国際ワークショップ「中東・アフリカにおける奴隷エリートの比較研究」

(総括班、2班、6班共催。於:東京大学東洋文化研究所、1998年10月10〜11日)

[報告者]アフマド・スィキンジャ (Ahmad Alawad M.Sikaingat)
オハイオ州立大学歴史学科助教授
[報告テーマ]
"Comradesin Arms or Captives in Bondage?: Sudanese Slaves in the Turco-Egyptian Army 1821-1865"
「戦友か捕虜か?──トルコ・エジプト軍における『スーダーニーSudani』奴隷)

 上記ワークショップでは、スィキンジャ氏以外にも報告がおこなわれたが、ここでは2班により招聘された同氏の報告についてのみ紹介する。
 19世紀スーダンにおける奴隷出身兵士(ジハーディーヤJihadiya)に関しては最近幾つかの興味深い研究が現れているが、たとえばその中のRichard Hillらの研究がジハーディーヤのマムルークMamlukとの連続性、「エリート性」を強調する傾向を持つのに対し、スィキンジャ氏の報告はジハーディーヤがあくまで「奴隷」として蔑視され、搾取されていた側面をより強調するものであった。また、南部・ヌバ山地出身の「黒人」奴隷を中心に軍を建設するというムハンマド・アリー政権の政策が一種の「人権」概念によって支えられており、これがのちにイギリス植民地当局によって継承されて(特定の人種が特定の労働に適しているという概念に基づく)「人種政策」に発展していく、という興味深い指摘もなされた。スィキンジャ氏の報告は、近年盛んになってきた近代中東における軍事力の編成のあり方に関する研究(たとえばムハンマド・アリーによるエジプト軍建設に関する研究)と、アフリカにおける奴隷制をめぐる研究が交差する地点に位置するものであるため、中東あるいは西アフリカを専門とする他の参加者の関心を集め、活発な質疑応答がおこなわれた。