15  インド哲学仏教学

1.研究室の活動の概要
 本専修課程は、1879年、和漢文学科に「仏教典籍」の講義が設けられたことを源流とし、1916年に「印度哲学」の講座が誕生したことに端を発する。以来、現インド語インド文学専修課程と密接な関係を保ちつつ、現在に至っている。本専修課程では、インドの哲学・宗教思想、およびインドにおいて発生・展開し、またアジア諸地域に伝播してそれぞれに独自の展開を遂げてきた仏教の研究・教育が、包括的・有機的な展望のもとに行われている。2003年度現在、教員は教授3名、助教授2名、助手1名である。
 大学院人文社会系研究科においては、本専修課程は、アジア文化研究専攻の中のインド文学・インド哲学・仏教学専門分野(南アジア・東南アジア・仏教コース)に対応し、その一部を構成する。そこでは、インド語インド文学専修課程や東洋文化研究所の関連部門などと連携しながら、より広い視座に立って、インドの諸思想及び仏教についての専門的な研究・教育が進められている。
 本専修課程への教養学部からの進学者は、毎年5名前後であり、学士入学者も1~2名ほどある。学部卒業生の多くは、大学院のインド文学・インド哲学・仏教学専門分野に進学する。また、他専修課程や他大学(外国の諸大学を含む)を卒業して同専門分野に入ってくるものも稀ではない。教育上は、学生たちがそれぞれに、サンスクリット語・パーリ語・チベット語・古典中国語などの修得を基礎として、関心を持つ問題を主体的に追求していくことを基本方針としているから、結果的には、本専修課程および当該専門分野において取り扱われる研究対象や研究方法は極めて広範囲に亘る。しかし、研究方法に関して文献学的な厳密さが要求されるという点は、共通である。そのために、卒業論文の代わりに特別演習を取って卒業することも認めている。これは教員の指導の下に指定された基本的な原典を自ら読解し、基本的な読解力を養おうというものである。
 本専修課程は、インド語インド文学専修課程と共同で、年に数回研究例会を開催している。そこでは、大学院の博士課程在学生などによる研究発表、国際会議等で海外に出張した教員による帰朝報告、海外留学者の体験報告などが行われており、研究・教育上の意義は大きい。また、本研究室における諸研究を公表する媒体として、1993年以来、原則として年に1回、『インド哲学仏教学研究』が刊行され、好評を得ている。
 本専修課程が関わるインド学・仏教学は、それ自体が高度の国際性を帯びていることもあって、研究者間の国際交流は極めて活発である。また、多くの留学生を海外に送り出すとともに、海外から多くの留学生を迎えている。さらに、内外の所学会との繋がりも緊密である。中でも、海外にも多数の会員を持つ日本印度学仏教学会は、1951年の創立以来関係が深く、2007年度まで本研究室にその事務局をおいていた。

2.構成員・専門分野
 (1)在職者一覧
    教授 末木 文美士  専門分野 日本仏教  在職期間 1986年4月より現在に至る
    教授 斉藤 明    専門分野 インド仏教 在職期間 2001年4月より現在に至る
    教授 丸井 浩    専門分野 インド哲学 在職期間 1992年4月より現在に至る
    教授 下田 正弘   専門分野 インド仏教 在職期間 1994年10月より現在に至る
    助教 種村 隆元   専門分野 インド仏教 在職期間 2005年4月より現在に至る

 (2)2006-2007年度の助教の活動
    種村 隆元
     在職期間:2005年4月から現在
     研究領域:インド密教
     主要業績
     a. 学術論文
     Ryugen Tanemura. ``M.rtasugatiniyojana: A Manual of the Indian Buddhist Tantric Funeral.'' Nepalese-German Manuscript Cataloguing Project (NGMCP) Newsletter, No.4, 2007, pp.2--6.
     種村隆元.「密教はなぜ顕教より優れているのか?:ジュニャーナシュリー作『金剛乗に関する二つの極端の排除』について」『現代密教』2008年?月, pp.145--155.
     Ryugen Tanemura. ``Justification for and Classication of the Post-initiatory Carya in Later Indian Tatric Buddhism.'' International Journal of South Asian Studies 1, 2007, pp.53--75. (appeared in 2008)
     b. 研究活動
     「インド密教におけるcaryaの文献学的研究」科学研究費補助金2006年度,2007年度 基盤研究(C) 課題番号 18520040
     c. 国際学会における発表
     2006年9月5日--8日 International Conference on Esoteric Buddhist Studies(於高野山大学)発表題目:Somer Remarks on Buddhist Tantric Carya
     d. 学外活動(他大学講師)
     2006年度,2007年度 武蔵野大学通信教育部
     2006年9月--3月 二松学舎大学国際政治経済学部
     2007年度 東京農業大学農学部

 (3)2006-2007年度の外国人教師の活動
      なし
 (4)2006-2007年度に受け入れた内地研究員・外国人研究員
  2006年度:John McRae 李慈郎 蔡澤洙 徐潾烈 Mark Blum
  2007年度:John McRae 李慈郎 蔡澤洙 徐潾烈 Mark Blum

3.卒業論文等題目
 (1) 卒業論文
     2006年度
      卒業論文による卒業生なし
      特別演習:ウパテーシャサーハスリー、バガバッドギーター、インド文献史(英文)、アビダルマコーシャバーシャ、大乗起信論、八宗綱要、その他の書物のうちから、3科目選択
     2007年度
      「<方便>に関する一考察---『法華経』方便品をめぐって---」
      「清沢満之における絶対無限と相対有限」
      特別演習:ウパテーシャサーハスリー、バガバッドギーター、インド文献史(英文)、アビダルマコーシャバーシャ、大乗起信論、八宗綱要、その他の書物のうちから、3科目選択

    (2) 修士論文
   2006年度
    市川直史「シャーリカナータの錯覚論:『プラカラナパンチカー』ナヤビーティー章を中心として
    <指導教員>丸井浩
    吉次通泰「『チャラカサンヒター』に関する研究:感覚機能篇(インドリヤスターナ)を中心にした古代インドの終末期医療」
    <指導教員>永ノ尾信悟
    植木夕紀子「Harivamsaの形成過程とyuga説」
    <指導教員>土田龍太郎
    大西 紀「西田天香の研究」
    <指導教員>末木文美士
    柳 幹康「中国における『楞伽経』の受容と展開:禅宗を中心として」
    <指導教員>末木文美士
    一色大悟「ヴァイバーシカ(毘婆沙師)の四種縁起説について:『倶舎論』を中心として」
    <指導教員>斉藤明

   2007年度
    武田信光「『円覚経』の思想と宗密による受容」
    <指導教員>末木文美士
    日野慧運「金光明経における神々の働きについて」
    <指導教員>下田正弘
    岩崎陽一「新ニヤーヤ学派における文意認識論の解明」
    <指導教員>丸井浩
    日比真由美「ヴァイシェーシカ思想体系におけるアドリシュタ(不可見力)概念の諸相」
    <指導教員>丸井浩
    石原美里「Vasu Uparicara説話とIndramahotsava」
    <指導教員>土田龍太郎

 (3) 博士論文
   2006年度
    志田泰盛「インド論理学派における真知論(praamaa.nyavaada)の展開」
    <主査>丸井浩<副査>斎藤明・一ノ瀬正樹・永ノ尾信悟・若原雄昭
    藪内聡子「中世スリランカの王権と仏教」
    <主査>下田正弘<副査>斎藤明・土田龍太郎・水島司・橘堂正弘
    堀内俊郎「世親の大乗仏説論-『釈軌論』第四章を中心に-」
    <主査>斉藤明<副査>下田正弘・末木文美士・永ノ尾信悟・佐久間秀範
   2007年度
    金 天鶴「日本華厳思想の研究―平安期の華厳私記類を中心として―」
    <主査>末木文美士<副査>斉藤明・下田正弘・石井公成・木村清孝
    新田智通「過去仏思想の意味――「大譬喩経注」を手がかりとして」
    <主査>下田正弘<副査>斉藤明・土田龍太郎・丘山新・森祖道
    村上徳樹「唯識思想と自己認識理論に関するケードゥプジェ解釈の研究」
    <主査>斉藤明<副査>丸井浩・下田正弘・上田昇・福田洋一




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