トルコ調査(1997年9月19日〜1997年10月6日)報告

    1. 地図・文書資料の収集
      トルコ国内における諸都市の地図を現地にて収集。精確な街区・道路ネットワーク,等高線,主な施設の位置等が記されている地図を中心に,可能な限り数多く収集した。特に,比較的局所的な調査とともに都市全域の包括的な把握のため,都市スケールでの微地形と建築の配置を再現することが可能なような地形図の収集を心がけた。時系列解析が可能なように,過去の都市図についても収集。これらの地図は,地理情報としてデータベース化する予定。
    2. 建築景観の記録
      GPS及び高度計による都市内の2,3次元の空間位置情報の収集と,それに連動した景観シークエンス(街路両面の連続立面)をビデオで撮影した。収録した画像から連続立面図を作成することができるので,特に景観分析に有用。また,建物のおよその大きさがわかるので,上記1)のデータベースと統合することによって,立体的な都市空間の表示や配置分析への展開が期待できる。ただ,GPSについては基地局の初期衛星捕捉が手間取ったこと,移動局が狭い通りの走行中に度々衛星を見失ったことなどのため相対化可能なデータを得ることは難しかった。
    3. 住居の内外調査
      トルコの典型的な住居を対象とし,住居周辺および室内を調査。トルコの都市景観の特徴ともいえる傾斜地での住空間の構成に特に配慮,以下の事項について調査した。
      (1)個々の住宅の形態実測;(2)住人からの聞き取り。部屋の使われ方や日々の生活の仕方等;(3)敷地内での家屋と庭の配し方,街路と住宅の関係,街路からの入口の取り方,隣接する住宅との関係;(4)立地条件の違い(急斜面,緩斜面,平坦な土地)により生じている相違。調査結果に基づいて,今後,配置図,平面図,立面図,断面図等を作成し,生活様式と空間構成との関連を考察する予定。
    4. トルコ研究者との共同研究に関する議論
      都市空間構成に関して,トルコの研究者との共同研究の打ち合わせを行う。

    1. サフランボル
      サフランボルでは伝統的家屋が良く保存されている旧市街と近代的な建物も並ぶ新市街がやや離れて存在。旧市街の古い邸宅はホテルなどに転用されているが,内部の構造は比較的そのまま利用されている。新市街の一部にギリシャ系の人々が最初に開発した所があり,石製の窓枠や扉枠などがあって,やや趣が異なる。伝統的なトルコの町並みが残るこの都市は,街道をはさんだ二つのまちによって構成され,一方は南北方向に走る谷底にあり,他方は高台にある。谷底のまちでは,谷筋に沿って都市の中心施設が展開しており,それを谷の斜面にある住宅群が取り囲んでいる。伝統的なトルコ民家の住居形式において,地面に接する階は積石像の閉鎖的な空間であるが,張り出しのある上階に上がると,住宅が斜面地にあるために,窓からは谷全体を見渡せるような美しい眺望が得られる。
      サフランボルに住む古くからの住民は,夏の地区と冬の地区とに生活拠点をもつ。両地区の中間に位置するクランキョイは新興地区で,アパートなども目につく。比較的新しい住民については,一つの家をもつ者が多い。但し,サフランボルに限らず,トルコの人々は,(その移動距離には大きな差があるが)概して通常住む家と夏の家とを持っている,あるいは持ちたいと思っている。旧市街より丘を上がったところに,夏季用住宅地がある。
    2. アンカラ
      中東工科大学都市地域計画学科の教官と会談。アンカラ大市庁の都市計画事務所で,建築局長と会談。アンカラのゲジュコンドゥ関連文書の複写をもらう。現地事務所にて,
      Sentepe(シェンテペ)という再開発地区(525ha程度)についてきく。1986年に法律で国と土地に不法占拠していた住民に400平方メートルを上限として土地を譲渡した。ただし,都市計画に適合しない者については,代替地または金銭清算にて対処。
      カレの調査。ゲジコンドウ付近ではスケールを除きサフランボル下村と似た空間構成。近年アンカラでは建てられたモスクの下に大規模なショッピングセンターを併設。この形式は,上野のアメ横や築地本願寺の門前市場でもみられ,その共通性やアジア的要素を探りだすことも必要と思われる。外観を確保しようとするトルコのモスクと,外観は重視せず内部の神聖さにより重点をおいたアラブのモスク(アラブの商業空間では,店舗はモスクの外壁を覆い隠すように建ち並び商業空間に埋没させるかのよう)とのスタイル相違が現れている。
    3. イズミール
      Sirince(シリンジェ): ギリシャ系の人々が住み着いて作った街らしく,建物の作り方が多少異なる。
      イズミールのカレ付近
      Kale(城)付近には,勾配を調整した蛇行形の幹線道とそこをアミダくじ状につなぐ急勾配の歩道。調査中,子供たちが多くついてきた。子供の縄張りがあるらしく,ある境界を越えてはついてこない。家は斜面地のため,通りから階段で上って住戸に入る形式が多い。通りのいくつかはジャーミーのミナレットが見えるように配置されている。
      イズミールのバザール: 海岸近くの平地に扇形で展開し,そこからカレ(城塞)のある高台に向けての斜面に住宅地が広がる。中核にモスクがあり隣接してチェシュメ(公共の泉)を中心とした広場では,生鮮食料品を扱う店が建ち並ぶ。聖と俗をレベルによって分離する合理的な空間。モスクは1階レベルに店舗が組み込まれ,2階以上が礼拝空間。
    4. バルケスィル
      Taskoy(タシュキョイ): 20戸,住民170180人程度の小さな村。周辺で,トウモロコシ,ブドウ,オリーブなどを栽培し,農業で生計を立てている。西瓜,たばこ,小麦,大麦,トマトも栽培。毛織物の機械は約40年前まであった。
      Pasakoy(パシャキョイ):家族120戸,住民1300 ほど。メロン,小麦,大麦,トマト,とうもろこし,そら豆を栽培。家畜は羊,乳牛。近所に紙の工場ができたため人口は増加。外から移住してくる労働者には借家人もいる。壁で仕切られている古い農家の中を見せてもらう。この村で最も古い家。旦那さんの母親,旦那さん,奥さん,2人の子ども(男女)が生活。農場はやや離れた所にある。門と塀に一体となった部分に旦那さんの母親が寝起きする寝室と昼間に一服する部屋があり,中庭を挟んで反対側に家族の部屋がある。井戸やパン焼き用のかまどもあるが,今は使われていない。
      Degirmen(デイルメン)1945年まで旧名:Persi koy):家族300戸,住民12001500人。メロン,小麦,ごま,綿花,たばこ,甜菜を栽培。家畜は羊,山羊,乳牛。近くに硼砂(Boraks)の鉱山がある。モスク2つ。新しい方のモスクおよび新しい小学校は,ドイツ帰りでハッジ(メッカ巡礼)にいった人が建てたもの。マアラとよばれるほら穴(ギリシア人がたてこもって,村を監視していたという)が斜面の頂上にある。緑も多く,豊かそうな村。その村が所有しているDoganciと呼ばれる農地を見に行く。村よりも低い位置にある。川あり。古い地図には「ドアンジュ農場」と,記されていた。現在は個人所有の耕作地。かぼちゃ,すいか,メロンが少しだけなっていたが,すでに収穫はすんだようだ。ドイツに出稼ぎにいって帰村した人も多い。
      バルケスィル大学にて,測量学の教授,学科長と会見。学部長とも会う。歴史的な建造物の保存を大学でやっており,建造物に関する資料の複写をさせてもらう。市庁舎にて,副市長に表敬訪問後,建築技師に会い,地図をもらう。
    5. ブルサ
      ブルサは,オスマンの首都だった古都で,趣のある場所が多い。オスマン建国者,およびその子孫の墓を見学。ウルジャーミーとその周辺のバザールの集積地を見る。ハン(隊商宿跡)がいくつも集まっている。ウルジャーミーはかなり大きなジャーミー。付近に古い住宅群も。
      ブルサの市役所にて,都市計画局長と会見。現在
      GISを導入中。ブルサ大都市圏では3つの地域に分かれ,細かな計画はそこで行っている。25,000分の1および5,000分の1の地図でマスタープランを作成し,1,000分の1の地図で各地域でapplication planを作成する。バザールの地区は1958年に大火があり,かなり焼失。市ではブルサに関連する文献を収集しており,図書館でリストを閲覧できる。都市計画課長に会い,地図をもらう。ブルサの人口は120万人。Kacakと呼ばれる許可なし建築移住者が半分くらいもいる。都市情報システム・コンピュータセンター課長らに会う。航空写真をディジタイズしている。地方自治体では,建物税とごみ税が税収の主なものなので,特に建物の測量が重要。建設業者がGPSのデータを提出して,データをとることも。統計局による人口調査は5年毎にあり,それによってもデータ更新する。GISデータのベースマップは1,000分の1で,場所によっては5,000分の1を用いている。ほとんどの市街地地図は1000分の1がベース。
      ブルサの商業空間: 都市の中では,ヒサ−ル地区の東側の緩い斜面地で,住宅地の展開する斜面の麓に位置する。ハーン,ベデステン(現在の貴金属バザール),ハマム,チャルシュ(バザール)などの配置と斜面との関係,ハ−ン,モスク,ハマム等の微妙な角度を振った配置,現代での使われ方に変化がみられる施設を調査。
    6. イスタンブール
      イスタンブール工科大学にて,クバット教授と面会。プロジェクトの概要,必要な情報,共同研究について話し合う。道路ネットワーク,住宅地の空間パターン研究を説明。
      リモートセンシングデータは
      10mの精度でイスタンブール全域をそろえると約15,000ドルかかる。1997年末までに3850枚の地図がそろう。航空写真をディジタイズした地図が1/4000の縮尺であるらしいが,イスタンブール全域で600億リラ。建物,所有関係,地形,交通ネットワーク,市街化地域,建物高さなどのデータはイスタンブール市で所持。
      イスタンブール市役所にて,空間データの責任者に話を聞く。地籍図(道路,建物,公共用地),地形図,地区詳細図などもある。等高線図は軍の許可があれば提供可能。
      1/50001/1000がある。歴史的建造物地区の修復プロジェクトの図面をもらう。
      イスタンブール工科大学の土木学部リモートセンシング学科へ。彼らのロシア助成の研究の一端を見せてもらう。データをトルコ国外に出せないので,ロシアの研究者もトルコで研究を行う。
      10resolutionSpotデータ(白黒)と30resolutionTMデータ(7バンド=カラー)をmergeしてデータを作成したとのこと。
      商業空間: 斜面地のハ−ンがグランド・バザ−ル〜エジプシャン・バザ−ルにかけて展開。問屋街の地区で,ハーンの立地条件(平地と斜面)による街路との関係,形態の違い等を観察。その中庭レベルと外側の街路のレベル差が数メートル以上あるものが多い。平地のハーンは,海岸沿いのリュステムパシャ・モスク周辺中心,斜面では,ヴァリデ・ハーンなど主要なハ−ンの建ち並ぶ街路中心に立地。両タイプのハーンも,基本的には中庭をもち,2階に中庭に面して回廊を巡らす伝統的形態。しかし,両者の間には中庭面積と高さとのプロポ−ションに違いが有る。商業地のモスクで,イズニックタイルを用いた美しい内壁をもつリュステムパシャ・モスクは,2階レベルに礼拝空間をもつ。周辺は1階地面レベルで,問屋や小売店が建ち並ぶ狭い街路で,人・車の往来の激しい活気溢れるエリア,2階はモスクのある聖域。

[参加メンバーの記録より]