21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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鈴木岩弓教授講演研究会
「あの世」からの眼差し ―遺影を飾る死生観―

日時2003年10月10日(金)17:00-19:00
場所東京大学法文1号館法文2号館 2番大教室
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・趣旨

2003年10月10日、東京大学文学部二番大教室にて、鈴木岩弓氏(東北大学教授)を講師とする講演研究会「「あの世」からの眼差し――遺影を飾る死生観――」が行われた。鈴木氏は、宗教民俗学を専攻しており、近年は「遺影」をめぐる現代人の意識について調査を行っている。

講演では、死に関する意識を調査するために、位牌や墓など死を象徴する事物からアプローチする方法論について論じ、アジア諸地域の比較の上でも、このアプローチが有効であることが説かれた。たとえば、近年、イスラム圏でのお墓に遺影が彫り込まれるようになったといった興味深い事例が紹介された。そして、死後結婚に関わる絵馬や先祖の遺影を居間に飾るなど、死者の肖像・写真をめぐる各地の習俗を紹介し、日本ではもともと死者の似姿を残す習慣は一般的ではなかったが、次第に流行するようになり、今ではごくふつうのこととなったと論じた。

ここで、特に写真に注目し、葬儀に遺影が取り込まれていく経過を明らかにするとともに、各家庭において写真がどのように扱われているかを調査した結果をふまえ、現代人の意識の変化について論じた。たとえば、仏壇以外に遺影が置かれ、その前に水が供えられるなどの習慣が広がっていることから、死者の写真は慰霊の対象としてよりも祈願の対象として扱われており、従来のように家族で継承されるのではなく個人単位となっているのではないかとの考察が示された。

質疑応答では、「日本でも近世には肖像を残す習慣はあったのではないか」「写真というメディアの特性は何か」「『遺影』という言葉そのものはいつからあるのか」「死者に祈願することは昔からあるのではないか」「諸外国との比較はどうか」など活発な質問がなされ、家族社会学的なアプローチやメディア論的なアプローチとの間で学際的な討議が進められた。現代人の日常意識に深く関わる現象であるだけに、聴衆も討議に深く引き込まれ、懇親会へと引き継がれた。

(前川健一・特任研究員/島薗進・拠点リーダー)

シンポジウムの様子 シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

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