2001年度研究計画

主たる研究テーマと活動

 研究班2の活動の基本的枠組みは、現代世界が抱える社会的、経済的課題を歴史的視点を重視しつつ研究することにある。平成13年度はプロジェクトの最後の年度であり、以下のような研究目的を完成させ、研究の成果を今後のイスラーム地域研究に役立てるような総括的研究を実施する。研究の成果および総合化は、叢書の出版によって実施、公表する予定であるが、研究班2関係では、『民衆運動と民主化』(私市・栗田編)、『聖者信仰と神秘主義』(赤堀・堀川・東長)の2巻を担当する。これらの出版の進捗状況にあわせて研究会を実施する。なお英語による出版も予定しており、その準備をおこなう。
  研究班2は「イスラーム地域における民衆と民主化問題」を重要な研究活動の柱として位置付け、「いま、
なぜ市民社会なのか(1997年度)」、「民主化と社会運動(1998年度)」、「イスラーム地域における民主化と
民衆運動(1999年度)」「ムスリム諸地域における民衆と民衆運動」という4回の国際ワークショップや班全体研究会を実施してきた。このような国際ワークショップや研究会を経て明らかになったのは、イスラーム地域における民主化問題が権力闘争の道具にされており、民衆が政治にどれだけの発言と意思表示ができるのかが、最大の課題となっていることである。
 平成13年度はこの認識の上に立って、イスラーム地域における民衆と民主化問題を、とくに民衆運動の中でのスーフィーと聖者の社会的役割をテーマに、地域間と時代間の比較の視点を重視しつつ、総合的な研究を実施していく。そのため、10月の東京国際会議では「ムスリム諸地域における民衆の中でのスーフィーと聖者」というセッションを担当する。さらに別途、国際会議に招聘する研究者を交えて、同様のテーマの班主催ワークショップも開催を予定している。このワークショップでは、日本の若手研究者に参加を促し、プロジェクトの目的の一つである若手研究者の育成をはかりたい。招聘、海外調査、グループ研究もこれと連動して行う。研究班2を構成する3つの研究グループは、今年度、以下のような活動を予定している。
 aグループは、イスラーム地域における社会開発と密接に関わる様々な社会運動や市民社会、民主化問題の研究を重要な課題として取り上げている。これは、複数政党制や議会制度の実施にもかかわらず、実質的な民主主義が機能していない多くのイスラーム地域諸国の実状に照らして、経済開発は制度的改革のみでなく、社会開発が民主主義の実現のために重要であるとの視点に立ってのものである。さらに、上記の研究課題をイスラームの原理および資料解読による基礎研究にまで立ち戻って研究するため、aグループの活動では、「理性と宗教」および「ジャウィ文書の解読」をとくに重点研究とする。具体的には、イスラーム地域の民主化問題を比較するため、東南アジア、中東、中央アジアの諸地域の事例研究会を5回ないし6回実施する。また、「理性と宗教」および「ジャウィ文書の解読」をテーマに数回の研究会を実施する。
 bグループは、市場経済化と経済発展の担い手、イスラーム経済・金融システムの導入、地域総合構想、商業・流通・労働力ネットワーク、石油・天然ガス等資源開発と環境問題との関わりなどのテーマを、イスラーム地域との関連の中で研究していく。具体的には、イスラーム諸地域における経済開発が、民衆の人権や環境問題にいかなる影響を与えているかを主題として、5回ないし6回の研究会を実施する。なおエジプトからNGO研究者を招聘し、意見交換と研究会を行う。
 cグループは、スーフィズム、聖者信仰、タリーカをめぐる複合的事象を中心的課題としてとりあげる。その理由は、これらの諸課題には思想的洗練と民衆信仰が交錯し、社会組織としての多様な政治経済活動が見られ、なおかつ歴史性と今日性を併せ持つが故に、地域、時代、研究分野を横断した包括的課題であるからである。具体的には,上記の複合的事象を現代社会の民衆の生活や福祉との関係で研究するため、事例研究と理論研究を交錯させて、5回ないし6回の研究会を実施するとともに、今年度具体的な成果を活字媒体もしくは電子媒体の形で発表する。
 各グループの活動に関しても、班全体の活動に関しても、研究の成果は、プロシーディングや論文として明確な形にするための努力をおこなう。2000年度の国際ワークショップ"People and Popular Movements in Muslim Areas"および1997年度の国際ワークショップ"Ziyara: Ethno-Historical Study of Musulim Visitation to Religious Places"の2つについて、英文プロシーディングを年度内に刊行することである。今年度予定のワークショップについても同様の成果刊行に向けて準備に着手する。また、cグループでは、スーフィズム,聖者信仰、タリーカの研究に有用と思われる諸概念や人名、地域についてグローサリーなど諸資料を作成し、順次ホームページ上にて公開していく。