ご挨拶
このページでは、東京大学「高齢者ケアに関する意思決定プロセス」研究グループの活動(2010年度現在)をご紹介いたします。
私たちはおもな研究テーマの1つとして、高齢者ケアにおける人工的な水分・栄養補給法(AHN: artificial hydration and nutrition)施行の是非と意思決定に関する問題に取り組んでおります。
高齢になるにしたがって、脳卒中や認知症や加齢によって、食べたり飲んだりすることが難しくなってくることがあります。食事をとるということは、若くて元気な人はもちろん、多くの人にとって、ごく自然で楽しくうれしいことですが、病気や加齢によって、嚥下(えんげ)機能が障害されたり低下したりすると、経口摂取ができなくなったり、経口摂取を続けると誤嚥(ごえん)してしまい、窒息や肺炎を起こし、生命に危険が及んだりすることもあります。食べることに関する問題は、高齢者ケアにおける大きな問題なのです。
この数十年の医療技術の進展によって、人工的に水分と栄養を補給する方法がいくつも開発されましたので、現代では、口から食べることや飲むことができなくなったという理由だけで死亡するということはなくなりました。一方、老衰や病気の終末期で、すでに消化や代謝の機能も大きく減退し、身体が水分や栄養を受けつけない状態になっても、人工的に水分と栄養が補給され、最期への過程にある高齢者に、かえって苦痛を与える結果になっていることも少なくありません。医療技術による益と害が同居しているといえます。
人工的な水分と栄養を補給する方法が複数あるなか、大切なことは、お一人おひとりにとって、人工的な補給をしないことも含め、最適な方法を選ぶことです。
そこで、私たちの研究班では、ご本人にとって最善で、ご家族も医療者も納得できる意思決定に至るお手伝いをすべく、「高齢者ケアと人工栄養を考える ―― 本人と家族の意思決定プロセスノート」を作成しました。
このノートは、食べられなくなったときにどのような選択に至るか、その意思決定のプロセスを、ご本人とご家族が、医療者の助言も得ながら、一歩一歩たどることを応援できたら、という思いで作られています。各選択肢の特徴に関する説明を読みつつ、自分たちの場合について考えながら書き込んでいくノートの形式になっています。
まだ試用版であり、今後、みなさまのお声を反映し、改良を加えて、更に使いやすいノートにしていくことを目指しています。
このノートをお使いになることで、ご本人にとって最善で、ご家族も納得できる意思決定に至るお手伝いができれば幸いです。
「高齢者ケアに関する意思決定プロセス」研究グループ
グループリーダー 会田薫子
(勇美記念財団2010年度在宅医療助成事業「認知症末期患者に対する胃ろう栄養法等
の導入について:患者家族のための『意思決定支援ツール』の開発と発信」研究代表者)
「高齢者ケアと人工栄養を考える ―― 本人と家族の意思決定プロセスノート」(2011年8月刊行)
○本冊子は、その後改訂を重ねて、2013年6月に書籍として刊行するに到りました。くわしくは〔本研究グループHOME〕をご覧ください。
このホームページは、公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の2010年度の研究助成を受けて作成されました。
ご連絡先
〒113-0033
東京都文京区本郷7-3-1
東京大学大学院人文社会系研究科 死生学・応用倫理センター 上廣死生学・応用倫理講座
e-mail :dalsjp[at]l.u-tokyo.ac.jp *[at]を@に入れ替えてお送りください。
fax : 03-5841-2656