31 北海文化研究常呂実習施設

 1.実習施設活動の概要
  当施設は、人文社会系研究科では本郷キャンパスの外にある唯一の施設である。施設が所在する北海道北見市常呂町は、オホーツク海の沿岸、北海道東部で最大の河川の一つである常呂川の河口に位置している。この川と海によってもたらされる豊かな資源に支えられて、この地には旧石器時代から近世アイヌ期に至る約2万年もの間、多数の先史文化の遺跡が連綿と遺されてきた。特に国の指定史跡である史跡常呂遺跡は、カシワやナラの林の中に2、500を超える竪穴住居跡が埋まりきらずに窪みとして残っているという、大規模かつ特異な遺跡である。
  この地域における文学部の調査研究活動は1955年に開始された。端緒はアイヌ語方言の研究を目的とした言語学の調査であったが、1957年からはこの地域の先史文化の解明を目的とした考古学的な調査が開始され、以後半世紀の間、発掘・測量などの考古学調査が毎年行われてきた。また考古学・言語学以外にも、開拓民の宗教への関わりかたを究明しようとする宗教学の調査なども行われている。その後、1967年からは助手1名が文学部考古学研究室から派遣され、1973年には施設として正式に発足した。現在、施設の建物としては、研究室、資料陳列館、学生宿舎、資料保存センターが存在し、准教授・助教各1名、有期雇用職員(管理人等)2名が現地のスタッフとして活動を行っている。活動の核となるのは考古学実習を兼ねた発掘調査であり、本郷の考古学研究室と協力しながら、毎年夏から秋にかけて施設周辺の遺跡群を対象とした発掘調査を実施している。また、2004年度からは一般講義として博物館学実習が毎年夏に当施設で開講され、考古学専修以外の学生も展示製作等の実習を受講している。
  半世紀に及ぶ当地域での調査成果は11册の報告書として刊行され、北海道の考古学研究の基礎をなす成果として高く評価され、広く利用されている。また近年は、環オホーツク海沿岸地域を中心とした北方地域との比較考古学研究を重要な研究課題とし、2006年度〜2007年度にかけてもサハリンやアムール下流域において、現地の研究者や本学の考古学研究室の教員などと協同しながら発掘調査を実施した。その成果は「東京大学常呂実習施設研究報告」と題した3冊の報告書として発表してきたが、これは今まで調査実績がきわめて少なかった北方地域の実態を明らかにしたものとして、高い評価を受けている。
  北海道に位置する当施設は、その活動において地域との連携を重視してきた。当施設に隣接した史跡常呂遺跡は常呂町(現・北見市)によって史跡公園「ところ遺跡の森」として整備され、屋外の復元竪穴住居・ガイダンス施設・埋蔵文化財センターを備えた公園として一般公開されているが、当施設は教育委員会が管轄するこの史跡公園と一体となって教育普及活動を推進している。また、新たに史跡公園化が予定されている別の遺跡(「トコロチャシ跡遺跡群」)では、2003年度より現在まで北見市教育委員会と協同して史跡整備のための発掘調査を実施している。さらに2000年度からは東京大学文学部公開講座と銘打った出前講座を北見市で開講し、2007年度までに11回を数えている。特に発掘開始50周年となる2007年度においては、史跡常呂遺跡の世界遺産登録申請を後押しするかたちで「世界遺産と常呂遺跡」と題する記念講座を開催し、地域との協力関係の再強化を図っている。


 2.構成員・専門分野
  (1) 専任教員
  熊木 俊朗 研究領域  北東アジア考古学
  (2) 助教
  高橋 健 TAKAHASHI、 Ken
   在職期間  2007年4月〜現在
   研究領域  北東アジア考古学
   主要業績
   「オホーツク文化の銛頭模造品」『極東ロシアにおける新石器時代から鉄器時代への移行過程に関する考古学的研究』東京大学常呂実習施設研究報告3(2007)
   「燕形銛頭の起源と変遷」『考古学』5(2007)
   「北海道沿岸の海獣銛猟」「縄文の考古学」同成社(2007)
   『日本列島における銛猟の考古学的研究』北海道出版企画センター(2008)




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