紀: イスファハーンの歴史的建造物位置の空間推論的復元

 鶴田佳子: トルコにおける商業地域の空間的特質:他のイスラーム地域の都市との比較から

 

2)第2回研究会 (2001年7月19日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて) 午前10:00-12:00

 浅見泰司: イスタンブールの道路網からの地域的中心地推定:Space syntaxの3次元拡張(Ayse Sema Kubat、北川賢介、飯田真一との共同研究)

 

3)第3回研究会 (2001年9月14日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて) 午前10:00-12:00

 鶴田佳子: The Spatial Structure of Commercial Areas in Turkey and Other Islamic Countries (joint paper with Yuji Arai, Hidenobu Jinnai, Katsumi Shishido and Atsuhiko Sato)

 浅見泰司: Extension of Space Syntactic Idea to 3-Dimensional Surfaces and Its Application to the Historical Part of Istanbul (joint paper with Ayse Sema Kubat, Kensuke Kitagawa and Shinichi Iida)

 

4)Session7(イスラム地域研究国際会議)(2001年10月8日 カズサアークにて) 午前10:00-13:00

 

5)第4回研究会 (2001年12月17日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて) 午前10:00-12:00

 山下王世: イスタンブールのチェシュメの分析

 

6)第5回研究会 (2002年2月5日 東京大学都市工学専攻8階会議室にて) 午前10:00-12:00

 戸田健司:イスタンブールの絵地図の3次元復元

 森崎千雅:イスタンブールの街路網の分析

 北川賢介:イスタンブールおよびブルサの街路網の分析

 

研究会に出席されたい方がおられましたら、浅見(asami@csis.u-tokyo.ac.jp)へメールをお送りください。日程、場所などの詳細をお知らせします。