08  心理学

1.研究室活動の概要
 本専修課程は、1903年に我が国で初めて心理学実験室が設立されて以来の長い歴史を持っており、心理学の基礎的領域における教育と研究を行っている。現在、教授4名、助教1名、日本学術振興会のPD・研究生・大学院生・学部生ら約80名が心理学研究室に所属している。知覚・注意・記憶・思考などの心理現象を精神物理学的手法・神経科学的手法・認知科学的手法によって実験的に研究している。また、文化認識や科学方法論などについても研究を行っている。毎年、教養学部文科3類や理科1・2類から約25名の学生が本専修課程に進学する。演習や特殊講義によって心理学に関する幅広い知識を身につけるのみならず、心理学実験演習においてヒトや実験動物を被検体として実験を行い、コンピュータの操作法・データの収集と解析法・実験レポートの作成法などを学んでいる。卒業論文では、教官の指導の下に実験的研究を行い、その成果を取りまとめている。
 大学院教育に関しては、本専修課程の教官のみならず、大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系の認知行動科学に所属する心理学系教官の参加を得て、指導体制の充実を図っている。毎年、数名の課程博士(博士(心理学))が誕生している。
 本専修課程の教員は、それぞれが関係諸学会(日本心理学会・日本基礎心理学会・日本動物心理学会・日本視覚学会・日本生理学会・日本神経科学学会・日本認知心理学会・日本認知科学会など)に所属して活動している。研究成果は、各専門分野の国際的学会誌に掲載され、公開されている。国内外で開催される学会等に積極的に参加するのみならず、シンポジウム等で特別講演を依頼されることも多い。本学の他研究科や他大学・研究所とも交流があり、共同研究等も活発に行われている。

2.構成員・専門分野
 (1) 専任教員
 佐藤 隆夫
  専門分野 知覚心理学
在職期間 1995年5月~  人文社会系研究科助教授
1995年12月~現在  同 教授

 高野 陽太郎
専門分野 認知心理学
在職期間 1990年4月~  人文社会系研究科助教授
2003年4月~現在  同 教授

 立花 政夫
専門分野 視覚神経科学
在職期間 1988年10月~  文学部助教授
     1994年1月~  同 教授
1995年4月~現在  大学院人文社会系研究科教授

 横澤 一彦
専門分野 高次視覚
在職期間 1998年10月~  人文社会系研究科助教授
2006年4月~現在  同 教授

 (2) 助教
 瀬山 淳一郎
  在職期間 1998年4月1日~現在
  研究領域 知覚心理学
  主要業績
   Seyama, J. (2006). Effect of image orientation on the eye direction aftereffect. Psychological Research, 70(5), 367-374.
   Seyama, J., & Nagayama, R. S. (2006). Can mirroring reveal image distortion?: Illusory distortion induced by mirroring. Psychological Research, 70(2), 143-150.
   Seyama, J., & Nagayama, R. S. (2006). Eye direction aftereffect. Psychological Research, 70(1), 59-67.
   Seyama, J., & Nagayama, R. S. (2007). The uncanny valley: Effect of realism on the impression of artificial human faces. Presence: Teleoperators and Virtual  Environments, 16(4), 337-351.


 田中 章浩
  在職期間 2005年4月1日~2008年3月
  研究領域 認知心理学
  主要業績
   佐藤裕・森浩一・小泉敏三・皆川泰代・田中章浩・小澤恵美・若葉陽子 「吃音児の音声言語に対する左右聴覚野の優位性-近赤外分光法脳オキシメータによる検討-」 音声言語医学, 47(4), 384-389,2006年.
   田中章浩・坂本修一・津村光美・鈴木陽一「視聴覚の提示タイミングおよび提示速度の違いが単語音声認知に及ぼす影響」日本音響学会聴覚研究会資料, 36(4), 369-374, 2006年.
   Takano, Y. & Tanaka, A. “Mirror reversal: Empirical tests of competing accounts.” Quarterly Journal of Experimental Psychology, 60, 1555-1584,2007年.


3.卒業論文等題目
 (1) 卒業論文
2005年度
 ・他者の関与が制御幻想の発生に及ぼす影響についての研究
 ・注意の時間特性に及ぼす輝度手がかりの役割
 ・自伝的記憶の感情価と経験時期が想起に与える影響
 ・態度の類似性が対人魅力に及ぼす効果-嫌いなものが類似した方が魅力は高いのか?
 ・両眼視差の連続・不連続に対する時間的変調および陰影手がかりの影響
 ・自伝的記憶のもつ性質が気分一致効果に与える影響
 ・輝度定義運動と色度定義運動に対する運動残効の検討
 ・集団間葛藤が援助に対する態度に及ぼす効果
 ・表面反射特性が表面の材質感に及ぼす影響
 ・先行手がかり法における注意とPlace Holder
 ・網膜外層におけるグルタミン酸回収機構の局在
 ・点顔の表情知覚における点の数と時間解像度の効果について
 ・変化の見落としにおける潜在的検出過程の研究
 ・非現実的な問題状況下におけるフレーミング効果
 ・読みの眼球運動における周辺視野情報の影響に関する研究
 ・キンギョ網膜Mbl型双極細胞におけるシナプスリボンとCa2+スポットの位置的関係
 ・標的色に対する構えによって生じる注意の瞬き
 ・前後軸が圧縮された見えが物体認知に与える影響
 ・社会的対象の価値が因果的説明形成に及ぼす影響
 ・巡回系列順序錯誤の生起要因
 ・光点からの表情知覚に利用される運動情報の検討
 ・物体認知における親近性と知覚的複雑性の影響
 ・恐怖・怒りがリスク認知に及ぼす影響
 ・非注意音声の処理水準に関する研究:プライミング効果を用いた検討
 ・漢字単語認知に関わる中日バイリンガルの言語切り替え

2006年度
 ・不安がリスク対処行動の選好に与える影響―アージ理論の実証的検討―
 ・絶対的な明るさの識別
 ・陰影からの三次元知覚における身体情報利用の検討  ・質の異なる悪臭物質の順応特性―加圧式オルファクトメータによる実験条件の検討を含めて―
 ・探索アイテムの色による文脈手がかり効果の有無の検証
 ・周辺環境情報が指差しコミュニケーション精度に与える影響
 ・音の順序知覚における空間情報の影響
 ・ヴェクションにおける地面優位効果
 ・指差し確認行動がフラッシュラグ効果に与える影響
 ・気分と出来事の経験時期が想起する自伝的記憶の感情価に与える効果
 ・ゼロリスク要求に影響するパーソナリティ特性の検討
 ・経験時期が無意図的に想起される自伝的記憶の感情価の割合に与える影響
 ・聴覚的注意の瞬きにおける注意の性質について
 ・影からの形状推定における物体の安定性の効果
 ・カエル網膜の電気刺激に対する神経節細胞と双極細胞の応答解析
 ・偏見の表出が潜在的偏見に及ぼす影響
 ・コミュニケーションにおける指差しと視線の相互作用
 ・熟考がフレーミング効果に与える影響について
 ・意味プライミングの独立性
 ・意味的操作によるアンカリング効果の消失
 ・MF縞における輝度・色定義運動の検出
 ・動的な陰影手がかりからの奥行き知覚
 ・文処理負荷が文処理の時間的特性に及ぼす影響
 ・グローバル運動に対するパタンの諸特性の効果
 ・校正読みの効率を規定する要因
 ・複数オブジェクト追跡における運動軌跡情報の保持特性
 ・触覚オブジェクト認知特性とその脳機能計測

2007年度
 ・思考特性がフレーミング効果に与える影響について
 ・集中的注意下における奥行き認知
 ・印象形成における同化効果:マインドセットと認知資源量の影響
 ・アージ理論における怒りアージの検討―状況の認知と感情の関係について―
 ・対旋律の拍節構造と挿入タイミングがリズムの即興的創作に及ぼす影響の検討
 ・知覚刺激の移動開始遅延が主観的硬さ評価に及ばす影響
 ・複合音において知覚される音数を規定する要因の検討
 ・校正専門家の認知特徴に関する分析
 ・自伝的記憶の無意図的想起において経験時期が感情価に与える影響
 ―手がかり語を用いた研究手法による無意図的想起の性質の検討―
 ・自己受容感覚における視覚フィードバックの影響
 ・運動定義輪郭処理のタイムコース検討
 ・属性間仮現運動における運動対象の追跡
 ・反応過程における反応選択特性の検討
 ・ヴェクションの世界座標依存性
 ・時間的統合における視覚的記憶の時間特性-心理物理実験とfMRIによる検討
 ・奥行き次元における指差し知覚精度の検討
 ・顔の記憶における言語陰蔽効果に学習時の処理方略が及ぼす影響
 ・網膜外電気刺激によりカエル網膜神経節細胞に生起する周期的応答の解析
 ・第2言語の習熟度が上位概念共有効果に及ぼす影響
 ・運動対象追跡における低次運動処理の役割
 ・両眼視におけるコントラスト感度に対する輻輳角の効果
 ・網膜双極細胞間の電気シナプスを介した情報伝達の解析
 ・思考時間がフレーミング効果に与える影響について

 (2) 修士論文
 2005年度
 ・新井 早紀  順応パラダイムを用いたクロスモーダルな輪郭知覚の検討
 ・有賀 敦紀  覚的注意の時間的調節課程
 ・斎藤 晴美  輝度と彩度の相関に基づくテクスチャー弁別
 ・武田 康枝  課題非関連属性が視覚情報処理に与える影響
 ・長岡 孝   先行刺激がポップアートに与える影響~非関連次元からの検討~
 ・細川 研知  度場の構造が運動からの奥行き知覚に与える影響
 ・本田 祥子  網膜における周期的発火の周波数と逃避行動との関連

 2006年度
 ・入江 尚子  アジアゾウ Elephas maximusの自己認識と相対的数量判断
        <指導教員>佐藤隆夫
 ・分部 利紘  情報獲得モデルの検証―推論における情報量の役割の検討―
        <指導教員>高野陽太郎

 2007年度
 ・池宮城 匡  両眼立体視の時空間特性についての検討
        <指導教員>佐藤隆夫
 ・猪熊 顕之  二次運動・色運動からの運動コントラスト検出
        <指導教員>佐藤隆夫
 ・江良 中   仮想3次元空間における触覚判断に視覚手がかりが及ぼす影響
        <指導教員>横澤一彦
 ・小原 武久  双極細胞における陽イオンチャネル(TRPM1)の機能
        <指導教員>立花政夫
 ・小泉 愛   高不安者における情動処理バイアス―新情動ストループ課題を用いた検討―
        <指導教員>高野陽太郎
 ・金 慧淑   中日バイリンガルの漢字単語認知に影響する要因
        <指導教員>横澤一彦
 ・温 文    第二言語の処理が記憶の検索に与える影響
        <指導教員>高野陽太郎

 (3) 博士論文
 2005年度
 ・繁桝 博昭  対象内および対象間における奥行き知覚の研究
 ・久保寺 俊朗 視覚系における特徴検出器間の相互作用
 ・菅沼 睦   動的オブジェクト表象の独立性に関する実験心理学的研究

 2006年度
 ・長谷川 淳  網膜外網状層における伝達物質拡散のダイナミクス
        <主査>立花政夫<副査>佐藤隆夫・高野陽太郎・横澤一彦・田中光一

 2007年度
 ・日比 優子  視覚認知における非注意対象に関する実験心理学的研究
        <主査>立花政夫<副査>佐藤隆夫・長谷川寿一・村上郁也・早川友恵
 ・緑川 光春  網膜双極細胞からの一過性・持続性シナプス出力の解析
        <主査>立花政夫<副査>佐藤隆夫・横澤一彦・深田吉孝・岡良隆




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