統合的認知研究の代表的成果解説
以下に取り上げるのは、2008年10月以降に掲載もしくは今後掲載予定の統合的認知に関する学術論文の内容紹介です。(それ以前の代表的高次視覚研究の学術論文の紹介はこちら、主な学術論文年代別一覧はこちら、主な学術論文の掲載学術誌別一覧はこちら)
なお、IFはインパクト ファクター (Impact Factor)を表しますが、異分野間の比較は難しいものの、心理学分野内での相対比較は可能なので、日本心理学会が発行する英論文誌Japanese Psychological ResearchのIF:0.830(2020)が比較参考値になるかもしれません。
Okubo & Yokosawa (in press)は、周辺視野領域が無彩色化された画像において色知覚する周辺色錯視を、二重課題パラダイムを用いて、観察者の注意配分を操作した上で、感度と判断バイアスを別々に分析した結果、双方とも周辺色錯視に及ぼす影響を明らかにしました。Journal of Vision は、米国の学術論文誌です (IF:1.830/2020)。
L. Okubo & K. Yokosawa (in press). Attentional allocation and the pan-field color illusion, Journal
of Vision.
光と音の同時性知覚は、直近の経験に基づき柔軟に変化し、時間的に再較正されることが知られています。Uno & Yokosawa (2022)は、「高ピッチの音ほど高い位置の視覚刺激と結びつきやすい」という知覚・認知傾向(感覚間協応)が、時間的再較正に影響するか検討しました。その結果、協応関係に整合する視聴覚入力間の時間ずれが選択的に補正されるような形で時間的再較正が生じることが明らかになりました。Scientific Reportsは、 英国の学術論文誌です(IF:4.120/2020)。
K. Uno & K. Yokosawa (2022). Cross-modal correspondence between auditory pitch and visual elevation modulates audiovisual temporal recalibration, Scientific Reports, https://doi.org/10.1038/s41598-022-25614-3.
視聴覚の時間的統合における感覚間協応の役割
視覚刺激と聴覚刺激が呈示されると、統合されて同時に発せられたように知覚されるか、あるいは分離されて時間ずれがあるように知覚されます。Uno & Yokosawa(2022)は、時間的腹話術効果に焦点を当て、刺激特性間の感覚間協応の視聴覚統合の強さへの影響を検討しましたが、視覚的注意のシフトを媒介した擬似的な効果である可能性が示されました。Attention, Perception & Psychophysicsは、米国の学術論文誌です(IF:1.900/2020)。
K. Uno & K. Yokosawa (2022). Pitch-elevation and pitch-size crossmodal correspondences do not affect temporal ventriloquism, Attention, Perception & Psychophysics.
共感覚、感覚間協応、多感覚統合の特性と基盤メカニズム
大野、横澤、鳴海(2022)は、異なる感覚間の相互作用処理であり、統合的認知を代表する共感覚、感覚間協応、多感覚統合を取り上げ、各概念を特性と基盤メカニズムの2つの観点から整理したうえで、統合的認知の感覚提示インタフェースへの応用可能性を検討しました。日本バーチャルリアリティ学会論文誌は、日本の学術論文誌です。
大野、横澤、鳴海 (2022). 多感覚の統合的認知の基礎と感覚提示インタフェースへの応用可能性, 日本バーチャルリアリティ学会論文誌. 27, 1, 18-28.
身体運動の遅延フィードバックによる身体近傍空間の拡張
身体近傍空間には多感覚の性質があることが報告されています。Mine & Yokosawa (2021)は、バーチャル空間内で身体運動の視覚フィードバックが遅延した状況では、多感覚的な身体近傍空間が拡張することを明らかにしました。これは、身体運動の遅延が遠刺激の潜在的な脅威の増加を反映していると考えられます。Attention, Perception & Psychophysicsは、米国の学術論文誌です(IF:1.900/2020)。
D. Mine & K. Yokosawa (2021). Adaptation to delayed visual feedback of the body movement extends multi-sensory peripersonal space, Attention, Perception & Psychophysics..
距離推定は、推定者と標的との間に配置された透明な障壁幅によっても影響を受けることが知られていましたが、Mine, Kimoto, & Yokosawa (2021)は、仮想空間における障壁の視覚的および触覚的な呈示が、その背後にある標的までの距離推定に影響を与えることを確認するとともに、障壁が接触可能であるが見えない場合や、障壁が見えるが貫通可能である場合には、障壁幅の影響は確認されず、様々な要因が距離推定に関与することを明らかにしました。Frontiers in Virtual Realityは、 スイスの学術論文誌です。
D. Mine, S. Kimoto, & K. Yokosawa (2021). Obstacles affect perceptions of egocentric distances in virtual environments. Frontiers in Virtual Reality.
色字共感覚は、文字と色の結びつきが時間的に安定しています。どの文字がどの色を感じるのかという。文字と色の結びつきは、読みの一致度、色名の頭文字(「Yは黄色」)、意味の関連付け(「Dは犬を表し、犬は茶色」)などの言語特性の影響を受けることが知られていました。これまでの共感覚研究は、国際的には、英語に関する共感覚が数多く行われてきましたが、Root, Asano, Melero, Kim, Sidoroff-Dorso, Vatakis, Yokosawa, Ramachandran, Rouw (2021)では、オランダ語、英語、ギリシャ語、日本語、韓国語、ロシア語、スペイン語の共感覚関連に対する色名、意味的関連、および非言語的形状-色関連の影響を調べました。言語的要因の影響は、言語間で大きく異なりましたが、普遍的であると予測した非言語的影響(形状と色の関連)は、言語間に違いはありませんでした。共感覚は、様々な言語での文字表象の影響を研究するために有効な現象であると考えられます。Consciousness and Cognitionは、オランダの学術論文誌です (IF2.110/2020)。
N. B. Root, M. Asano, H. Melero, C.-Y. Kim, A. V. Sidoroff-Dorso, A. Vatakis, K. Yokosawa, V. Ramachandran, & R. Rouw (2021). Do the colors of your letters depend on your language? Language-dependent and universal influences on grapheme-color synesthesia in seven languages, Consciousness and Cognition.
多感覚促進効果における身体近傍空間の調整と注意バイアスの影響
Mine & Yokosawa (2021)は、身体近傍空間において、触覚刺激単独よりも、視触覚刺激に対して速く反応できる多感覚促進効果を、注意バイアスの影響を統制して調べた結果、多感覚促進効果の強さが様々な整合性条件によって異なり、このような変動をもたらす身体近傍空間の調整は、注意バイアスと関係ないことを明らかにしました。Experimental Brain Researchは、ドイツの学術論文誌です(IF: 1.950/2020)。
D. Mine & K. Yokosawa (2021). Does response facilitation to visuo-tactile stimuli around remote-controlled hand avatar reflect peripersonal space or attentional bias? Experimental Brain Research.
身体から切り離された手のアバター周辺への身体近傍空間の転移
自分自身の身体に近い領域は身体近傍空間と呼ばれます。Mine & Yokosawa (2021)は、バーチャル空間において、自分自身の身体と切り離された手のアバターを操作したときには、身体から遠くに呈示された手のアバター周辺にも、身体近傍空間が転移することを明らかにしました。この結果は、身体近傍空間が従来知られていたよりも高い柔軟性を持つことを示しています。Attention, Perception & Psychophysicsは、米国の学術論文誌です(IF:1.900/2020)。
D. Mine & K. Yokosawa (2021). Remote hand: Hand-centered peripersonal space transfers to a disconnected hand avatar, Attention, Perception & Psychophysics, 83, 3250-3258..
周辺視野におけるドットが、格子付近の特定の空間配置に置かれたとき、消失する現象は、消失錯視と呼ばれています。Okubo, Yokosawa, Sawayama, & Kawabe (2021)は、周辺視野における視覚系が格子交点のエネルギーを割り引き、ドットのない交点での視覚信号に匹敵する強度の視覚信号が生成されると、視覚信号であるドットが見過ごされるという仮説の妥当性を実験的に確認しました。この結果は、刺激エネルギーに依存する割り引きメカニズムが周辺物体の認識を規定することを示しています。Consciousness and Cognitionは、オランダの学術論文誌です (IF2.110/2020)。
L. Okubo, K. Yokosawa, M. Sawayama, & T. Kawabe (2021). Discounting mechanism underlies extinction illusion, Consciousness and Cognition.
Uno, Asano, & Yokosawa (2021)は、日本人共感覚者の縦断的研究を実施し、色字共感覚の長期間における経年変化を調べました。短期および長期(5〜8年)の時間安定性を比較した結果、短期的時間安定性が低い文字は、長期的時間安定性も低い傾向があり、両者の相関は高く、文字と共感覚色の組み合わせの時間的安定性が文字毎に決まっていることが明らかになりました。さらに、親密度の低い文字は、その共感覚色の時間安定性も低くなりました。親密度の低い文字の共感覚色は、時間の経過とともに変化しやすく、文字と共感覚色の対応関係が弱い統合であることを反映していると考えられます。Consciousness and Cognitionは、オランダの学術論文誌です (IF2.110/2020)。
K. Uno, M. Asano, & K. Yokosawa (2021). Consistency ofsynesthetic association varies with grapheme familiarity: A longitudinal study of grapheme-color synesthesia, Consciousness and Cognition.
横澤(2021)では、日本語の特性を利用し、色字共感覚の解明を目指した研究を紹介するとともに、色字以外の共感覚を含めて分類し、それらの特性を明らかにしています。さらに、多重共感覚の特徴について触れています。脳神経内科は、日本の学術論文誌です。
横澤 (2021). 共感覚, 脳神経内科, 95, 2, 195-201.
身体の周辺の空間は身体近傍空間と呼ばれ、人間が身体を使って外界のオブジェクトとの物理的干渉を行う上で、視覚運動を支える働きを持つが、Mine & Yokosawa (2021)は、実身体から切り離された手のアバターを用い、遠方に手のアバターが提示されると、その位置に身体近傍空間が出現することを示しました。この結果は、身体から分離されているアバターであっても、そのアバターを使って視覚運動が可能な状況であれば身体表象に組み込まれうるということを示すもので す。Experimental Brain Researchは、ドイツの学術論文誌です(IF: 1.950/2020)。
D. Mine & K. Yokosawa (2021). Disconnected hand avatar can be integrated into the peripersonal space, Experimental Brain Research, 239, 1, 237-244.
Uno & Yokosawa (2020)は、共感覚者が文字を見た時に感じる色(共感覚色)が明るさ知覚に影響するかについて検討しました。標準刺激に対する文字の物理的な明るさの主観的等価点を恒常法により測定した結果、明るい共感覚色を励起する文字は暗い共感覚色を励起する文字よりも明るく知覚されることが示されました。この効果は共感覚色を外部空間に感じない共感覚者(連想型)においても見られ、励起した共感覚色が低次の視覚情報処理を変容させることが明らかになりました。Scientific Reportsは、 英国の学術論文誌です(IF:4.120/2020)。
K. Uno & K. Yokosawa (2020). Apparent physical brightness of graphemes is altered by their synaesthetic colour in grapheme-colour synaesthetes Scientific Reports, 10:20134. DOI:10.1038/s41598-020-77298-2
Mine, Ogawa, Narumi, & Yokosawa (2020)は、瞳孔間距離を大きくすると外界が縮小して認知されることに着目し、VR空間に置いて瞳孔間距離の変化による外界の見えの変化が身体の大きさ認知に与える影響を調べました。瞳孔間距離を広げ視点を上昇させると、自身の身体を基準に外界のスケールの縮小と認知する一方、瞳孔間距離を固定したま ま視点を上昇させると、外界のスケールが変化したと感じにくく、身体と外界のどちらかが絶対的な基準になるのではなく、我々は様々な情報からどちらが変化したと考えるのが妥当かを導き出していることを明らかになりました。PLOS ONEは、 米国の学術論文誌です (IF:2.870/2020)。
D. Mine, N. Ogawa, T. Narumi, & K. Yokosawa (2020). The relationship between the body and the environment in the virtual world: The interpupillary distance affects the body size perception. PLOS ONE 15(4): e0232290.
色字共感覚では一般的に、未知の文字には色を感じないが、「その新奇文字は既知文字のAに相当する」のように既知文字に対応づけて学習させると、すぐに既知文字の共感覚色が転移する形で新奇文字に色を感じるようになることが知られていました。Uno, Asano, Kadowaki, & Yokosawa (2020)では、色字共感覚の保持者に新奇文字(未知のタイ文字)を提示し、それぞれに異なる既知文字(平仮名)を1文字ずつ対応づけて学習させました。その結果、既知文字の共感覚色が互いに異なる色であった場合に比べて、既知文字すべてが似た共感覚色を持つ場合は転移が起こりにくいことが分かりました。これは、共感覚色が文字の学習時に文字の弁別に使われ、学習を補助するという仮説と整合的な結果です。Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です(IF: 3.640/2020)。
K. Uno, M. Asano, H. Kadowaki, & K. Yokosawa (2020). Grapheme-color associations can transfer to novel graphemes when synesthetic colors function as grapheme “discriminating markers", Psychonomic Bulletin & Review, 27, 4, 700-706.
熊倉、信田、浅野、横澤(2019)では、日本人における「和風/洋風」の概念を用いて参加者の文化的な構えを操作することによる色嗜好への影響を調べ、文化的構えを与えたときの、色嗜好の変化量は、米国色らしさ/伝統色らしさと正の相関があったことから、文化的な構えが色嗜好を変化させ、柔軟に変動することが分かりました。基礎心理学研究は、日本の学術論文誌です。
熊倉、信田、浅野、横澤 (2019). 文化的な構えが色嗜好に与える影響, 基礎心理学研究, 38, 1, 26-32.
永井、横澤、浅野(2019)では、非共感覚者が示す色字対応において共感覚者と同様の規則性が存在する可能性を再検討し、文字頻度や、BerlinとKayの色類型・色名の頻度といった特性は、直感的な色順位,五十音順序との間でそれぞれ有意な相関を示しました。すなわち,これらの特性は色字対応が形成される際の手がかりとして関与していることが確かめられたことになります。認知科学は、日本の学術論文誌です。
永井、横澤、浅野 (2019). 非共感覚者が示すかな文字と色の対応付けとその規則性, 認知科学, 26, 4, 426-439.
心理言語学的アプローチを用いた漢字の共感覚色の決定要因の解明
Asano, Takahashi, Tsushiro, & Yokosawa(2019)では、色字共感覚における根本的な疑問である文字と色の間の特定の対応づけがどのように形成されるかについて、心理言語学的アプローチを用いて、漢字の共感覚色の決定要因に焦点を当てた研究を行いました。漢字反対語ペアの共感覚色を調べることによって、意味が漢字の共感覚色に影響を与えることを明らかにしました。また、学校教育での漢字の学習の順序が共感覚色に及ぼし、漢字の新しい読みや意味を習得すると、漢字と色の一貫性がわずか
に変化することから、漢字に対する最新の知識を共感覚色に反映できることを示しています。Philosophical Transaction of The Royal Society
Bは、英国の学術論文誌です(IF:6.139/2018)。
M. Asano, S. Takahashi, T. Tsushiro, & K. Yokosawa (2019). Synaesthetic
colour associations for Japanese Kanji characters: From the perspective of grapheme learning, Philosophical Transaction of The Royal Society
B, 374: 20180349.
Kumakura, Schmid, Yokosawa, & Werner (2019)では、従来の液晶ディスプレイの約1.5倍の色域を表示できる量子ドットディスプレイ上で、画像の彩度を変化させると、元画像の彩度レベルに
依存して、元画像の彩度か、あるいはそれより高い彩度レベルが好まれ、最も好まれた彩度レベルよりもさらに画像の彩度を上げても、価値性や覚醒性などの画像の主観的な印象が低下しないことを明らかにしました。Color
Research and Applicationは、米国の学術論文誌です(IF:1.027/2018)。
E. Kumakura, K. Schmid, K. Yokosawa, & A. Werner (2019). Subjective evaluation of natural high-saturated images on a wide gamut display, Color Research and Application, 44, 6, 886-893.
宇野、浅野、横澤(2019)では、⽇本語の漢字に対する共感覚色を最⼤2色まで回答させる実験を⾏った結果,偏と旁に分かれる漢字は分かれない漢字に⽐べて回答される色の数が多く、この傾向は連想型共感覚者より、投射型共感覚者ほど強いことが明らかにしました。この結果から、漢字の形態情報は対応付けられる共感覚色の数に影響しており,投射型傾向の強い共感覚者では漢字の構成要素ごとの情報が色字対応付けに影響している可能性が⽰されたことになります。心理 学研究は、日本の学術論文誌です。なお、本論文に対して日本心理学会から、 が授与されました。
宇野、浅野、横澤 (2019). 漢字の形態情報が共感覚色の数に与える影響、心理学研究, 89, 6, 571-579.変化検出に対する視覚的注意の維持の影響が明らかにされてきましたが,その結果に対して異なる説明も可能でした。中島、横澤(2018)は,ブランクが長い場合に観察者が戦略的に視覚的注意を移動させることができるが,ブランクが短い場合にはできないという説明では,変化検出成績の差を説明できないことを示しました。この結果は,視覚的注意がある空間位置に短いブランク時間のみ維持されるという主張を支持するものです。心理学研究は、日本の学術論文誌です。
中島、横澤 (2018). 視覚的注意の時空間的維持による変化検出の促進、心理学研究, 89, 5, 527-532.E.Matsuda, Y. Okazaki, M. Asano, K. Yokosawa (2018). Developmental Changes in Number Personification by Elementary School Children, Frontiers in Psychology, 9:2214, DOI:10.3389/fpsyg.2018.02214
Li, Nakashima, & Yokosawa (2018)は、物が存在する領域が小分けになっていれば、全体の数量を効率的に判断できることを明らかにしました。等分割ではない大雑把な小分けであっても、数量の数え上げや見積もりの効率が劇的によくなることが実験的に示され、本来数量判断とは無関係と思われる情報が、数量判断を促進することが分かりました。この成果は、数量判断について、効率性を向上させる方法という新しい切り口で検討したものであり、数量判断の際に起こりがちな二重カウントや見逃しなどの間違いを防ぐといった、さまざまな日常場面で効率的に数量を把握する方法を 考えるヒントにもつながることが期待されます。Scientific Reportsは、英国の学術論文誌です(IF:4.525/2018)。
Q. Li, R. Nakashima, & K. Yokosawa (2018). Task-irrelevant spatial dividers facilitate counting and numerosity estimation, Scientific Reports, 8:15620. DOI:10.1038/s41598-018-33877-y
共感覚の特徴の一つは個人特異性なのですが、アルファベットのAの共感覚色はほとんどの場合赤であり、それはappleのAだからではないかという推測もされていたのですが、Root, Rouw, Asano, Kim, Melero, Yokosawa, & Ramachandran (2018)は、英語、スペイン語、オランダ語、韓国語、日本語の色字共感覚特性の比較によって、言語に依存しない共通性を分析しました。仮名のあ、アなどの共感覚色も赤であることが多く、多種の文字セットを使用する日本語を使った研究データが活かされ、文字セットの最初の文字 の共感覚色が赤になるという共通性が導き出されました。Cortexは、英国の学術論文誌です(IF:4.275/2018)。
N. B. Root, R. Rouw, M. Asano, C.-Y. Kim, H. Melero, K. Yokosawa, & V. S. Ramachandran (2018). Why is the synesthete's "A" red? Using a five-language dataset to disentangle the effects of shape, sound, semantics, and ordinality on inducer-concurrent relationships in grapheme-color synesthesia, Cortex, 99, 375-389.
Nakashima & Yokosawa (2018)は、提示時間間隔や提示位置を操作しながら、2つの物体を継時的に提示する変化検出課題を行い、集中的注意を向け続けることで、物体間の変化検出が促進されるものの、標的物体が提示され続けると、それに集中的注意を向け続けている効果が減弱してしまうことを明らかにしました。Visual Cognitionは、英国の学術論文誌です(IF:1.147/2018)。
R. Nakashima & K. Yokosawa (2018). To see dynamic change: Continuous focused attention facilitates change detection, but the effect persists briefly, Visual Cognition, 26, 1, 37-47.
復帰の抑制は、一度注意を向けた位置に再び注意を向けないように、その位置を抑制する現象です。Niimi, Shimada, & Yokosawa (2017)は、日常物体を使った実験により、復帰の抑制現象を確認しましたが、その効果はすぐに減弱してしまうことを明らかにしました。日常物体を使っ た実験では、従来報告されたきた復帰の抑制とは異なる効果が得られる可能性があります。Japanese Psychological Researchは、日本の学術論文誌です(IF:0.758/2018)。
R. Niimi, H. Shimada, & K. Yokosawa (2017). Inhibition of Return Decays Rapidly When Familiar Objects Are Used. Japanese Psychological Research, 59, 2, 167-177.
従来、英語圏の研究では、色字共感覚者が示す文字と色の組み合わせが、非共感覚者とは全く異なる規則性に従っているというのが半ば定説でした。Nagai, Yokosawa, & Asano (2016)では、日本語圏の非共感覚者が示す文字と色の組み合わせにおいて、英語圏および日本語圏の色字共感覚者と同様のバイアスや規則性があることを見出しました。Quarterly Journal of Experimental Psychologyは、英国の学術
論文誌です (IF:2.129/2016)。
J. Nagai, K. Yokosawa, & M. Asano (2016). Biases and regularities of grapheme-colour associations in Japanese nonsynaesthetic population, Quarterly Journal of Experimental Psychology, 69, 1, 11-23.
斜め向きの物体認知と奥行き手がかり
Nonose, Niimi, & Yokosawa (2016)では、日常物体認知において、正面向きや横向きが好まれる物体はあるものの、特に斜め向きが好まれる理由を調べた結果、主観的な良さや親近性よりも、斜め向きのときに奥行き手がかりが豊富であるためであることが確認しました。Psychological Researchは、ドイツの学術論文誌です(IF3.119/2016)。
K. Nonose, R. Niimi, & K. Yokosawa (2016). On the three-quarter view advantage of familiar object recognition, Psychological Research, 80, 6, 1030-1048.
色嗜好の日米比較
Yokosawa, Schloss, Asano, & Palmer (2016)では、日米の色嗜好について調べた結果、青や彩度の高い色が好まれ、暗い黄色は嫌われるという共通点がある一方、明るい色は米国人より日本人に好まれるという相違点があることを見出しました。また、日米の両文化に接している留学生などの色嗜好が中間的になることも確認しました。これらの結果は、色嗜好が文化に起因する個人的な経験によって変化することを明らかにしています。Cognitive Science.は、米国の学術論文誌です(IF:2.917/2016)。
K. Yokosawa, K. B. Schloss, M. Asano, & S. E. Palmer (2016). Ecological Effects in Cross-Cultural Differences between US and Japanese Color Preferences, Cognitive Science, 40, 7, 1590–1616.
オブジェクトと背景の整合性効果と見えの関係
オブジェクトと背景が整合的なときに、オブジェクト認知は促進されることが知られていますが、Sastyin et al (2015)は、この現象がオブジェクトの見えに依存することを見いだしました。たとえば、典型的見えよりも偶然的見えの方が整合性効果が大きな影響を受 けることを示しています。Attention, Perception & Psychophysicsは、米国の学術論文誌です(IF:1.863/2016)。
G. Sastyin, R. Niimi, & K. Yokosawa (2015). Does object view influence the scene consistency effect?, Attention, Perception & Psychophysics, 77, 3, 856-866.
時間位相弁別課題は,主に視覚やクロスモダリティの研究において用いられてきましたが、Kanaya et al.(2015)は、この課題を聴覚に適用し、刺激系列間周波数距離や呈示する耳(別耳/同耳)などの操作による時間限界の変動を調べた結果、近距離条件の時間限界が遠距離条件より も高く,同耳条件の時間限界が別耳条件よりも高くなりました。すなわち、聴覚でも同属性内の対応付けにおいて,比較的高い時間限界となることが明らかになりました。Perceptionは、 英国の学術論文誌です(IF:1.087/2016)。
S. Kanaya, W. Fujisaki, S. Nishida, S. Furukawa, & K. Yokosawa (2015). Effects of frequency separation and diotic/dichotic presentations on the alternation frequency limits in audition derived from a temporal phase discrimination task, Perception,44, 2, 198–214.
重要な疾患部位を見逃さない放射線科医
専門家は、自分たちの専門分野での課題において、一般人よりも高いパフォーマンスを出すことが知られています。Nakashima et al.(2015)では、放射線科医の読影作業を対象にして、彼らが全ての病変を同等に検出しているわけではなく、重要な病変に特化した検出特性を持って いることを示しました。すなわち、放射線科医は、重要な病変とそうではない病変の検出感度を変えることで、最適な検出方略を身につけていると考えられます。Psychological Researchは、ドイツの学術論文誌です (IF3.119/2016)。
R. Nakashima, C. Watanabe, E. Maeda, T. Yoshikawa, I. Matsuda, S. Miki, & K. Yokosawa (2015). The effect of expert knowledge on medical search: Medical experts have specialized abilities for detecting serious lesions, Psychological Research, 79, 5, 729-738.
正田、黒田、横澤(2015)では、マジック動画観察時の眼球運動を計測することで,人物の存在やその視線の影響による注視点位置の変化を検証しました。その結果,マジシャンの顔やその視線方向が,注視位置に影響を及ぼすことが明らかになり、他者の存在が,観察者の注視行動に影響すると考えられます。認知心理学研究は、日本の学術論文誌です。
正田、黒田、横澤 (2015). マジック状況における人間の顔や視線方向への偏重注視、認知心理学研究, 12, 2, 69-76.
変化の見落としに関する多くの研究が,変化検出における視覚的注意に対する時間的な要因(例えば,ブランク時間の長さ)について検討してきました。中島、横澤(2015)では,画像シフトによる変化の見落とし課題を用いて,変化検出に対する空間的な要因の影響を調べています。画像シフトに基づく変化の見落とし課題においても,視覚的注意が重要な役割を果たしていることが示されました。心理学研究は、日本の学術論文誌です。
中島、横澤(2015). 画像シフトによる変化の見落としにおける持続的注意の役割、心理学研究, .85, 6, 603-608.
刺刺激反応適合性効果における左右と上下の空間表象特性の共通性と特殊性について、西村、横澤(2014)では,単独では左右と上下の適合性効果は同程度ですが,時間特性の違いがあり,刺激位置,反応位置ともに左右,上下両次元で変化し,空間的適 合性が同時に左右と上下の両次元において存在するとき,左右の適合性効果は上下の適合性効果よりも大きくなる現象を取り上げています。また、左右と上下の空間表象間の認知的対応について論じています。心 理学評論は、日本の学術論文誌です。
西村、横澤 (2014). 刺激反応適合性効果からみた左右と上下の空間表象、心理学評論, 57, 2, 235-257.
共感覚者と文字をつなぐ色インタフェースとしての共感覚色の役割が指摘されています。浅野、横澤(2014)では、これまでの研究で得られてきた、色字共感覚の基本的性質、文字と共感覚色の組合せの規定因、色字対応付けの文字習得過程仮説などを紹介しています。色字共感覚における共感覚色の 特性を理解することで、より良い色インタフェースにつなげることへの期待を述べています。ヒューマンインタフェース学会誌は、日本の学術論文誌です。
浅野、横澤 (2014). 色字共感覚:文字認知と色認知の隠れた結びつき、ヒューマンインタフェース学会誌, 16, 4, 265-268.
横澤(2014)では、要素還元的な脳機能の理解ではなく、人間行動そのものの理解へ導くための新たな認知心理学的アプローチとして、統合的認知の研究に取り組む重要性を指摘し、注意,オブジェクト・情景認知、身体と空間の表象、感覚融合認知、美感、共感覚などの研究を紹介しています。この ような研究群の中から、トレードオフ関係,インプリシット結合,個人差の問題に取り組んだ具体的研究例を紹介しています。認知科学は、 日本の学術論文誌です。
横澤 (2014). 統合的認知、認知科学, 21, 3, 295-303.
Yamashita, Niimi, Kanazawa, Yamaguchi K., & Yokosawa (2014)は、日常物体において斜め前方向からの見えが好まれる傾向が,どの発達段階で発現するかを選好注視による実験で調べたところ,8ヶ月児では成人と同様の傾向が見られる一方、6ヶ月児には見られませんでした。すなわち、日常物体認知における視点依存効果が、生後6ヶ月から8ヶ月の間に発現することが明らかになりました。Journal of Vision は、米国の学術論文誌です (IF:2.671/2016)。
W. Yamashita, R. Niimi, S. Kanazawa, M. Yamaguchi K., & K. Yokosawa (2014). Three-quarter view preference for three-dimensional objects in 8-month-old infants, Journal of Vision, 14(4), 5, 1-10. doi:10.1167/14.4.5
日本語の場合、文章内の語順は比較的自由ですが、「AさんがBさんに本を返した」のように読みやすい語順と「Bさんに本をAさんが返した」のように読みにくい語順があります。Tamaoka, Asano, Miyaoka, & Yokosawa (2014)は、このようなさまざまな語順の文章を読んでいる最中の眼球運動を計測することにより、日本語文章の理解過程を明らかにしました。Journal of Psycholinguistic Researchは、米国の学術論文誌です (IF:0.660/2016)。
K. Tamaoka, M. Asano, Y. Miyaoka, & K. Yokosawa (2014). Pre- and post-head processing for single- and double-scrambled sentences of a head-final language by the eye tracking method, Journal of Psycholinguistic Research, 43, 2, 167-185.
放射線科医の経験と視覚探索特性の関係
医療画像の中の疾患部位検出作業を行う放射線科医の視覚探索特性は、専門家として優れていると考えられますが、詳細はよく分かっていませんでした。Maeda et al (2013)は、放射線科医の疾患部位検出感度が非常に高いことを確認すると共に、経験年数によってその能力が高まる場合があることも確認しました。SpringerPlus は、ドイツの学術論文誌です(IF:0.982/2016)。
E. Maeda, T. Yoshikawa, R. Nakashima, K. Kobayashi, K. Yokosawa, N. Hayashi, Y. Masutani, N. Yoshioka, M. Akahane & K. Ohtomo (2013). Experimental system for measurement of radiologists' performance by visual search task, SpringerPlus, 2:607. DOI: 10.1186/10.1186/2193-1801-2-607
色字共感覚と文字の習得過程の深い関係
文字に色を感じる色字共感覚についての様々な先行研究で、文字の音韻、形態、親密度など文字に関連付けられた様々な情報が、文字に感じる色(共感覚色)に影響しうることが明らかにされてきました。しかし、そのように影響しうる要因が多数ある中で、どうやって共感覚色が1色に絞られるのかは謎でした。この謎 を解くために、Asano & Yokosawa (2013b)では、幼少期に文字を習得する過程を考慮に入れた新しい仮説を提案し、また、その仮説が妥当であることを実験的に示しました。この仮説は「英語の色字共感覚では音韻の影響が弱いのに、日本語では強い」というような言語間での違いも含め、文字と共感覚色の結びつきかたを包括的に説明することができます。Frontiers in Human Neuroscienceはスイスの学術論文誌です (IF:3.209/2016)。
M. Asano & K. Yokosawa (2013b). Grapheme learning and grapheme-color synesthesia: Toward a comprehensive model of grapheme-color association, Frontiers in Human Neuroscience, 7:757. DOI: 10.3389/fnhum.2013.00757
Asano & Yokosawa (2013a)は、文字習得以前の段階で言語音や数などの基本的な概念と色の結びつきが存在し、その色が初期の文字種の学習時に共感覚色として文字に対応づけられ、その後学習する文字種の共感覚色に汎化するという仮説が、共感覚色の色差と、音韻類似度、形態類似度、順序差などとの重回帰分析の結果、妥当であることを示しました。Visual Cognitionは、英国の学術論文誌です(IF:1.372/2016)。
M. Asano & K. Yokosawa (2013a). Determinants of synaesthetic colours for different types of graphemes: Towards a comprehensive model, Visual Cognition, 21, 6, 674-678. (Object Perception, Attention, and Memory (OPAM) 21st Annual Meeting, Toronto, Canada (November, 2013) Conference Report)
Nakashima, Kobayashi, Maeda, Yoshikawa, & Yokosawa (2013)は、医療画像診断を対象として、一般人が訓練を通じて専門家になる場合に、どのようなスキルを獲得するのかを検討しました。その結果、医療画像中の病変を探索するという課題を繰り返し行うと、病変を含まない健康な状態の認識精度が向上することを明らかにしました。これは、画像診断の専門家である放射線科医が、正常状態から逸脱した異常を見逃さない視覚探索スキルに至る初期段階の特性を示していると考えられます。Frontiers in Psychologyは、スイスの学術論文誌です(IF: 2.323/2016)。
R, Nakashima, K. Kobayashi, E. Maeda, T. Yoshikawa, & K. Yokosawa (2013). Visual search of experts in medical image reading: The effect of training, target prevalence, and expert knowledge, Frontiers in Psychology, 4:166. DOI: 10.3389/fpsyg.2013.00166
仕切りのある領域での視覚探索
日常生活では、いくつかにわけられた領域に存在するアイテムの中から標的を探すという場面が多いと思います(例えば、本棚から本を探す、冷蔵庫の中からバターを探す等)。 Nakashima& Yokosawa (2013)では、探索領域が仕切りによって区切られていると、すぐに標的が見つかる場合には探索が阻害され、ある程度時間をかけないと標的が見つからな い場合には探索が促進されることを明らかにしました。この結果は、日常生活での視覚探索についての理解をすすめるためにも有効です。Attention, Perception & Psychophysicsは、米国の学術論文誌です(IF:1.863/2016)。
R. Nakashima & K. Yokosawa (2013). Visual search in divided areas: Dividers initially interfere with and later facilitate visual search, Attention, Perception & Psychophysics, 75, 2, 299-307.
刺激と反応が同側にある場合,逆側にある場合よりも反応がはやく正確です。西村、横澤(2012)では,この空間的刺激反応適合性効果について,刺激位置が課題とは無関係な場合であるサイモン効果も含めて,視覚モダリティを中心に解説しています。心 理学評論は、日本の学術論文誌です。
西村、横澤 (2012). 空間的刺激反応適合性効果、心理学評論, 55, 4, 436-458.
Kanaya, Matsushima, & Yokosawa (2012)は、作り物の手を自分の手と感じる錯覚であるラバーハンド錯覚を利用することで、手に触れている物体の見た目と実際の温度を独立に操作する手法を考案し、見た目によって温度の錯覚が生じることをつきとめました。PLoS ONEは、 米国の学術論文誌です (IF:2.806/2016)。
S. Kanaya, Y. Matsushima, & K. Yokosawa (2012). Does Seeing Ice Really Feel Cold? Visual-Thermal Interaction under an Illusory Body-Ownership, PLoS ONE, 7(11): e47293. DOI:10.1371/journal.pone.0047293
腹話術効果とMcGurk効果の生起に影響を及ぼす音韻整合性
横澤・金谷(2012)では、視聴覚間の音韻整合性が、聴覚的音源定位に影響し、提示された顔刺激の中で音韻整合性が高い発話側に偏ることが明らかになりました。同時に、視聴覚間の音韻整合性による錯覚の代表的現象であるMcGurk効果の生起も確認できました。複数の顔が同時に提示されるときには、発話 音源らしい顔を選ぶためには音韻整合性も考慮されることを示しました。BRAIN and NERVEは、日本の学術論文誌です。
横澤、金谷 (2012). 顔と音声の感覚融合としての腹話術効果, BRAIN and NERVE, 64, 7, 771-777.
日本語文字の習得過程に起因する色字共感覚の決定要因
一部の人には”「あ」は赤”のように文字に特定の色を感じるという色字共感覚が生じますが、そのメカニズムはいまだ明らかではありません。Asano & Yokosawa (2012)は、共感覚色がまず平仮名やアラビア数字など最も幼少期に学習した文字に結びつき、それが文字の音韻や意味の情報を介在して、後に学習した漢字の共感覚色に汎化する可能性を 明らかにしました。複数の文字種を段階的に身につけていく日本語の特性を生かし、共感覚に言語処理のメカニズムが深く関わっていることを示した研究成果です。Consciousness and Cognitionは、オランダの学術論文誌です (IF2.144/2016)。
M. Asano & K. Yokosawa (2012). Synesthetic colors for Japanese late acquired graphemes, Consciousness and Cognition, 21, 2, 983-993.
変化検出には、動的な変化検出(あるオブジェクトが変化した瞬間の観察)と、完了した変化の検出(変化後のオブジェクトを見て先ほど見たものと違っているから変化したと判断する)という2種類があり、それらは変化前後のオブジェクトの間に挿入されるブランク時間の長さに基づいていると考えられています。 Nakashima & Yokosawa (2012)では、ブランク時間が短い場合にのみ、注意がある特定の位置に向き続けることを確認し、2種類の変化検出が持続的注意に基づいて分けられることを示しました。Visual Cognitionは、英国の学術論文誌です (IF:1.372/2016)。
R. Nakashima & K. Yokosawa (2012). Sustained attention can create an (illusory) experience of seeing dynamic change, Visual Cognition, 20, 3, 265-283.
刺激の左右位置とその刺激が属すグループ全体の左右位置とが逆である場合にはグループ全体の位置に基づき刺激位置が決定されます。Nishimura & Yokosawa (2012)では、グループを明示的に示す線(視覚手がかり)の呈示という知覚関連特性とグループ内の複数の刺激を同一反応に割り当てるという行為関連特 性の刺激位置の決定への影響について検討しました。その結果、反応割り当てだけでもグループの位置と同じ側の反応がはやく、視覚手がかりのみでは個々の刺激の位置と同じ側の反応がはやいことから、反応割り当てという行為関連特性が刺激位置の知覚を決定し、その知覚された位置が反応行為に影響するという、行 為と知覚の双方向的な相互作用を明らかにしました。Quarterly Journal of Experimental Psychologyは、英国の学術論文誌です (IF:2.129/2016)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2012). Effects of Visual Cue and Response Assignment on Spatial Stimulus Coding in Stimulus-Response Compatibility. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 65, 1, 55-72.
色字共感覚とは、文字に特定の色を感じる共感覚です。Asano & Yokosawa (2011b) は、日本語の平仮名と片仮名は形状が異なり、多くの場合異なる事物を表すために使われるものの、同じ音韻集合を表す文字セットであることを利用して、色字共感覚者6名の共感覚色の決定要因を調べました。その結果、対応する平仮名と片仮名の共感覚色が非常に類似していることから、仮名の共感覚色は音韻によって規定されていることを明らかにしました。Consciousness and Cognitionは、オランダの学術論文誌です (IF2.144/2016)。
M. Asano & K. Yokosawa (2011b). Synesthetic colors are elicited by sound quality in Japanese synesthetes, Consciousness and Cognition, 20, 4, 1816-1823.
同じ触覚刺激でも、他者によって与えられる場合と自ら与える場合とでは異なる知覚をもたらすことが知られています。金谷、石渡、横澤(2011)では、自らの手の位置を誤るラバーハンド錯覚の生起にとって、他者による触刺激が必要条件か否かを検討するため、参加者が自分で自分の手に触 覚刺激を与える条件を取り入れました。その結果、他者から刺激を与えられる通常のラバーハンド錯覚よりは弱いものの、自ら触刺激を与える条件においても錯覚が生じました。このことから他者による触覚刺激はラバーハンド錯覚の生起にとって必要条件ではないことが示されました。 基礎心理学研究は、日本の学術論文誌です。 なお、本論文に対して日本基礎心理学会から、 が授与されました。
金谷、石渡、横澤 (2011). 自己による触刺激がラバーハンド錯覚に与える影響、基礎心理学研究, 30, 1, 11-18.
Saneyoshi, Niimi, Suetsugu, Kaminaga, & Yokosawa (2011)では、アイコニック・メモリと呼ばれる感覚貯蔵に関して、時間的統合課題を遂行しているときの脳活動部位をfMRIを使って調べたところ、前頭葉と頭頂葉のネットワークが関与していることを明らかにしました。NeuroReportは、米国の学術論文誌です (IF:1.396/2016)。 NeuroReport 誌掲載号の表紙には、本論文で使用されたfMRIの活性化図が使用されました(右図)。
A. Saneyoshi, R. Niimi, T. Suetsugu, T. Kaminaga, & K. Yokosawa (2011). Iconic memory and parietofrontal network: fMRI study using temporal integration, NeuroReport, 22, 11, 515-519.
Niimi, Saneyoshi, Abe, Kaminaga, & Yokosawa (2011)では、オブジェクトの同定と方向認知に関わる脳内部位が異なることを、fMRIを使った実験によって明らかにしました。前頭葉と頭頂葉には、オブジェクトの視点依存的な特徴を符号化し、方向認知を担っている領野があると考えられます。Neuroscience Lettersは、オランダの学術論文誌です (IF:2.180/2016)。
R. Niimi, A. Saneyoshi, R. Abe, T. Kaminaga, & K. Yokosawa (2011). Parietal and frontal object areas underlie perception of object orientation in depth, Neuroscience Letters, 496, 35-39.
Asano & Yokosawa (2011a)では、文の読み処理の効率化を支えるメカニズムについて検討しました。短文全体を短時間提示し、その中の1単語が何であったかを答えさせる実験を行ったところ、その単語が文の内容(文脈)に適合的なときは、誤字のように不適合なときよりも正答率が高くなるという結果が得られました。この結果は、複数の単語の並列処理によって大まかな文脈情報を瞬時に把握でき、効率的な読み処理が実現されていることを示しています。 The Journal of General Psychologyは、英国の学術論文誌です (IF:0.872/2016)。
M. Asano & K. Yokosawa (2011a). Rapid extraction of gist from visual text and its influence on word recognition, The Journal of General Psychology, 138, 2, 127-154.
情景の中のオブジェクト表象は、情景表象の一部と考えられるので、情景文脈がオブジェクトの処理を容易にすると考えることができます。Nakashima & Yokosawa (2011)では、繰り返提示される情景画像中のオブジェクトの記憶課題によって、このような情景文脈とオブジェクト表象の関係が常に存在するかを調べました。その結果、意図的記憶を必要とするような場合に、オブジェクトと情景の結合関係が生じることを明らかにしました。 Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です(IF: 2.921/2016)。
R. Nakashima & K. Yokosawa (2011). Does scene context always facilitate retrieval of visual object representations?, Psychonomic Bulletin & Review, 18, 2, 309-315.
腹話術効果とは、音の位置が視覚情報の影響を受けて錯覚される現象です。この現象の規定要因について従来の研究では一対一の視聴覚刺激(発話している顔と声など)を提示することで検討されてきましたが、Kanaya & Yokosawa (2011)では二つの視覚刺激を提示することによって、これまで明らかにされていなかった要因、すなわち視覚情報と聴覚情報の表す音韻の整合性が腹話術 効果に影響することが示されました。より現実場面に即した視聴覚認知特性を表す結果と考えられます。 Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です (IF: 2.921/2016)。
S. Kanaya & K. Yokosawa (2011). Perceptual congruency of audio-visual speech affects ventriloquism with bilateral visual stimuli, Psychonomic Bulletin & Review, 18, 1, 123-128.
中島、横澤(2010)では、情景知覚において有力なコヒーレンス理論と視覚的記憶論の相違点が、実験課題の違いに由来するという仮説を立て、フリッカー変化検出課題時の視覚表象について検討しました。その際、変化検出課題に記憶課題を付加した実験を行い、実験参加者が変化を探している時の情景の記憶表象を測定し、意図的な情景の記憶表象と比較しました。その結果、フリッカー変化検出課題時にも情景の記憶表象は視覚性長期記憶に保持されており、その表象は意図的な情景の記憶表象と同程度に頑健なもので した。ただし, この保持された記憶表象は、明示的な変化の同定には利用されず、再認課題には答えることができるというものでした。このことは、コヒーレンス理論と視覚的記憶理論が両立することを示唆しています。 心理 学研究は、日本の学術論文誌です。
中島、横澤(2010). フリッカー変化時における自然情景の視覚表象、心理学研究, 81, 3, 210-217.
Nishimura & Yokosawa (2010c)では、中央に提示される色の違いを左右どちらかの手で反応してもらうような実験課題において、課題とは無関係な視覚刺激や聴覚刺激が生起したり、消失する影響について調べました。その結果、視覚的サイモン効果には一時的な刺激が影響するものの、聴覚的サイモン効果には定常的刺激が寄与することを明らかにしました。.Attention, Perception & Psychophysicsは、米国の学術論文誌 です (IF:1.863/2016)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2010c). Visual and auditory accessory stimulus offset and the Simon effect. Attention, Perception & Psychophysics. 72 1965-1974.
刺激と反応の位置に対応関係があるとき(例えば,左側に提示された刺激に左側のキー押しで反応)では、反応行為中に対応関係のある刺激の知覚が困難になる、反応適合刺激の見落としが生じる。Nishimura & Yokosawa (2010b)は、左右の手の符号化など行為関連要因がこのような見落としを生じさせうるかについて検討するため,上下配置の反応キー押しを左右の手で行う場合の左右矢印の同定課題を行い、反応適合刺激の見落としは行為と知覚の直接的対応に基づくと考えられる結果が得られた。Quarterly Journal of Experimental Psychologyは、英国の学術 論文誌です(IF:2.129/2016)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2010b). Response-specifying cue for action interferes with perception of feature-sharing stimuli. Quarterly Journal of Experimental Psychology, 63, 6, 1150-1167.
反応適合刺激の見落とし
Nishimura & Yokosawa (2010a)では、行為による知覚への影響を調べるために、反応適合刺激の見落としについて調べました。反応適合刺激の見落としとは、行為遂行時にその行為と同一の特徴を持つ視覚刺激を見落としやすい現象です。右手でボタン押しをすると右矢印が、左手でボタン押しをすると左矢印が、見えにくくなるという見落としが生起し、上ボタンを押したときには上矢印を、下ボ タンを押したときには下矢印を見落としがちでした。ただし、左右のボタン押しは、上下矢印の知覚に影響しないことを確認しました。Psychological Researchは、ドイツの学術論文誌です (IF3.119/2016)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2010a). Effector identity and orthogonal stimulus-response compatibility in blindness to response-compatible stimuli. Psychological Research, 74, 2, 172-181.
実吉、新美、末續、神長、横澤(2009)では、視覚刺激の時間的統合に関わる視覚的記憶とその神経基盤について、非対称図形を連続提示し、それらの統合図形に対する対称性判断課題によって検討しました。3つの長さの時間間隔条件(短,中,長)における脳活動をfMRIによって検討した結果、どの時間間隔でも、短期記憶に関わる前頭前野から頭頂葉後部、後頭葉上部の活性、さらに全体的な形状知覚に関わる紡錘状回、下側頭回の活性が認められました。また,時間間隔が長い条件では、上頭頂 小葉の強い活性が認められました。これらの結果から、視覚情報が感覚記憶で統合され、長い時間間隔では視覚情報が全体的な形態として短期記憶に符号化され、統合に用いられる可能性が示唆されました。 基礎心理学研究は、日本の学術論文誌です。
実吉、新美、末續、神長、横澤 (2009). 視覚的短期記憶における視覚情報の時間的統合に関わる神経基盤の検討、基礎心理学研究, 28, 1, 23-34
江良、横澤(2009)では、触覚的な角度判断に視覚手がかりが有用であるかどうかを検討しました。奥行き方向に布置された角度刺激を、仮想力覚フィードバックデバイスによって触覚的に探索させながら判断させました。視覚手がかりとして、触覚探索に同期して動く位置手がかりと、触覚空間を明示する空間手が かりを用いました。両視覚手がかりが呈示されると角度判断精度が向上すること、位置手がかりのみでは運動情報のみが利用され奥行き情報は利用されないこと、また、触覚的な角度判断は触覚情報と視覚情報が加算されることによって過大評定されることが示されました。 心理 学研究は、日本の学術論文誌です。
江良、横澤(2009). 触覚的角度判断に対する視覚手がかり効果、心理学研究, 80, 3, 232-237.
Nishimura & Yokosawa (2009)では、音に注意を向けていないときでも、音の2要素(位置、高さ)が左右反応に影響するかどうかを調べました。 サイモン効果は、音源と反応が同じ側だと,早く正確に反応できる現象であり、SMARC効果は、低音と左、高音と右の結びつきのときに早く正確に反応できる現象です。音が課題に全く関係ない場合でも、音源位置と音高は、それぞれが独自に左右の反応に影響することを明らかにしました。 Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です(IF: 2.921/2016)。
A. Nishimura & K. Yokosawa (2009). Effects of laterality and pitch height of an auditory accessory stimulus on horizontal response selection: The Simon effect and the SMARC effect. Psychonomic Bulletin & Review, 16, 4, 666-670.
日常物体を偶然的見えと呼ばれる正面や上から認識することは難しく、視点依存効果が生じます。従来の研究では、偶然的見えの場合には物体の主軸が短縮して見えることが視点依存効果の要因と考えられてきましたが、Niimi & Yokosawa (2009b)は、対称面が短縮されているということや、視点の親近性が低いこと等、複合的な要因で視点依存効果が生じていることを明らかにしました。Perceptionは、 英国の学術論文誌です(IF:1.087/2016)。
R. Niimi & K. Yokosawa (2009b). Viewpoint dependency in the recognition of non-elongated familiar objects: Testing the effects of symmetry, front-back axis, and familiarity. Perception, 38, 4, 533-551.
Niimi & Yokosawa (2009a)では、斜め前方向から見た物体の認知は早く正確だけれども、斜め前方向の物体に対する正確な方向認知が、正面に比べて、かなり難しいのですが、これは物体の正確な方向が分かりにくいからこそ、斜め前方向の見えを我々が好むことを明らかにしました。 Psychonomic Bulletin & Reviewは、米国の学術論文誌です(IF: 2.921/2016)。
R. Niimi & K. Yokosawa (2009a). Three-quarter views are subjectively good because object orientation is uncertain. Psychonomic Bulletin & Review, 16, 2, 289-294.