統合的認知研究の代表的成果解説
以下に取り上げるのは、2008年10月以降に掲載もしくは今後掲載予定の統合的認知に関する学術論文の内容紹介です。(それ以前の代表的高次視覚研究の学術論文の紹介はこちら、主な学術論文年代別一覧はこちら、主な学術論文の掲載学術誌別一覧はこちら)
なお、IFはインパクト ファクター (Impact Factor)を表しますが、異分野間の比較は難しいものの、心理学分野内での相対比較は可能なので、日本心理学会が発行する英論文誌Japanese Psychological ResearchのIF: 0.39が比較参考値になるかもしれません。
一部の人には”「あ」は赤”のように文字に特定の色を感じるという色字共感覚が生じますが、そのメカニズムはいまだ明らかではありません。Asano & Yokosawa (in press)は、共感覚色がまず 平仮名やアラビア数字など最も幼少期に学習した文字に結びつき、それが文字の音韻や意味の情報を介在して、後に学習した漢字の共感覚色に汎化する可能性を明らかにしました。複数の文字種を段階的に身につけていく日本語の特性を生かし、共感覚に言語処理のメカニズムが深く関わっていることを示した研究成果です。Consciousness and Cognitionは、オランダの学術論文誌です (IF:2.14)。
M. Asano & K. Yokosawa (2012). Synesthetic colors for Japanese late acquired graphemes, Consciousness and Cognition, 21, 2, 983-993.
変化検出には、動的な変化検出(あるオブジェクトが変化した瞬間の観察)と、完了した変化の検出(変化後のオブジェクトを見て先ほど見たものと違っているから変化したと判断する)という2種類があり、それらは変化前後のオブジェクトの間に挿入されるブランク時間の長さに基づいていると考えられています。Nakashima & Yokosawa (2012)では、ブランク時間が短い場合にのみ、注意がある特定の位置に向き続けることを確認し、2種類の変化検出が持続的注意に基づいて分けられることを示しました。Visual Cognitionは、英国の学術論文誌です (IF:1.48)。
R. Nakashima & K. Yokosawa (2012). Sustained attention can create an (illusory) experience of seeing dynamic change, Visual Cognition, 20, 3, 265-283.
刺激の左右位置とその刺激が属すグループ全体の左右位置とが逆である場合にはグループ全体の位置に基づき刺激位置が決定されます。Nishimura & Yokosawa (2012)では、グループを明示的に示す線(視覚手がかり)の呈示という知覚関連特性とグループ内の複数の刺激を同一反応に割り当てるという行為関連特性の刺激位置の決定への影響について検討しました。その結果、反応割り当てだけでもグループの位置と同じ側の反応がはやく、視覚手がかりのみでは個々の刺激の位置と同じ側の反応がはやいことから、反応割り当てという行為関連特性が刺激位置の知覚を決定し、その知覚された位置が反応行為に影響するという、行為と知覚の双方向的な相互作用を明らかにしました。Quarterly Journal of Experimental Psychologyは、英国の学術論文誌です (IF:2.45)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2012). Effects of Visual Cue and Response Assignment on Spatial Stimulus Coding in Stimulus-Response Compatibility. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 65, 1, 55-72.
色字共感覚とは、文字に特定の色を感じる共感覚です。Asano & Yokosawa (2011) は、日本語の平仮名と片仮名は形状が異なり、多くの場合異なる事物を表すために使われるものの、同じ音韻集合を表す文字セットであることを利用して、色字共感覚者6名の共感覚色の決定要因を調べました。その結果、対応する平仮名と片仮名の共感覚色が非常に類似していることから、仮名の共感覚色は音韻によって規定されていることを明らかにしました。Consciousness and Cognitionは、オランダの学術論文誌です (IF:2.14)。
M. Asano & K. Yokosawa (2011). Synesthetic colors are elicited by sound quality in Japanese synesthetes, Consciousness and Cognition, 20, 4, 1816-1823.
同じ触覚刺激でも、他者によって与えられる場合と自ら与える場合とでは異なる知覚をもたらすことが知られています。金谷、石渡、横澤 (2011)では、自らの手の位置を誤るラバーハンド錯覚の生起にとって、他者による触刺激が必要条件か否かを検討するため、参加者が自分で自分の手に触覚刺激を与える条件を取り入れました。その結果、他者から刺激を与えられる通常のラバーハンド錯覚よりは弱いものの、自ら触刺激を与える条件においても錯覚が生じました。このことから他者による触覚刺激はラバーハンド錯覚の生起にとって必要条件ではないことが示されました。 基礎心理学研究は、日本の学術論文誌です。
金谷、石渡、横澤 (2011). 自己による触刺激がラバーハンド錯覚に与える影響、基礎心理学研究, 30, 1, 11-18.
Saneyoshi, Niimi, Suetsugu, Kaminaga, & Yokosawa (2011) では、アイコニック・メモリと呼ばれる感覚貯蔵に関して、時間的統合課題を遂行しているときの脳活動部位をfMRIを使って調べたところ、前頭葉と頭頂葉のネットワークが関与していることを明らかにしました。NeuroReportは、米国の学術論文誌です (IF:1.81)。 NeuroReport誌掲載号の表紙には、本論文で使用されたfMRIの活性化図が使用されました(右図)。
A. Saneyoshi, R. Niimi, T. Suetsugu, T. Kaminaga, & K. Yokosawa (2011). Iconic memory and parietofrontal network: fMRI study using temporal integration, NeuroReport, 22, 11, 515-519.
Niimi, Saneyoshi, Abe, Kaminaga, & Yokosawa (2011) では、オブジェクトの同定と方向認知に関わる脳内部位が異なることを、fMRIを使った実験によって明らかにしました。前頭葉と頭頂葉には、オブジェクトの視点依存的な特徴を符号化し、方向認知を担っている領野があると考えられます。Neuroscience Lettersは、オランダの学術論文誌です (IF:1.93)。
R. Niimi, A. Saneyoshi, R. Abe, T. Kaminaga, & K. Yokosawa (2011). Parietal and frontal object areas underlie perception of object orientation in depth, Neuroscience Letters, 496, 35-39.
Asano & Yokosawa (2011) では、文の読み処理の効率化を支えるメカニズムについて検討しました。短文全体を短時間提示し、その中の1単語が何であったかを答えさせる実験を行ったところ、その単語が文の内容(文脈)に適合的なときは、誤字のように不適合なときよりも正答率が高くなるという結果が得られました。この結果は、複数の単語の並列処理によって大まかな文脈情報を瞬時に把握でき、効率的な読み処理が実現されていることを示しています。 The Journal of General Psychologyは、英国の学術論文誌です (IF:0.53)。
M. Asano & K. Yokosawa (2011). Rapid extraction of gist from visual text and its influence on word recognition, The Journal of General Psychology, 138, 2, 127-154.
情景の中のオブジェクト表象は、情景表象の一部と考えられるので、情景文脈がオブジェクトの処理を容易にすると考えることができます。Nakashima & Yokosawa (2011)では、繰り返提示される情景画像中のオブジェクトの記憶課題によって、このような情景文脈とオブジェクト表象の関係が常に存在するかを調べました。その結果、意図的記憶を必要とするような場合に、オブジェクトと情景の結合関係が生じることを明らかにしました。 Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です (IF:2.18)。
R. Nakashima & K. Yokosawa (2011). Does scene context always facilitate retrieval of visual object representations?, Psychonomic Bulletin & Review, 18, 2, 309-315.
腹話術効果とは、音の位置が視覚情報の影響を受けて錯覚される現象です。この現象の規定要因について従来の研究では一対一の視聴覚刺激(発話している顔と声など)を提示することで検討されてきましたが、Kanaya & Yokosawa (2011)では二つの視覚刺激を提示することによって、これまで明らかにされていなかった要因、すなわち視覚情報と聴覚情報の表す音韻の整合性が腹話術効果に影響することが示されました。より現実場面に即した視聴覚認知特性を表す結果と考えられます。 Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です (IF:2.18)。
S. Kanaya & K. Yokosawa (2011). Perceptual congruency of audio-visual speech affects ventriloquism with bilateral visual stimuli, Psychonomic Bulletin & Review, 18, 1, 123-128.
中島、横澤(2010)では、情景知覚において有力なコヒーレンス理論と視覚的記憶論の相違点が, 実験課題の違いに由来すると いう仮説を立て, フリッカー変化検出課題時の視覚表象について検 討しました。その際, 変化検出課題に記憶課題を付加した実 験を行い, 実験参加者が変化を探している時 の情景の記憶表象を測定し, 意図的な情景の記憶表象と 比較しました。その結果, フリッカー変化検出課題時にも情 景の記憶表象は視覚性長期記憶に保持されており, その 表象は意図的な情景の記憶表象と同程度に頑健なもので した。ただし, この保持された記憶表象は, 明示的な 変化の同定には利用されず, 再認課題には答えることがで きるというものでした。このことは, コヒーレンス理 論と視覚的記憶理論が両立することを示唆しています。 心理学研究は、日本の学術論文誌です。
中島、横澤(2010). フリッカー変化時における自然情景の視覚表象、心理学研究, 81, 3, 210-217.
Nishimura & Yokosawa (2010c)では、中央に提示される色の違いを左右どちらかの手で反応してもらうような実験課題において、課題とは無関係な視覚刺激や聴覚刺激が生起したり、消失する影響について調べました。その結果、視覚的サイモン効果には一時的な刺激が影響するものの、聴覚的サイモン効果には定常的刺激が寄与することを明らかにしました。.Attention, Perception & Psychophysicsは、米国の学術論文誌です (IF:1.37)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2010c). Visual and auditory accessory stimulus offset and the Simon effect. Attention, Perception & Psychophysics. 72 1965-1974.
刺激と反応の位置に対応関係があるとき(例えば,左側に提示された刺激に左側のキー押しで反応)では、反応行為中に対応関係のある刺激の知覚が困難になる、反応適合刺激の見落としが生じる。Nishimura & Yokosawa (2010b)は、左右の手の符号化など行為関連要因がこのような見落としを生じさせうるかについて検討するため,上下配置の反応キー押しを左右の手で行う場合の左右矢印の同定課題を行い、反応適合刺激の見落としは行為と知覚の直接的対応に基づくと考えられる結果が得られた。Quarterly Journal of Experimental Psychologyは、英国の学術論文誌です (IF:2.45)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2010b). Response-specifying cue for action interferes with perception of feature-sharing stimuli. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 63, 6, 1150-1167.
反応適合刺激の見落とし
Nishimura & Yokosawa (2010a)では、行為による知覚への影響を調べるために、反応適合刺激の見落としについて調べました。反応適合刺激の見落としとは、行為遂行時にその行為と同一の特徴を持つ視覚刺激を見落としやすい現象です。 右手でボタン押しをすると右矢印が、左手でボタン押しをすると左矢印が、見えにくくなるという見落としが生起し、上ボタンを押したときには上矢印を、下ボタンを押したときには下矢印を見落としがちでした。ただし、左右のボタン押しは、上下矢印の知覚に影響しないことを確認しました。Psychological Researchは、ドイツの学術論文誌です (IF:1.95)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2010a). Effector identity and orthogonal stimulus-response compatibility in blindness to response-compatible stimuli. Psychological Research, 74, 2, 172-181.
実吉、新美、末續、神長、横澤 (2009)では、視覚刺激の時間的統合に関わる視覚的記憶とその神経基盤について、非対称図形を連続提示し、それらの統合図形に対する対称性判断課題によって検討しました。3つの長さの時間間隔条件(短,中,長)における脳活動をfMRIによって検討した結果、どの時間間隔でも、短期記憶に関わる前頭前野から頭頂葉後部、後頭葉上部の活性、さらに全体的な形状知覚に関わる紡錘状回、下側頭回の活性が認められました。また,時間間隔が長い条件では、上頭頂小葉の強い活性が認められました。これらの結果から、視覚情報が感覚記憶で統合され、長い時間間隔では視覚情報が全体的な形態として短期記憶に符号化され、統合に用いられる可能性が示唆されました。 基礎心理学研究は、日本の学術論文誌です。
実吉、新美、末續、神長、横澤 (2009). 視覚的短期記憶における視覚情報の時間的統合に関わる神経基盤の検討、基礎心理学研究, 28, 1, 23-34
江良、横澤(2009)では、触覚的な角度判断に視覚手がかりが有用であるかどうかを検討しました。奥行き方向に布置された角度刺激を、仮想力覚フィードバックデバイスによって触覚的に探索させながら判断させました。視覚手がかりとして、触覚探索に同期して動く位置手がかりと、触覚空間を明示する空間手がかりを用いました。両視覚手がかりが呈示されると角度判断精度が向上すること、位置手がかりのみでは運動情報のみが利用され奥行き情報は利用されないこと、また、触覚的な角度判断は触覚情報と視覚情報が加算されることによって過大評定されることが示されました。 心理学研究は、日本の学術論文誌です。
江良、横澤(2009). 触覚的角度判断に対する視覚手がかり効果、心理学研究, 80, 3, 232-237.
Nishimura & Yokosawa (2009)では、音に注意を向けていないときでも、音の2要素(位置、高さ)が左右反応に影響するかどうかを調べました。 サイモン 効果は、音源と反応が同じ側だと,早く正確に反応できる現象であり、 SMARC効果は、低音と左、高音と右の結びつきのときに早く正確に反応できる現象です。 音が課題に全く関係ない場合でも、音源位置と音高は、それぞれが独自に左右の反応に影響することを明らかにしました。 Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です (IF:2.18)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2009). Effects of laterality and pitch height of an auditory accessory stimulus on horizontal response selection: The Simon effect and the SMARC effect. Psychonomic Bulletin & Review, 16, 4, 666-670.
日常物体を偶然的見えと呼ばれる正面や上から認識することは難しく、視点依存効果が生じます。従来の研究では、偶然的見えの場合には物体の主軸が短縮して見えることが視点依存効果の要因と考えられてきましたが、Niimi & Yokosawa (2009b)は、対称面が短縮されているということや、視点の親近性が低いこと等、複合的な要因で視点依存効果が生じていることを明らかにしました。Perceptionは、英国の学術論文誌です (IF:1.46)。
R. Niimi & K. Yokosawa (2009b). Viewpoint dependency in the recognition of non-elongated familiar objects: Testing the effects of symmetry, front-back axis, and familiarity. Perception, 38, 4, 533-551.
Niimi & Yokosawa (2009a)では、斜め前方向から見た物体の認知は早く正確だけれども、斜め前方向の物体に対する正確な方向認知が、正面に比べて、かなり難しいのですが、これは物体の正確な方向が分かりにくいからこそ、斜め前方向の見えを我々が好むことを明らかにしました。 Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です (IF:2.18)。
R. Niimi & K. Yokosawa (2009a). Three-quarter views are subjectively good because object orientation is uncertain. Psychonomic Bulletin & Review, 16, 2, 289-294.