「スーフィズム研究動向研究会・5-a聖者信仰研究会合同研究合宿」報告書
2班Cグループ、スーフィズム研究動向研究会と5班Aグループ聖者信仰研究会は、今年度の研究合宿を下記のとおりに催しました。今回はプロジェクト代表の佐藤次高先生(東京大学)と5班代表の後藤明先生(東京大学)にもお越しいただき、盛会とすることができました。研究合宿での議論はメイリングリストi-saintなどを通して深め、今後も持続的に研究会を主催していく予定でおります。

研究発表のレジュメについては、このページ上に近日中に掲載いたします。読書会のレジュメを御希望の方は高岡まで御連絡ください。

[会場]財団法人 大学セミナー・ハウス内国際セミナー館A室

[日時]1998年8月26日(水)〜27日(木)

[スケジュール]
1998年8月26日(水/大安)(第1日目)
時  間 活   動   内   容
13:30〜15:00 <書評会>
神秘主義聖者伝とペルシア文学
発表者:藤井守男(東京外国語大学)
評者:佐藤次高(東京大学)・東長靖(京都大学)
司会:鎌田繁(東京大学)
ファリード・ゥッディーン・ムハンマド・アッタール
『イスラーム神秘主義聖者列伝』
(訳)藤井守男、国書刊行会(1998)
15:15〜16:00 <読書会1>
"Osman Bin Bakar "Sufism in the Malay-Indonesian World",
Seyyed Hossein Nasr(ed.), Islamic Spirituality, N.Y.(1991) pp.259-2
報告者:服部美奈(岐阜教育大学)
司会:今松泰(神戸大学大学院)
16:00〜16:15 質疑応答
16:30〜17:30 <概説>
イスラーム化以前のジャワ―古代ジャワのシヴァ教と仏教―
発表者:石井和子(東京外国語大学)
コメンテーター:石澤武(東京大学大学院)
司会:後藤明(東京大学)
17:30〜18:00 質疑応答
19:30〜20:30 <研究発表1>
サライ・アルバムに描かれた奇人集団とスーフィー的様相
発表者:ヤマンラール水野美奈子(東亜大学)
司会:八木久美子(東京外国語大学)
20:30〜20:45 質疑応答

1998年8月27日(木/赤口)(第2日目)
時 間 活    動   内   容
9:00〜 9:45 <読書会2>
A.Popovic & G. Veinstein (eds.), Les voies d'Allah: Les ordres mystiques dans le monde musulman des origines a aujourd'hui, Paris: Fayard, 1996. 第4部第13章
Jean-Louis Triaud "La Libye," pp.409-412,
Constant Hames "La Mauritanie," pp.413-416.

報告者:赤堀雅幸(上智大学)
司会:黒岩高(東京大学大学院)
10:00〜11:00 <研究発表2>
預言者ムハンマドのフォークロア:北インド・ムスリム社会の場合
発表者:小牧幸代(京都大学)
コメンテーター:斎藤剛(東京都立大学大学院)
司会:小西則子
11:00〜11:30 コメント・質疑応答

[発表要旨]

合宿開催前にi-saint上で配布したものです。当日配布されたレジュメは順次掲載していきます。

書評会「神秘主義聖者伝とペルシア文学」

発表者:藤井守男(東京外国語大学)
評 者:佐藤次高(東京大学)・東長靖(京都大学)
司会:鎌田繁(東京大学)

 今年6月末に、ペルシア詩人でもあるアッタールのTadhkirah al-Awliya'の、ペルシア語原典からの本邦初訳が刊行されました。アッタール著(藤井守男訳)『イスラーム神秘主義聖者列伝』国書刊行会、1998年(本体価格3,900円)がそれです。イスラームの聖者研究やスーフィズム研究にとって重要だと認識されつつも、触れる機会の少なかった著作が、日本語で読めるようになることの意義は、いくら強調しても強調しすぎることはないと考えます。

 今回の合同合宿では、出版されたばかりのこの著作をとりあげて、書評会を催す予定です。まず、訳者の藤井守男先生(東京外国語大学)をお招きして、翻訳の意義や苦労話などを「神秘主義聖者伝とペルシア文学(仮題)」と題してお話しいただきます。その後、スルタン・イブラーヒーム伝説の研究などで、列伝を幅広く使ってこられた佐藤次高先生(東京大学)に、歴史学の立場からコメントを頂きます。思想研究の立場からは、東長靖(京都大学)がコメントを予定しております。(文責・東長、一部を赤堀が改変)  

概説「イスラーム化以前のジャワ―古代ジャワのシヴァ教と仏教―」

発表者:石井和子(東京外国語大学)
コメンテーター:石澤武(東京大学大学院)
司会:後藤明(東京大学)  

 東南アジアへのインド文明の伝播は西暦紀元の初期にはじまったといわれているが、その影響が明確になりインド文化全体を組織的に受容したのは4−5世紀であった。

 ヒンドゥー教は5世紀、また仏教は6世紀頃すでにジャワ島に伝わったとみられるが、年代が確認されるのは8世紀をまたねばならない。

 他の東南アジアの国々と同様、古代ジャワにおいて王は地上における神の化身、宇宙パワーの体現者とみなされていた。王はその支配権の確立のために宗教的権威を媒介として自らを正統化しなければならなかった。ジャワへ伝わったシヴァ派のヒンドゥー教、すなわちシヴァ教と仏教が王権とのかかわりのなかでどのような関係を持ったかを、シャイレーンドラ朝(8−9世紀)の仏教受容とボロブドゥール、13世紀のシンガサリ朝クルタナガラ王の「シワ・ブッダ」信仰、そして14世紀マジャパイト朝期の「シヴァ」と「ブッダ」の共存に焦点をあてて概説し、15世紀以降のジャワにおけるイスラーム化を考える材料としたい。  

研究発表1「サライ・アルバムに描かれた奇人集団とスーフィー的様相」

発表者:ヤマンラール水野美奈子(東亜大学)サライ・アルバムより
司会:八木久美子(東京外国語大学)

 トプカプ宮殿美術館所蔵の4冊の画帳(muraqqa)(H.2152,2153,2154,2160) にはスーフィーの形相あるい諸神秘主義教団の慣習を描いたと思われる14世紀ー15世紀の絵画が残されている。

 今回の発表ではH.2153,2160の作品の中から、Siyah Kalem のサインが残されている奇人集団のスーフィー的様相について検討したい。トルコの美術史研究者Emel EsinとBeyhan Karamagarali による神秘主義教団説を紹介しながら、奇人達の奇怪な形相、持物、衣裳、行為が何を意味し、何を象徴しているかを再考したい。

 **スーフィズム研究者の方々から諸神秘主義教団の秘儀、特有なシンボル、装束、色彩、什器類などに関してコメントをいただければ幸いです。  

研究発表2「預言者ムハンマドのフォークロア―北インド・ムスリム社会の場合」

発表者:小牧幸代(京都大学人文科学研究所)
コメンテーター:斎藤剛(東京都立大学大学院)
司会:小西則子

 今世紀の人類学は、「フォークロア」につきまとう「過去の残存」という静態的な歴史観を廃棄し、いかにして動態的な視点から現代に「生きる」フォークロアを説明するかに専心してきた。フランスの民俗学者ファン・ヘネップが述べるように「創出と変容の才は特定の時代、特定の民族の専売特許ではない(関一敏訳)」のであり、世界各地のフォークロアは周囲の状勢を色濃く反映させながら生き物のように姿や体裁を変え続けている。

 本発表では、こうした観点から、まず最初に北インド・ムスリム社会で観察される預言者ムハンマドの「言行」に由来する幾つかの年中行事について事例報告を行う。次に、19世紀前半以降にインド各地から報告された同様の行事を紹介する。そして、過去150年にわたって預言者をめぐる行事が被ってきた変化の過程を検証したのち、現代インドにおいて「預言者ムハンマドのフォークロア」がもつ意味を、イスラーム聖者信仰、イスラーム復興主義、そして「近代化」との関係において考察する。

研究合宿コーディネーター

赤堀雅幸(上智大学、5-a)
斎藤剛(東京都立大学大学院)
高岡豊(上智大学大学院)
東長靖(京都大学、2-c)
森山央朗(東京都立大学大学院)

スーフィズム研究動向研究会・聖者信仰研究会合同メイリングリストi-saintへ参加を希望される方は赤堀まで御連絡ください。