7 公開講座など

(1) 布施学術基金公開講演会

布施学術基金公開講演会は、故布施郁三博士から人文社会系研究科・文学部に寄付された布施学術基金による、もっとも中心となる事業の一つであり、「東洋の文化」の共通テーマで毎年1回開催されている。
第14回は2006年5月31日(水)午後4時~5時30分、文学部一番大教室において、本学名誉教授中村廣次郎一氏(イスラム学)を講師として招き、「イスラームとは何か ――その多様性を考える――」と題してご講演いただいた。「イスラーム」とは、「(神への)帰依・服従」を意味し、その具体的なあり方は、神の言葉とされるコーランの解釈によって得られるが、それはインサイダーの置かれたコンテクストによって不断に変わる。はたしてアウトサイダーがイスラームについて語るとはどういうことなのかというところから、日本人がイスラーム研究を行なう意義にまで説き及んだ。
第15回は東京大学創立130周年記念事業として文学部主催の大江健三郎氏講演会を共催した。この講演会は2007年5月18日(金)午後2時~5時安田講堂において、現代日本を代表する作家、大江健三郎氏(文学部仏文科卒、1994年度ノーベル文学賞受賞者)を講師として招いて、「知識人になるために――世界の普遍的な教養を目指して――」と題してご講演いただいた。氏は大学で学んだことなど、具体的な例を交えながら、学ぶことへの志を持ち続けて「知識人」になることの重要性について論じた。その後、文学部教員の藤井省三(中国文学)、安藤宏(国文)、阿部公彦(英文)、野崎歓(仏文)、テッド・グーセン(客員教授)の各氏が加わって討論が行われた。


(2) 東京大学コリア・コロキュアム

  東京大学大学院人文社会系研究科韓国朝鮮文化研究専攻においては、教育研究活動を行うとともに、社会に対して当該地域に関する様々な情報を発信したいという希望のもとで、2003年度から標記のコロキュアムを開催しています。本コロキュアムは激動を続ける韓国朝鮮およびこの地域をとりまく北東アジア情勢に対応し、あらたな提案を行ってゆくために、同地域に関する理解を一層深めることが要請されるとの考えから企画されたものです。このような観点から、当コロキュアムでは韓国朝鮮および周辺地域に関わるさまざまな分野の専門家、外交官、官僚、政治家、研究者、社会活動家など、を東京大学に招き、忌憚の無い意見表明をお願いし、質疑応答を行うことで理解を一層深める機会を社会に向けて創出してゆくことを目的としています。当面、年に6~8回の頻度を行っております。講演記録は小冊子にして2003年度から2007年度分が刊行されています。なお、このコロキュアムは財団法人住友財団(2003~2008年度)と独立行政法人国際交流基金(2005年度)の財政的援助を受けて実施しております。開催の実績は以下のとおりです。

2006年度
  第1回 2006年5月24日(水) 18時30分~20時
   講演者: 田中均氏(財団法人日本国際交流センターシニア・フェロー、東京大学大学院公共政策学連携研究部客員教授)
   講演題目:日本の対朝鮮半島外交
  第2回 2006年6月28日(水) 18時30分~20時
   講演者:鄭英一氏 (ソウル大学名誉教授、九州大学客員教授)
   講演題目:FTAと韓国農業
  第3回 2006年7月26日(水) 18時30分~20時
   講演者:藤井賢二氏 (姫路市立姫路高等学校教諭)
   講演題目:日韓漁業紛争から見た竹島問題
  第4回 2006年9月27日(水) 18時30分~20時
   講演者:四方田犬彦氏(明治学院大学教授)
   講演題目:韓国映画の歴史と発展
  第5回 2006年10月25日(水) 18時30分~20時
   講演者:藤田明良氏(天理大学教授)
   講演題目:海域史からみる朝鮮王朝の空島政策
  第6回 2006年11月22日(水) 19時~20時30分
   講演者:金泳宰氏(韓国芸術綜合学校伝統芸術院教授)
   講演題目:コムンゴとヘグム―韓国伝統音楽の理解
  第7回 2006年12月6日(水) 18時30分~20時
   講演者:吉田光男氏 (東京大学教授)
   講演題目:韓国近世の人間関係を読む―戸籍と族譜の世界
  第8回 2007年1月17日(水) 18時30分~20時
   講演者:李賢熙氏 (ソウル大教授・東京大学客員教授)
   講演題目:中世韓国語の形態論と声調

2007年度   第1回 2007年6月27日(水) 18時30分~20時
   講演者:本田洋氏 (東京大学准教授)
   講演題目:人類学者の見る現代韓国:ものつくりの生活誌
  第2回 2007年7月25日(水) 18時30分~20時
   講演者: 藤田徹氏(住友商事総合研究所シニアアナリスト)
   講演題目:ビジネスマンの見た韓国経済の現状
  第3回  2007年10月10日(水) 18時30分~20時
   講演者: 柳 明桓氏(駐日本国大韓民国特命全権大使)
   講演題目:北東アジアの平和と安定に向けた韓日両国の役割
  第4回 2007年11月7日(水) 18時30分~20時
   講演者: 藤本幸夫氏(麗澤大学教授)
   講演題目:朝鮮本の話
  第5回 2007年12月5日(水) 18時30分~20時
   講演者:平井久志氏(共同通信編集委員、論説委員)
   講演題目:韓国の大統領選挙について
  第6回 2008年1月16日(水) 18時30分~20時
   講演者:權寧珉氏(東京大学客員教授、ソウル大学教授)
   講演題目:韓国近代詩人李箱(イサン)の日本語による作品の解釈


(3) ところ公開講座

 東京大学文学部で附属北海文化研究施設の所在する北海道常呂町(現・北見市)において2000年より公開講座を開催している。現在まで通算では11回になるが、地元自治体と共催での公開講座としては10回開催している。講師は基本的に文学部の教員であるが、一部他研究科の教員にも参加していただき、幅広い話題提供を心がけている。最近では、従来の一般向け以外に、常呂高校に於いて高校生を対象とした講演もおこなっている。(講師所属は講座開催時のもの)

 ◆(初回)東京大学文学部公開講座
  2000年2月19日 14:00〜17:00 常呂町中央公民館
   「フランス文学における女性」
   田村 毅(人文社会系研究科教授・研究科長)
   「福岡市の弥生遺跡 金隈・野方・板付遺跡を中心に」
   後藤 直(人文社会系研究科教授)
   「縄文土器の縄文」
   今村啓爾(人文社会系研究科教授)
   「北の住まいと暖房」
   大貫静夫(人文社会系研究科助教授)

◆第1回東京大学文学部公開講座
  2000年7月6日 18:30〜21:00 常呂町中央公民館
   「歴史なしに文化なし」
   松永澄夫(人文社会系研究科教授)
   「鄭和とコロンブス −海洋帝国中国の成立と没落−」
   佐藤慎一(人文社会系研究科教授)

◆第2回東京大学文学部公開講座
  2001年3月16日 18:30〜21:00 常呂町中央公民館
   「インダストリーとファイナンス −日本型資本主義のゆくえ−」
   稲上 毅(人文社会系研究科教授)
   「絵巻の世界から考える」
   五味文彦(人文社会系研究科教授)

◆第3回東京大学文学部公開講座
  2001年7月13日 18:30〜21:00 常呂町中央公民館
   テーマ「湖と砂浜」
   「湖沼の環境問題と浄化の住民運動」
   似田貝香門(新領域創生科学研究科教授)
   「砂浜の浸食とその対策のあり方」
   磯部雅彦(新領域創生科学研究科教授)

◆第4回東京大学文学部公開講座
  2002年2月23日 14:00〜17:00 常呂町中央公民館
   「生死の景色・仏教における時の姿」
   下田正弘(人文社会系研究科助教授)
   「日本美術の特質」
   河野元昭(人文社会系研究科教授)

◆第5回東京大学文学部公開講座
<常呂高校特別講座>
  2002年10月4日 14:35〜15:25 北海道常呂高等学校
   「大きな数はどれくらい大きいか」
   岡本和夫(数理科学研究科教授)
<常呂公開講座>
  2002年10月4日 18:30〜21:00 常呂町中央公民館
   「数学の伝統と現代」
   岡本和夫(数理科学研究科教授)
   「英語と英文学夜話(たヌキ)」
   高橋和久(人文社会系研究科教授)

◆第6回東京大学文学部公開講座
  2003年5月10日 16:00〜19:00 常呂町中央公民館
   「アメリカ文学と北海道」
   平石貴樹(人文社会系研究科教授)
   「誤解された芭蕉 −「古池や蛙飛こむ水のおと」について-」
   長島弘明(人文社会系研究科教授)

◆第7回東京大学文学部公開講座
  2004年3月20日 15:00〜18:00 常呂町中央公民館
   「住民参加の地域福祉 −社会福祉法と地域福祉計画−」
   武川正吾(人文社会系研究科助教授)
   「<江差追分>にみる民謡と郷土意識」
   渡辺 裕(人文社会系研究科教授)

◆第8回東京大学文学部公開講座
<常呂高校特別講座>
  2004年11月30日 13:45〜14:45 北海道常呂高等学校
   「フリーターはダメなのか?」
   玄田有史(社会科学研究所助教授)
<常呂公開講座>
  2004年11月30日 18:30~21:00 常呂町中央公民館
   「清朝皇帝の江南大旅行」
   岸本美緒(人文社会系研究科教授)
   「ランボーの詩と旅」
   中地義和(人文社会系研究科教授)

◆第9回東京大学文学部公開講座
<常呂公開講座>
  2005年9月25日 14:00〜17:00 常呂町中央公民館
   「ユートピアを演じること −ソ連の場合−」
   石井規衛(人文社会系研究科教授)
   「イブラヒムの夢 −イスラーム世界・ロシア・日本−」
   小松久男(人文社会系研究科教授)
<常呂高校特別講座>
  2005年9月26日 9:00〜10:00 北海道常呂高等学校
   「似ているけれど違ってる −異文化地域としての韓国−」
   吉田光男(人文社会系研究科教授)

◆新北見市誕生記念 第10回東京大学文学部公開講座
<常呂高校特別講座>
  2006年12月8日 13:45〜14:45 北海道常呂高等学校
   テーマ「生と死を考える −21世紀COEプログラム『死生学』への招待−」
   「現代日本人の死生観」
   島薗 進(人文社会系研究科教授・COE拠点リーダー)
   「死について考える」
   関根清三(人文社会系研究科教授)
<北見公開講座>
  2006年12月8日 18:30〜21:00 北見市民会館
   テーマ「生と死を考える −21世紀COEプログラム『死生学』への招待−」
   「現代日本人の死生観と霊性」
   島薗 進(人文社会系研究科教授・COE拠点リーダー)
   「老いと死について考える」
   関根清三(人文社会系研究科教授)

◆東京大学常呂遺跡発掘50年記念 第11回東京大学文学部公開講座
  2007年11月16日 18:00〜21:00 常呂町多目的研修センター
   テーマ「世界遺産と常呂遺跡」
   基調講演
   「世界遺産について −常呂遺跡の課題−」
   藤本 強(東京大学名誉教授)
   シンポジウム第一部「世界遺産の実例報告」
   「私の見た世界遺産」
   菊池徹夫(早稲田大学文学学術院教授)
   「中国の世界遺産 −周口店・殷墟・秦始皇帝陵など−」
   飯島武次(駒澤大学文学部教授)
   シンポジウム第二部「常呂遺跡の学術的価値」
   「常呂遺跡の調査研究史」
   宇田川洋(東京大学名誉教授)
   「生業から見た常呂遺跡の意義」
   新美倫子(名古屋大学博物館准教授)
   「新しい史跡公園の整備に向けて」
   熊木俊朗(人文社会系研究科准教授)




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