12  東洋史学

1 研究室活動の概要
 1904年に漢学科から独立した支那史学科は中国以外の東洋も研究対象とする実状にあわせて、1910年に「東洋史学科」と改称された。支那史学科の時代から数えれば、本専修課程は100年以上の歴史をもつ。当初は中国およびその周辺の西域・北アジア史が中心であったが、次第にその対象は東南アジア、南アジア、西アジア、中央アジアに広がっている。現在(2008年度)本専修課程の授業を担当するのは、教授4名・准教授3名・助教1名(他研究室の教員を含む)と複数の非常勤講師であり、東は中国から東南アジア・インドをへて西は北アフリカに至る広い範囲をカバーしている。
 本研究室の教員は、1995年4月の大学院部局化に伴い、大学院人文社会系研究科に所属することとなった。同研究科の再編が、従来のディシプリンを主にした研究教育に、ディシプリン横断型の研究を加味する形で行なわれたため、従来の人文科学研究科東洋史学専攻は人文社会系研究科アジア文化研究専攻の一部となり、東アジアコース、南アジア・東南アジア・仏教コース、西アジア・イスラム学コース、の三コースに分かれて、それぞれの「歴史社会」専門分野へと再編された。従って現在は、大学院でそれぞれの地域の文学・思想文化を専攻する教員との緊密な連繋のもとに研究教育を行うと同時に、学部では従来の「東洋史学」の広い枠組みのもとに研究教育を行う、という多層的構造となっている。大学院の各歴史社会専門分野においては、韓国朝鮮文化研究専攻および東洋文化研究所・総合文化研究科の教員あわせて10名の協力を仰ぎ、多彩なカリキュラムの編成を行っている。
 各教員による通常の研究・教育活動のほか、研究室全体として関わっている活動としては、史学会の運営があげられる。歴史文化学科の他専修課程と共に、理事として運営に参加し、『史学雑誌』その他の出版物の編集にたずさわるほか、史学大会においてアジア史関係のシンポジウムを組織するなどの活動を行っている。
 他には、東洋学・アジア研究連絡研究会議、東方学会や東洋文庫のように広域かつ多分野にわたる学会・研究所での活動にたずさわり、また個別的には、中国社会文化学会、南アジア学会、東南アジア史学会、日本オリエント学会、日本中東学会のような地域ごとの学会に加わって、その運営に重要な役割を果たしている。
 本研究室の特色のひとつは、多数の留学生の存在である。しかも研究する対象が留学生にとっての自国史である場合が多いため、高度の知識をもって日本人教員・学生を啓発してくれることが多い。したがって、演習などにおいても、研究室の日常活動においても、学生レベルの国際交流が自然な形で行われている。現在、本研究室には、学部・大学院を含め、中国・台湾・韓国・トルコなどの留学生(大学院生、研究生)が在籍しており、大学院博士課程の日本人学生も殆どが留学中ないしは留学経験者である。さらに外国人研究員として本専修課程の教員の下で、あるいは共同研究を行う外国人の優れた研究者も多く、研究室は狭義の歴史研究にとどまらないアジア理解の場として、活況を呈している。

2 構成員・専門分野
 (1) 教授・准教授・講師
     教授  桜井 由躬雄(東南アジア史)(1990年4月~2007年3月)
     教授  蔀 勇造(西アジア史)(1991年4月~現在)
     教授  小松 久男(中央アジア史)(1995年~現在)
     教授  岸本 美緒(中国明清史)(1989年4月~2007年9月)
     教授  水島 司(南アジア史)(1997年10月~現在)
     准教授 吉澤 誠一郎(中国近現代史)(2001年4月~現在)
     准教授 大稔 哲也(西アジア史)(2007年4月~現在)
     講師  李 承律(中国古代史)(2003年4月~2008年3月)

 (2)助教の活動(2006-2007年度)
    志賀 美和子
     在職期間 2005年4月~現在
     研究領域 南アジア近現代史
     主要業績
       「『周縁』から見るインド近代史」『歴史と地理』(山川出版社)596号、2006年8月、33-37頁。
       「タミル・ルネッサンス-タミル人意識の源流」世界歴史体系南アジア3『南インド』(山川出版社)、2007年1月、298-306頁。
       「マドラス州における非バラモン運動の展開-共産主義運動との関係を中心に」『東洋文化研究所紀要』(東京大学東洋文化研究所)第151冊、2007年3月、321-480頁。
       「南インド・マドラス州の労働運動(1918-39年)にみる労働者の自立化」『歴史学研究』(歴史学研究会)827号、2007年5月、15-31、60頁。
       「労働争議における植民地政府の役割―1918~33年マドラス州の場合」『アジア経済』(アジア経済研究所)第48巻第10号、2007年10月、2-25頁。

 (2)外国人教師の活動(2006-2007年度)
該当者なし

 (4)受け入れ研究員(2006年-2007年度)
     禹成旻(韓国)  2004年4月1日~2006年3月31日
     李文良(台湾)  2006年8月1日~2007年7月31日
     李培徳(中国香港)2007年4月5日~2007年4月21日
     欧素瑛(台湾)  2007年6月20日~7月20日
     尹誠翊(韓国)  2007年8月1日~2008年8月25日
     呉文星(台湾)  2007年8月25日~9月10日


3 卒業論文等題目
 (1) 卒業論文題目一覧
     2005年度
      マムルーク朝の軍事技術-弓術を中心に-
      戦間期インドにおける産業金融-綿業の視角から-
      劉向「列女伝」と正史からみた漢代女性像―「列女伝」著述の意図をめぐって
      「スキタイ=シベリア世界論」再考
      13世紀中葉の高麗における金俊政権の性格について
      サイード・ビン・スルターン治世期におけるブー・サイード朝艦隊-1820-40年代を中心に
      戦後国民政府期における京浥地区に対する石炭供給網
      三国期の士人と名声
 
     2006年度
      西魏―北周の周礼主義
      巨文島事件の歴史的考察
      初期イギリス東インド会社によるインド長距離内陸交易についての一考察
      『日書』の成立過程と地域性 ―九店楚簡『日書』を中心にして―
      ハンニバルの象 ―ヘレニズム時代前半における象の利用の歴史的背景―
      清末津通鉄道提議について ―鉄道資金調達と海軍の資金繰り―
      スティーヴンソン計画下におけるマラヤのゴム栽培業者の見解に関する考察
      新疆建省時期のイリ・タルバガタイ地方における統治制度の再編
      フランス人宣教師デュボアのインド人改宗論に関する一考察
      政治的言説としての「失われたイスラエル十部族」
      カリフ ムータシム期のサーマッラー ―都市計画を中心として―
      インドの鉄道建設初期におけるコントラクター制に関する一考察
      中国の幣制改革前夜における金融政策―上海における産業融資を中心に―

     2007年度
      始政四十周年記念台湾博覧会と台湾社会
      パレスチナにおける「不在者財産」に関する法制度の変遷と土地制度
      1920年代中央アジアのボガラ村落について
      (株)京城株式現物取引市場の運営の実態 ―営業報告書の分析を中心に
      植民地朝鮮のラジオ
      太平天国における「妖魔」の概念について
      アヘンをめぐる在華欧米人の立場
      日本人の中国女性観 ―20世紀初頭を中心に―
      移民労働力とニューカレドニア社会
      蒋廷黻の対ソ連・中国共産党認識
      西周王朝の支配構造 ―封建の本質と実態について―


 (2) 修士論文執筆者・題目一覧
     2005年度
   (東アジア歴史社会)
      森川裕貫 中華民国初期の国家制度構想
      村上正和 風雅の伝統と戯禁政策
      荘司博史 南京政府期山東省に於ける企業活動について-地域経済の視点から
      新居洋子 18世紀におけるイエズス会士と中国音楽
   (南・東南アジア歴史社会)
      峯島秀暢 ネルー外交とチベット問題
      小川道大 19世紀西インドにおけるサランジャムについての一考察
      小林理修 初期アフマド=シャー朝史再考
      長田紀之 植民地期ラングーンにおける都市計画と居住民
   (西アジア歴史社会)
      小澤一郎 19世紀初頭のイランにおける軍隊とその改革(1798-1813)―アッバース・ミールザーによる軍制改革の研究-

     2006年度
   (東アジア歴史社会)
      梅村尚樹  宋代地方官学と地域的アイデンティティ ―成都府学の文翁顕彰から―
      <指導教員>岸本美緒
      小俣日登美 迫害に見る清朝典礼問題以降のキリスト教
      <指導教員>岸本美緒
      篠田祐子  20世紀前半中国の司法における財産継承と宗祧問題
   (南・東南アジア歴史社会)
      上野美矢子 香港における19世紀末「フィリピン革命」の対外活動第二フェーズの崩壊過程
      <指導教員>桜井由躬雄
      工藤裕子  植民地下ジャワ華南の対外志向 ―20世紀初頭におけるスマラン貿易商の活動―
      <指導教員>桜井由躬雄
      澁谷由紀  國語新聞と市議会選挙:植民地期サイゴン市、チョロン市におけるベト人住民の同胞意識
      <指導教員>桜井由躬雄
   (西アジア歴史社会)
      永井朋美  ロシア領トルキスタンにおけるワクフ問題 ―ワクフ地の所有権と免税権を中心に―

     2007年度    (東アジア歴史社会)
      河野正   中華人民共和国建国初期、華北農村の政権建設と成人教育
      <指導教員>吉澤誠一郎
   (西アジア歴史社会)
      山下真吾  オスマン帝国の交流と没落をめぐる諸言説
      <指導教員>鈴木董
      佐藤尚平  アラブ首長国連邦、バハレーン、カタールの独立と英国の撤退
      <指導教員>蔀勇造


 (3) 博士論文執筆者・題目一覧
     2005年度
   (東アジア歴史社会)
      奥村(吉田)豊子 近現代中国民族政策の歴史的研究―内モンゴルと国共両党(1945-1949)―
      李季樺     文明と教化―19世紀台湾における道徳規範の構築と変容
   (南・東南アジア歴史社会)
      志賀美和子   南インドにおける労働運動の研究―民族主義・共産主義 ・非バラモン主義との関係を中心に
   (西アジア歴史社会)
      齋藤久美子   16-17世紀東部アナトリアにおけるオスマン支配の構造 ―征服と定着―
      佐藤健太郎   13-15世紀マグリブ・アンダルスにおける預言者生誕祭
      渡部良子    13-14世紀モンゴル時代におけるペルシア語インシャー術とインシャー作品―伝統的書簡文化とモンゴル文書行政―

     2006年度    (東アジア歴史社会)       安部聡一朗  後漢末士大夫像の構成過程からみた魏晉貴族制の形成
      <主査>平隆郎<副査>黒田明伸・高見澤磨・岸本美緒・窪添慶文
   (南・東南アジア歴史社会)
      坪井祐司   英領期マラヤにおけるマレー人枠組みの形成―スランゴル州の植民地統治におけるマレー系移民の役割―
      <主査>桜井由躬雄<副査>水島司・中里成章・加納啓良・吉村真子
   (西アジア歴史社会)
      前田弘毅  サファヴィー朝のゴラーム ―フロンティア政策と政治体制の再構築―
      <主査>羽田正<副査>鈴木董・小松久男・深澤克己・佐藤次高

     2007年度
   (西アジア歴史社会)
      石川博樹  ソロモン朝後期に於ける北部エチオピアのキリスト教王国 ―オロモ進出後の王国史の再検討―
      <主査>蔀勇造<副査>大稔哲也・柘植洋一・黒澤直俊・富永智津子
      中町信孝  アイニーとその年代記 ―マムルーク朝ウラマーの歴史叙述と社会的実践―
      <主査>蔀勇造<副査>高山博・大稔哲也・佐藤次高・湯川武




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