グローバルCOEプログラム 死生学の展開と組織化

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M・ハイデルベルガー教授講演研究会


        
【日時】 2007年10月23日(火)17時より
【場所】 東京大学本郷キャンパス 法文2号館
哲学研究室
【講演者】 Michael  Heidelberger
( ミハエル ハイデルベルガー 
 チュービンゲン大学教授 )  
【講演テーマ】
Lifeless objects and living beings:chances for a neo-Aristotelian approach?
【主催】
東京大学グローバルCOE 「死生学の展開と組織化」
【共催】
哲学会
東京大学大学院人文社会系研究科哲学研究室
【言語】 英語

オーガナイザー:一ノ瀬正樹(東京大学大学院人文社会系研究科)
グローバルCOE「死生学の展開と組織化」
哲学研究室



去る2007年10月23日火曜日、東京大学文学部哲学研究室において午後5時より、ドイツのチュービンゲン大学ミハエル・ハイデルベルガー教授の講演研究会が、COE「死生学の展開と組織化」主催、哲学会共催、の形で開催された。ハイデルベルガー教授は、科学哲学、因果論、確率論、心理学者フェヒナーの研究で著名な研究者で、実際今回の来日も東京で開かれたフェヒナーについての国際研究会議に出席することが主目的であった。それに際して、教授の長いお知り合いであられる京都大学の内井惣七名誉教授から、できれば東大でハイデルベルガー教授の講演会を開けないか、との照会があり、今回の講演研究会の開催に至ったのである。そもそも筆者自身、確率の哲学に大いに関心を抱いており、『確率革命』という本の編者としてのハイデルベルガー教授を知っていた。そして、筆者はいま大学院で「生物学の哲学」を主題にしてゼミを行っており、ハイデルベルガー教授も因果論や確率論との絡みで生物学の哲学についても一家言をお持ちということで、その辺りの主題を扱った講演をしていただくことに相成った次第である。
 講演は「Lifeless objects and living beings: chances for a neo-Aristotelian approach?」という表題のもと英語で行われ、生命概念そのものについて根源的な問いを向けるという内容のものであった。ハイデルベルガー教授はまず、デカルトの「精神」と「物体」の心身二元論に言及し、そこには「生物」という別個なカテゴリーが欠けていて、「生物」は理性を持たない「物体」の中に取り込まれていたという近代的思考の原点をえぐりだす。しかし、そうした生物理解が私たちの前科学的な生命概念の理解と折り合わないと指摘し、アリステレスの生命把握に問題解決の素材を求めてゆく。教授は、アリストテレスの実体についてのヒエラルキーに訴えながら、そうした持続する実体には「連続的」なものと「生起的」なものとの二種があるとし、生命あるいは生物は「連続的実体」であり、生起的な出来事と違い、生成消滅する、と論じる。その点で生物は、物質の塊でもなく、命のない死んだ身体とも異なる。すなわち、アリストテレスの「エネルゲイア」概念にすでに見られていたように、新陳代謝や生殖などを通じて全体としての自身を養い保存するという連続的な生成と消滅のプロセスとしての有機体であること、それが生命体の固有の意義なのであると、そう教授は結論づけた。
 すぐに質疑に移った。概して、アリストテレスに依拠するような古代的な視点から生命体を規定することの意義について質問が集中した。とりわけ、現代の生命科学の発展を担っている分子生物学的な視点から見られる生命は、古代ギリシア的なエネルゲイア概念などによって対応的な説明はできないのではないか、といった趣旨の論点が提起された。筆者自身も、教授の生命体の定義だけでは「ウイルス」のような生物とは一般にみなされていないものも含まれてしまうのではないかと疑問に感じていた。こうした問いに対しハイデルベルガー教授は、どんなに先端的な分子生物学でも、結局は生命の定義にまで問いを向けたとき、伝統的な思考様式のなかに戻ってこざるをえない、と論じた。問題はあまりに根源的で、疑問は生じ続ける。しかし、そのことをリアリスティックに再確認できたことは大きな成果であった。講演研究会の後、「フォレスト本郷」にて懇親会を行った。英語、日本語、ドイツ語が入り交じって、にぎやかな論議の場となった。「死生学」プロジェクトが、まさしく展開されていった夜であった。

文責:一ノ瀬正樹(人文社会系研究科教授 哲学)


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