「グローバル化過程における開発と民主化」報告書

 1998年6月27日(土)に上智大学において「グローバル化過程における開発と民主化」をテーマとするシンポジウムが開催された。本シンポジウムは、「イスラーム地域研究」プロジェクトと上智大学大学院地域研究専攻との共催で行われた。土曜日にもかかわらず、200人以上の参加者を得、活発な討論が行われた。
 以下に全体的な報告の要旨をまとめておく。詳細は当日、配布されたレジュメを参照されたい。

報告は、次の3名の方よりなされた。

(1)Temario C. Rivera氏(フィリピン大学教授、国際キリスト教大学客員教授)
"Globalization, Development and Democracy toward the 21st Century:Perspectives from Asia"
(2)Hayder Ibrahim Ali氏(スーダン研究センター:Sudanese Study Center)
"Civil Society and Democratization in Arab Countries with special reference to the Sudan"
(3)Renatebrigitte Viertler氏(サン・パウロ大学教授)
"Development, Democratization and Globalization: What will be the Future of Brazilian Indian Tribes?"

 3つの報告では、それぞれフィリピン、スーダン、ブラジルを事例にした民主化と開発に関する問題提起がなされた。続いて、佐藤次高氏(東京大学教授)と松尾弌之氏(上智大学教授)の二人よりコメントがあり、その後フロアーの方も交えて活発な討論会が行われた。
 テーマが現代的課題と密接な関係にあり、かつインドネシア情勢の激変などの政治変動の影響もあって、本シンポジウムへの参加者たちの関心は非常に大きかった。とくに東南アジアや中東における開発と民主化の問題にイスラムがどのように関わるのかは、議論の中心を占めた。それは、次のように要約される。グローバル化は何よりも資本主的経済発展によって地球上の隅々までが緊密な結びつきを持つようになった。それは、形式的な面だけからみれば「民主化」運動を全世界に押し進めることになったが、実態を検証していくとそのグローバル化や民主化は、マイナスの側面をたくさん伴っていることがわかる。第一に、貧富の拡大を促進したこと。第二に、開発に伴い環境破壊が著しいこと。とくにマイノリティの生活環境は大きな変化を強いられた。第三に、独裁的な権威主義体制は残されたこと。
 これらが大きな論点であったが、イスラムという宗教・思想が関係すると、ことはより複雑になり、明確な議論の整理や結論は出せなかった。逆説的に言えば、だからこそ21世紀のアジア、中東、アフリカの諸問題はイスラム抜きでは理解しえないのである。
 なお、Hayder Ibrahim Ali氏の報告は、今年中にワーキング・ペーパーの形で発表される予定です。(私市正年)