鈴木岩弓教授講演研究会
「あの世」からの眼差し ―遺影を飾る死生観― 趣旨

近年のわが国の年間死亡者総数は、約97万人にのぼる。12,600万人の総人口からするなら、毎年130人に一人の死者が生まれている計算になる。時折、通夜や葬儀の案内板が町内の道路に示されていることを思い返すなら、印象論的な言い方ではあるが、この数字の妥当性に改めて気づかせられることとなろう。死というのは、現代日本に住むわれわれにとっても、これほどまでに身近な存在なのである。

とはいえ人が体験する死は、あくまで他者の死である。他者の死を通して、人は自己の死を想い、また死後の世界を考えていく。そこで問題となる「死後どうなるか」ということは、古くて新しい重大な問題である。しかしその正解は誰も知らない。そもそも死というものが不可逆的な現象だからである。わからないがゆえに人は、その答えをさまざまに模索してきた。死んでしまったらそれで終わりさ、という考え方ももちろん見られる。しかし、肉体が滅んでも、霊魂は引き続き存続するという霊肉二分論的考え方は、歴史を超え、地域を越えて広く見られる死後観念として知られている。新聞社などの実施してきた社会調査の結果からは、わが国で死後の霊魂の存在をはっきりと否定するのは20〜40%で、多い時には60%の人々が死後の霊魂の存在を認めていることが明らかになる。

ならば、そのような死後の霊魂とこの世に残された生者とはいかなる場において関係を取り結ぶことになるのであろうか。本発表においては、そのような装置の一つとしての「遺影」に着目し、現代日本における実態を見る中から、その死生観を考えることとしたい。