タミル文学史の概観

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中世文学後期(1200〜1750年)
チョーラ王朝の衰亡、ムスリム勢力の侵入、4王国抗争の時代、そしてヴィジャヤナガル朝の確立と続くこの時期は、文学上は衰微期である。

ヴィジャヤナガル王朝(14〜16世紀)は熱心にヒンドゥー教を支持したため、各地の僧院(マタ)では学問研究が盛んになり、多くの哲学的作品がマニプラヴァーラム体で書かれた。

メイカンダール(&meykaNTaar、14世紀)は『シヴァニャーナボーダム(&civaJaa_napootam、「シヴァ神智明解」)』などの作品で、シャイヴァ・シッダーンタ派の基盤を固めた。知やヨーガの行を重んじるシッタル(cittar、成就した者)たちが最も活躍したのもこの時期で、宗教史の偉人ターユマーナヴァル(&taayumaa_navar、18世紀)もシッタルの系列につらなる。

サンスクリットのプラーナをもとに、数々のプラーナもタミル語で書かれた。

古典への注釈も文学の一分野として確立するが、代表的な注釈家としてはイランブーラナル(&iLampuuraNar、12世紀)、ナッチナールキニヤル(&nacci_naarkki_niyar、14世紀)、パリメーラリャハル(&parimeelaZakar、14世紀)をあげられよう。

7世紀ごろから発達しはじめた種々の詩作様式プラバンダ(prabandha)は、17世紀ごろまでには96種を数えるようになっていたが、この時期にはアンダーディ(antaati)、ウラー(ulaa)、カランバハム(kalampakam)、コーヴァイ(koovai)、ピッライタミル(piLLaittamiZ)などの分野で多くの作品が著わされた。

タミル地方のムスリムはタミル語を使用していたが、ウマルプラヴァル(&umaRuppulavar、17世紀)はムスリム文学の最高峰である。

15世紀末のポルトガル人の侵入以来、キリスト教も広まり始めたが、宣教師たちは不況のみならず、盛んに文学活動もした。なかでも、イタリア人宣教師ベスキ(J.C.Beschi、1680〜1746)は、タミル語の文法書や辞書を作り、タミル語で多くの作品を書いた。

近代文学前期(1750〜1900年)
イギリスのインド支配の時期である。前代に続き、ムスリム文学、キリスト教文学は盛んである。西欧の宣教師たちの活躍により、印刷術が広まり識字率も高まる。ジャーナリズムも発達し、それとともに散文が発達する。

これまでにも注釈文献などに散文は見られたが、この時期には口語もとりいれ、やがて19世紀には散文による本格的な文学も現れる。 ラージャム・アイヤル(Rajam Iyer、1872〜98)やジャフナのアールムハ・ナーヴァラル(&aaRumuka &naavalar、1822〜76)はその代表的作家である。

一方、西欧の文物に刺激されたタミル知識人は、自らの文化を振り返るようになる。こうして19世紀後半には忘れ去られていた古典が堀りおこされ、次々と出版されるようになる。この「古典の再発見」にもっとも大きな功績を残したのがスヴァーミナタ・アイヤル(U.V.Swaminatha Iyer、1855〜1942)とダモーダラム・ピッライ(S.V.Damodaram Pillai、1832〜1901)である。

宗教文学では、シヴァ派のイラーマリンガ・アディハル(&iraamaliGka &atikaL、1823〜74)が大きな足跡を残した。

近現代文学期(1900年以降)
古典以来の文学伝統をふまえ、口語を盛りこんだ詩や散文により近代文学を確立させたのはスブラマンヤ・バーラティ(Subrahmanya Bharati、1882〜1921)である。彼は『郭公の歌(&kuyil-paaTTu)』や『クリシュナの歌(&kaNNa_n-paaTTu)』などの傑作をものし、一方ではイギリス支配に対し民族意識を高揚させた。

散文では、読みやすい文体でおもに歴史小説を書き、また雑誌アーナンダヴィハダン(&aa_nantavikaTa_n)などを主宰したカルキ(&kalki、1899〜1954)、社会派小説のアヒラン(&akila_n、1922〜)、短編小説の領域を確立させたプドゥマイピッタン(&putumaippitta_n、1904〜48)などがいる。

古典の再発見はタミル人に誇りをもたせ、政治的、文化的、社会的な要素とあいまって、タミル民族意識を高揚させ、やがて反バラモン運動へと発展し、激しい対立をひきおこしている。
現代文学の背景には、このような複雑な情況に加え、過去の栄光という重圧がある。しかし、50年代末からの「新しい詩」運動に見られるごとく、新たな文学への動きも活発である。

(本稿は、早島鏡正監修『仏教・インド思想辞典』(春秋社、1987年、393〜395頁)所収の拙稿に手を加えたものである。)

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