三段論法は前提、結論がすべて定言命題から成る定言三段論法と、少なくともひとつの前提が複合命題である場合とに大別される。
1. 定言三段論法
主語項をX、述語項をYとする定言命題(A、E、I、Oのいずれか)を〈X-Y〉とし、2前提および結論を縦に三段に並べて表記すると、定言三段論法はまず次の4種に分類され、これを格figureという。
第1格 第2格 第3格 第4格
M-P P-M M-P P-M
S-M S-M M-S M-S
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S-P S-P S-P S-P
ここでS(結論の主語に該当)を小項辞(名辞、概念)、P(結論の述語に該当)を大項辞(名辞、概念)、Mを媒(ないし中)項辞(名辞、概念)と呼び、MとPを含む前提を大前提major premise、SとMを含む前提を小前提minor premiseと呼ぶ。
それぞれの格の三段論法はそれを構成する命題のそれぞれがA、E、I、Oの四種のいずれであるかに応じてさらに分類され、これを式modeという。例えば大前提がA、小前提がE、結論がOであるようなものを、AEO式というように呼ぶ。すると、一つの格について、大前提、小前提,結論のそれぞれに四通りの分類ができるので、一つの格には結局4×4×4=64の式が考えられ、四つの格を通算すれば256通りの格式に分類されることになる。しかし、これらの全てが妥当な推論であるわけではない。妥当な格式は次の24個であることが古来知られている。
第一格 AAA (AAI) EAE (EAO) AII EIO
第二格 EAE (EAO) AEE (AEO) EIO AOO
第三格 AAI IAI AII EAO OAO EIO
第四格 AAI AEE (AEO) IAI EAO EIO
これらのうち括弧を付した五つの式はそれぞれ直前の式の結論から大小対当を適用することによって得られるので、弱勢式と呼ばれる。これを除外した十九の格式は、伝統的論理学の教程において暗記すべきこととされ、例えば第1格AAA式をBarbaraと表す仕方の「格式覚え歌」(Barbara, Celarent, Darii, Ferio......)が流布した。また、妥当な推論が満たすべき条件についての研究もなされてきた。例えば、「媒概念は前提において少なくとも一度は周延されねばならない」、「前提において周延されない概念を結論において周延させてはならない」など。
現代論理学の立場からも、こうした妥当な諸格式が、そしてそれらのみが妥当であることが、一定の条件下で確認されている。
様相三段論法 以上のような様相を含まない(ないしは単純様相の)命題から構成される三段論法のほかに、様相命題から構成される三段論法についてもどのような格式が妥当であるかについて、アリストテレスは『分析論前書』で詳細に検討し、また中世において研究されたが、現代論理学の立場からそうした古典の結論の有効性が、様相をどのように解釈するかという問題と併せて、吟味され論じられている。
連鎖式sorites 3個以上の前提から成り立つ定言三段論法のうちで有名なもの。アリストテレスの連鎖式とゴクレニウスの連鎖式とが区別されるが、両者は実質上は同等である。
[アリストテレスの連鎖式] [ゴクレニウスの連鎖式]
S - P1 Pn - P
P1 - P2 Pn-1 - Pn
: :
: :
Pn-1 - Pn P1 - P2
Pn - P S - P1
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S - P S - P
これらは2個の前提から成る三段論法を組み合わせたものと看做すことができる。
2. 前提に複合命題を含む三段論法
2つの前提のうち少なくとも一つが複合命題であるような三段論法は以下の3種に分類され、それぞれの基本的なかたちは次のようなものである(以下では命題をp、q などで表す)。
1) 仮言三段論法 hypothetical syllogism
(a) pならばq (b) pならばq (c) pならばq
qならばr p qではない
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pならばr q pではない
(a)は純粋仮言三段論法、 (b)は肯定式modus ponens、 (c)は否定式modus tollensと呼ばれる。
2) 選言三段論法 disjunctive syllogism
(d) p もしくは q (e) p もしくは q
qではない p
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p qではない
ただし、ここで「pもしくはq」は排反的選言、つまりpとqのいずれかは真であるが、双方とも真であることはないことを表している。(d)は否定肯定式modus tollendo ponens、(e)は肯定否定式 modus ponendo tollens と呼ばれる。
3) 仮言選言三段論法(両刀論法、ディレンマ) dilemma
(f) pならばr、かつ、qならばr
pもしくは(ないし)q
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(いずれにしても) r
(g) pならばq、かつ、pならばr
qではない、もしくは(ないし)、rではない
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(いずれにしても) pではない
(h) pならばr、かつ、qならばs
pもしくは(ないし)q
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rないしs
(i) pならばr、かつ、qならばs
rではない、もしくは(ないし)、sではない
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pではない、ないし、qではない
ただし、ここで「pないしq」は非排反的選言、つまりpとqの双方ともに真であることも含めた選言を、また「もしくは(ないしは)」は排反的選言と非排反的選言のいずれでも成り立つことを表している。(f)は簡単構成的ディレンマsimple constructive dilemma、(g)は簡単破壊的ディレンマ、(h)は複雑構成的ディレンマ、(i)は複雑破壊的ディレンマcomplex destructive dilemmaと呼ばれる。