グローバルCOEプログラム 死生学の展開と組織化
東京大学大学院人文社会系研究科グローバルCOE研究室

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「死生学」ワークショップ 生命科学と死生学の共働
A Collaboration Between Life Science and Death & Life Studies


        
【日時】 2007年12月1日(土)11:00〜18:30
【場所】 本郷キャンパス法文2号館 教員談話室
【主催】 グローバルCOE 「死生学の展開と組織化」
応用倫理教育プログラム
【共催】 東京大学学術統合化プロジェクト、哲学会
【言語】 日本語、英語










【プログラム】
開会あいさつ(11:00〜11:10)
島薗進(東京大学人文社会系研究科)
第1セッション(11:10〜12:30)
提題者:青木健一(東京大学理学系研究科)
演題:「ネアンデルタールとホモ・サピエンスの交替劇」
コメンテータ:一ノ瀬正樹(東京大学人文社会系研究科)
昼食 (12:30〜13:50)
第2セッション(13:50〜15:10)
提題者:張賢徳(帝京大学医学部溝口病院精神科)
演題:「人はなぜ自殺するのか?」
コメンテータ:竹内整一(東京大学人文社会系研究科)
第3セッション(15:25〜16:45)
提題者:中川恵一(東京大学医学系研究科)
演題:「日本人の死生観とがん治療」
コメンテータ:清水哲郎(東京大学人文社会系研究科)
第4セッション(17:00〜18:20)
提題者:石浦章一(東京大学総合文化研究科)
演題:「こころの動きを分子レベルで語る」
コメンテータ:島薗進(東京大学人文社会系研究科)
総合司会:下田正弘(東京大学人文社会系研究科)
熊野純彦(東京大学人文社会系研究科)
閉会あいさつ(18:20〜18:30)
竹内整一(東京大学人文社会系研究科)
オーガナイザ:一ノ瀬正樹



去る2007年12月1日土曜日、東京大学文学部法文2号館・教員談話室において午前11時より、「死生学」および「応用倫理教育プログラム」主催のワークショップ「生命科学と死生学の共働」が開催された。「死生学」というと、どうしても生命倫理、自己決定権、死生観などの、すぐれて人文的な主題を連想させがちだが、実はもともとから「死生学」という研究領域は広い含意をもっており、医療的意思決定、殺人行為、死刑制度、戦争論、食と環境の倫理、といったテーマを通じて、広く多様な分野へと越境してゆくことを本性としている。とりわけ、それが「Life Studies」をタイトルそのものに含む以上、「Life Science」とのクロスオーバーは必然的と言える。今回私たちは、こうした認識のもと、「生命科学」との共働の出発点となるべく、進化理論、精神医学、放射線科学、遺伝学の分野の第一線の研究者をお招きし、ワークショップを開催するに至ったのである。
 ワークショップは午前11時に、GCOE「死生学」リーダーの島薗進教授の開会あいさつから始まった。全体の司会は下田正弘教授と熊野純彦教授が務めた。第1セッションは、まず、理学系研究科の青木健一教授が「ネアンデルタールとホモ・サピエンスの交替劇」と題して提題した。青木教授は、最新の研究成果や実証的データを駆使しながら、ネアンデルタールがなぜ現人類との競合のなかで消滅していったのかについて論じた。議論は、個体学習と社会学習という対比に基づくいくつかの合理的仮説を数学的手法によって進化理論的見地から比較検証する、という形で進められた。これに対しコメンテータである筆者一ノ瀬は、そもそもここでいう進化とは何か、遺伝的浮動との違いは何か、個体学習や社会学習の能力の分子生物学的な識別はありうるか、といった基本的論点を提示して、理解の深化を試みた。次に第二セッションは、帝京大学医学部溝口病院精神科の張賢徳准教授が「人はなぜ自殺するのか?」と題して提題した。張准教授は、そもそも自殺にはいくつかのタイプがあり、合理的な決断による自決なども確かに存在するが、多くの自殺はさまざまな社会環境(ストレス、いじめ、借金苦など)によってもたらされる「うつ」などの精神状態が原因となっているということを強調し、そしてそのことを多くの経験的データによって説得的に実証した。よって、精神医療が自殺の防止に果たしうるポテンシャルが確認されなければならない、と結ばれた。これに対し竹内整一教授が倫理学的な観点からこの問題についてコメントを加え、自殺するということが人と人の関係に及ぼす影響を大きな考慮要素とすべきだという方向の論を提示した。
 さらに第三セッションは、医学系研究科の中川恵一准教授が「日本人の死生観とがん治療」というタイトルのもと、死生学との共働にすでに深く立ち入った提題を行った。中川准教授は、日本は世界に冠たる長寿国であると同時に世界一のがん大国でもあり、日本人の二人に一人はがんになること、にもかかわらず日本人はがんの実態、その治療や看護のさまざま、そして緩和医療などについて知識がきわめて少ない、それゆえこうした側面の啓蒙活動がぜひとも必要であると熱を込めて論じた。これに対して、人文社会系研究科の清水哲郎教授が、治療と看護(キュアとケア)との区別に対してコメントし、そうした区別がそもそもゆらいでいるという認識から論を立てるべきだと提言した。そして最後に第四セッションは、総合文化研究科の石浦章一教授が「心の動きを分子レベルで語る」と題して提題を行った。石浦教授は、大変に興味深い事例を豊富に駆使しながら、人間の病気や性格や傾向性などが脳の働きや遺伝子などについての分子生物学的あるいは遺伝学的な分析によって一定程度解明されてきており、それゆえそうした人間のあり方の改善も原理的に可能になりつつある、そして今後さらにそれは進展することが期待される、と論じた。これに対して本「死生学」プロジェクトのリーダーである人文社会系研究科の島薗進教授がコメントを加え、自然科学的な技術によって安楽になったり有能になったりすることは偽りの自己なのではないか、という根本的な疑念を提起しつつ、生命科学と人文学の新たな出会いの提言に至った。そして最後に、応用倫理教育プログラム委員長の竹内整一教授が閉会のあいさつをして締めくくった。その後、山上会館において懇親会を開催し、人文社会系研究科長の立花政夫教授からあいさつをいただいた。その懇親会の場においてもさらに議論は盛り上がり、そうして学際的な一日は有意義に過ぎていったのである。
 以上のような生命科学と死生学の共働の試みがどこまで成功したかは、おそらく今後の共働の展開・継続にこそ掛かっているだろう。しかし、その第一歩を踏み出した事実はきわめて大きい。今後さらに、栄養学、薬学、動物行動学、森林生態学などの分野とも連携を深め、共働を積み重ねていきたい。
文責:一ノ瀬正樹(人文社会系研究科教授 哲学)


シンポジウムの様子 シンポジウムの様子 シンポジウムの様子




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