周延 [英] distribution

西欧中世の論理学において展開した代表(suppositio)理論に発する概念。代表理論においては、命題の主語項ないし述語項が、その表示対象である個体(ないし表示対象である普遍の下にある個体)の全てをまんべんなく指す場合が「一括的で周延的な(confusa et distributiva)代表」と呼ばれて、当該個体の全体を一括して指してはいるが、その全てを一つ残らず指しているのではない「単に一括的な(confusa tantum)代表」や、当該個体の全てをではなくどれかを指す「限定(determinata)代表」などと区別された。

[例1] 「全ての人間は動物である」
これにおいては、主語項「人間」はその外延に含まれる人間個体を余すところなく全て指していて「この人も、その人も、またあの人も・・・動物である」ということになるので、一括かつ周延的代表をしているが、述語項「動物」のほうは単なる一括代表をしている。つまり、「全ての人間は、この動物か、その動物か、あの動物か、・・・である」というように、動物個体全体を一括して指すとはいえ、全個体をまんべんなく指しているわけではない。

近世の論理学は、こうした代表理論自体は捨て去ったが、「周延的かどうか」という区別は受け継いだ。すなわち近世の論理学においては、主語等の項(項辞)を専ら「概念」と看做す考えが有力となり、概念に対応する個体群を「外延」と呼ぶようになったが、これに伴ない、ある命題(ないし判断)の主張が、命題を構成するある概念の外延の全てに及ぶ場合を、その命題においてその概念は「周延されている(周延している)」とし、また外延の全てに及ぶとは限らない場合を、その概念は「周延されていない(周延していない)」ないし「不周延である」として区別するようになった。

4種(A=全称肯定・I=特称肯定・E=全称否定・O=特称否定)の定言命題についていえば、全称命題(A・E)の主語および否定命題(E・O)の述語は周延されて(して)おり、特称命題(I・O)の主語および肯定命題(A・I)の述語は不周延である。

こうした周延・不周延の区別は、三段論法の規則において重要な役割を果たす。まず、三段論法において、媒概念は前提において少なくとも一度は周延されていなければならない、という規則が認められ、この規則に反する推論は「媒概念不周延の誤謬」を犯しているとされる。また、前提において周延されていない大概念ないし小概念を結論において周延してはならない、という規則が認められ、これに反する推論は「大概念(ないし小概念)不当周延の誤謬」を犯しているとされる。