グローバルCOEプログラム 死生学の展開と組織化
東京大学大学院人文社会系研究科グローバルCOE研究室

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サラ ・ ヘイネマー博士講演会


【日時】 2007年11月7日(水) 15:30〜17:30
【場所】 法文1号館312教室
【講演者】
Dr. Sara Heinamaa (サラ・ヘイネマー)(ヘルシンキ大学講師・北欧現象学会会長)
【講演テーマ】
Phenomenologies of Sexual Difference: From Fecundity to Generosity
【主催】 東京大学大学院人文社会系研究科哲学研究室
【共催】 東京大学グローバルCOEプログラム「死生学の展開と組織化」、哲学会
【言語】 英語



これまで分析哲学の影響力がきわめて強かった北欧諸国において、10年ほど前から新たな動きが見られるようになった。比較的若い世代に属する人々が「現象学」の名のもとに集まり、盛んに活動を始めたのである。2001年には、デンマーク、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、アイスランド5カ国の若き哲学者たちが集まって北欧現象学会を組織し、それ以来、積極的に研究交流をおこなっている。このたびは、その北欧現象学会の現会長、ヘルシンキ大学のサラ・ヘイナマー博士をお招きして、11月7日に講演会をおこなった。以下、その簡単な報告をおこないたい。
 『性差の現象学に向けて:フッサール、メルロ=ポンティ、ボーヴォワール』(Toward a Phenomenology of Sexual Difference: Husserl, Merleau-Ponty, Beauvoir, 2003)の著者、ヘイナマー博士は、これまでフッサール、メルロ=ポンティ、ボーヴォワールの現象学を基盤にして「性差」をめぐる哲学的諸問題にアプローチしてこられた新進気鋭の現象学者だが、近年はフッサールの倫理思想にも関心を広げておられる。しかし今回の講演会では、「死生学の展開と組織化」というグローバルCOEのテーマに鑑み、「死」と「生」をめぐってハイデガーとレヴィナスのあいだに生じている哲学的問題に関するごく最近のご研究を踏まえて、性差についての現象学的考察を展開していただいた。
 「性差の現象学:多産性から寛大さへ」と題する講演の趣旨は、以下の四点にまとめられる。第一に、〈乗り越えることのできぬ死を先取りし、死に向かう存在〉として人間(現存在)を規定するハイデガーの思想は、レヴィナスの視点からすれば、官能というエロス的関係や、父と子という親子関係に見られる〈別の仕方での未来の到来〉を見落としてしまっていること、けれども第二に、エロス的関係および父と子の親子関係をめぐるレヴィナスの思想も、現代のフェミニストたちの視点からすれば、女性が父性の条件として、また子によって与えられる未来のための手段としてしか考えられておらず、批判されるべきものであること、さらに第三に、すでにレヴィナスと同時代のボーヴォワールが、性差を見落としたレヴィナスを批判しており、ボーヴォワールによれば、エロス的関係における男性と女性の性的欲求には本質的な違いがあること、にもかかわらず第四に、ボーヴォワールにおいては男女のエロス的関係のうちに〈意志にもとづいた互いに対する寛大さ〉が実現する可能性も示唆されていると見なしうることである。
 たいへん刺激的な内容で、講演後には、ボーヴォワールが描き出す性差とハイデガーが示した現存在一般の実存論的構造とはどちらがより根本的だと考えられるのか、また性的欲望に本質的な差異があるとしたら寛大さはいかにして実現されうるのか、といった点をめぐって、予定の時間を越えて活発な質疑応答が続いた。ヘイナマー氏は、ボーヴォワールの「寛大さ」を、男性と女性の本質的に異なる性的な志向性を互いに認め合うこととして理解しているようであったが、後者の質問への回答の際の、「差異そのものをcultivateすること」こそが大切だというコメントが、筆者にはとても印象的であった。
また、前者の質問に対しては、ヘイナマー氏は、妊娠した女性にとっては空間も時間もそれまでとはまったく異なる仕方で経験される、という例を用いながら回答をおこなったが、ここに示されている「性差」という視点は、近年注目されつつある「間文化的」な視点とともに、死生をめぐる諸問題の考察をさらに展開し組織化していこうとするこのグローバルCOEプロジェクトにとって、きわめて重要なものであるように思われた。
文責:榊原哲也(人文社会系研究科准教授 哲学)


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