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公開シンポジウム 生死をめぐる同意と決定
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2004年12月11日(土)・12日(日)の二日間にわたって、東京大学本郷キャンパス文学部一番大教室にて、国際シンポジウム「生死をめぐる同意と決定」が開催された。今回のシンポジウムは、医療的意思決定に焦点を合わせて、その周辺を論じることを主な狙いとしたものである。全体の構成は、11日の第一部はイギリスなどから招いたスピーカーを交えて哲学的・理論的な検討を行い、12日の第二部は日本人研究者によるパネルディスカッションという形で実践的な問題を討議する、というものであった。さらに詳しい内容の報告は後ほどシンポジウム報告書を刊行し、そこで行う予定である。
第一部「The Philosophy of Facing Uncertainty: Epistemic Limits, Probability, and Decision」(不確実性に向かうことの哲学:認識的限界・確率・意思決定) 本COE拠点リーダーの島薗進教授から開会の挨拶があり、二日間の日程が幕を開けた。第一部は英語を用いつつ、あわせて同時通訳システムが利用された。各スピーカーが発表を行った後、事前に指定を受けたコメンテイター1〜2名がコメントを行い、会場からの質疑を司会者が進行するという形式で行われた。意思決定論を検討する中で主に扱われた話題は、確証理論とベイズ理論や、パラコンシステント論理、「フィッチの議論」、実践的見地や主観的確率からする確率論・確率の哲学的解釈などである。
哲学・論理学の専門的話題を検討する中で、一ノ瀬正樹助教授はベイズ主義を理論的に検討し、確証の場面として医療を中心的にとりあげ、ギリス教授は、医学的診断に用いられる確率の問題を、診断をサポートするコンピュータ・システムに関しては原則として頻度による客観的確率が用いられるべきであるが、症例の少ない状況下では医師たちの主観的確率も併用すべきだ、と論じ、両分野の学術的交流が模索された。
海外からのスピーカーであるドナルド・ギリス氏、グラハム・プリースト氏、コリン・ホウソン氏は、それぞれ論理学=哲学分野で著名な専門家である。なかでもプリースト氏は、矛盾を一部認める論理の体系であるパラコンシステント論理(paraconsistent logic)の創始者として有名である。今回は、きわめて抽象度の高い論理的テーマを追求して、ある意味で宗教や形而上学に触れる議論を展開した。ホウソン氏も、確率論を哲学的に体系化する壮大な試みを描出した。実践に用いられる推論の論理性という、高度に学問的な主題を専門家が直接的に論じる場を私たちのCOEが設けることができたのは喜ばしい。
議論を通じて、哲学・数学・論理学的観点に立つ理論的研究が、意思決定論を通じて、学際的な拡がりをもち、幅広い学際的なテーマをはじめて我が国において顕在化させることができ、学術的にきわめて大きな成果が収められた。