03  美術史学

1 研究室の活動の概要
 1910年、「美学」の講座が創設されて以来、その主要研究分野のひとつが美術史であったため、1917年、「美学美術史」と改められた。1963年、組織拡充に伴い「美術史学」として独立し、第一類(文化学)に属することになった。5年後に、第二類(史学)へと移る。1994年、文学部の改組によって、歴史文化学科の専修課程となる。1995年、大学院重点化に伴う改組により、美術史学の大学院課程は、ディシプリンの独立は保持しながらも、最近の専門研究の動向とインターディシプリナリーな要求に応えるため、考古学とともに人文社会系研究科基礎文化研究専攻の中で形象文化コースを形成することになった。
 研究の対象は、あらゆる美術作品や形象表現である。時代は先史・原始から現在まで、地域もまったく限定されない。もとより、教員の専攻分野にしたがって、現在のところ、日本、中国、西洋の美術、特に二次元芸術である絵画が中心的研究対象になっているが、決してこれに局限されるものでない。
 現在の教員は、教授2名、准教授1名である(2008年3月までは助教1名が在職)。それぞれ自己の専門分野を中心に研究および教育に最大の努力を重ねているが、上述のような美術史学専修および大学院課程の基本的性格から充分であると言い難い。そこで、東洋文化研究所および駒場の総合文化研究科から教員4名のほか、多くの非常勤講師に出講を依頼し、さらに次世代人文学開発センター先端構想部門(2005年3月まで文化交流研究施設基礎理論部門)の協力を得て、可能な限り完璧なカリキュラムが編成できるよう努めている。
 教養学部からの進学はこのところ定員枠一杯である。修士および博士課程進学者は、学内外から受験者が多いものの、ここ数年合格者が定員枠に満たない。この他、学士入学者の採用も行ない、優秀な学生の発掘にも心掛けている。
 研究室の活動としては、2006年6月より2007年6月まで教授1名が美術史学会の代表委員となり、学会活動を主導した。なお当該教授は2006年6月から地中海学会事務局長にも就任した。2007年6月からは別の教授1名および准教授1名が美術史学会の常任委員を務めた。このほか1985年以来、研究室紀要『美術史論叢』を毎年1冊発行し、既に24号(2008年)に至っている。教育活動として毎年実施される古美術研修旅行(演習)があり、学生にとり美術作品調査研究の最初の訓練の役割を果たしている。
 国際交流も盛んである。2008年9月現在で、外国人留学生の博士課程在籍者2名、外国人大学院研究生2名がいる。2006年度には、12月に東京大学COE「死生学の構築」との共催による公開国際シンポジウム「聖なるイメージ:彼岸とのコミュニケーションの手段として」を開催、在フィレンツェ、ドイツ美術史研究所所長ゲアハルト・ヴォルフ教授を招いた。2007年度には、6月に教授1名を中心とし研究室が企画・運営に協力をした「甘美なる聖母の画家 ペルジーノ展」(損保ジャパン東郷青児美術館)の開催を記念した、ウフィッツィ美術館長アントニオ・ナターリ博士と同版画素描館長マルチア・ファイエッティ博士を招いての公開講演会を主催。また12月には東京大学G-COE「死生学の展開と組織化」との共催で、公開国際シンポジウム「聖遺物とイメージの相関性:東西比較の試み」を開催、ラトガース大学準教授エリック・トゥーノ氏、デンヴァー大学助教授スコット・モントゴメリー氏を招いた。また海外での教員の招待発表は2件あり、フィレンツェ、ドイツ美術史研究所及びウフィッツィ美術館版画素描館主催シンポジウム「LINEA I」と英国イースト・アングリア大学世界美術研究所主催シンポジウム「A World Art History: Ways forward」で研究発表を行なった。学生による海外での研究発表も2件あり、2006年11月にJAWS主催のワークショップ「美術における対立と融合」(於シアトル美術館)及び2007年3月にイェール大学言語研究センターでのJapanese Material Workshopにおいて、それぞれ博士課程大学院生が発表した。

2 構成員・専門分野
     小佐野重利教授(西洋美術史)
     佐藤康宏教授(日本美術史)
     秋山聰准教授(西洋美術史)

助教・外国人教師等の活動
 (1) 助教の活動
  五月女 晴恵  SOUTOME, Harue
      在職期間 2005年4月−2008年3月
      研究領域 日本中世絵巻史
      主要業績 「『彦火々出見尊絵巻』の姿態表現と画面構成について――『伴大納言絵巻』との共通項に注目しながら」(『美術史論叢』22号、2006年3月)
       「『年中行事絵巻』にみえる『信貴山縁起絵巻』からの図像転用について――その転用態度に現れた『信貴山縁起絵巻』の性格」(『美術史論叢』23号、2007年3月)
       「『鳥獣人物戯画』の研究動向と今後の課題について」・「文献一覧」(サントリー美術館『鳥獣戯画』がやってきた!』、2007年11月)
       「《鳥獣人物戯画》甲巻は、月夜の情景だった」(『美術手帖』2007年11月号、2007年11月)
       「『鳥獣人物戯画』甲・乙巻の筆者問題について――宮廷絵師制作の可能性をめぐって」、「『鳥獣人物戯画』甲巻の主題について」(辻惟雄『鳥獣人物戯画』、小学館、2007年11月)


 (2) 外国人研究員・内地研究員
 2007年度 石塚純一教授(札幌大学)

3 卒業論文等題目
 (1) 卒業論文題目
 2006年度
 「『正チャンの冒険』のキャラクター表現」
 「イルハン朝の写本挿絵に反映された文化的背景の多重性」
 「絵画芸術~ヨハネス・フェルメールの作品研究より~」
 「役者絵の終焉――豊原国周を中心に」
 「アントネッロ・ダ・メッシーナの北方油彩画技法の習得とヴェネツィア旅行が果たしたルネサンス絵画史上における意義について」
 「鬼の造形について」
 「ニコラ・プッサン作『パンの勝利』におけるモチーフについての一考察」
 「江戸時代の花鳥画――南蘋派の装飾と写実」
 「清方作品にみる女性像の変遷について」
 「写真家ハンス・ベルメール」  「竹久夢二について――『邪宗渡来』『旅の唄』を中心に」  「狩野山楽『龍虎図屏風』について」
 「又兵衛風古浄瑠璃絵巻群について」
 2007年度
 「林十江の造形的特長について――その個性と作画傾向の分析」
 「安彦良和作『イエス』とキリスト教美術との比較」
 「小林和作と尾道」
 「薩摩切子研究」
 「西郷隆盛像の図像学」 
 「サンタ・マリア・デル・ポポロ教会キージ家礼拝堂にみるベルニーニ」
 「オディロン・ルドンの色彩画のタブローに関する考察――《若き日の仏陀》を中心に」
 「宗達筆金銀泥下絵和歌巻について――中国花卉雑画巻および鳥獣画巻との関係から」
 「アンニバーレ・カラッチ作《別れ道のヘラクレス》の図像と様式」
 「『もののけ姫』の作品研究」
 「東山魁夷の画業における『対比』に関する考察」
 「エジプト新王国女性ファラオ ハトシェプト女王の特徴と謎」
 「ギュスターヴ・モロー《ヘロデ王の前で踊るサロメ》――混合によって創り上げた神秘世界」
 「セザンヌ作『草上の昼食』におけるマネとの関係」
 「藤田嗣治の裸婦像に関する一考察」
 「室町楷体花鳥画への山水の流入――雪舟『四季花鳥図屏風』(京都国立博物館)から狩野元信『大仙院四季花鳥図』、初期狩野派『四季花鳥図屏風』(静岡県立美術館)まで」
 「マルタにおけるカラヴァッジョの作品と戦略について――聖ヨハネ大聖堂の二作品の比較と考察」
 「月岡芳年『月百姿』における文芸性および制作と受容の意識についての考察」

 (2) 修士論文題目
 2006年度
  飯島沙耶子「岩佐又兵衛筆故事説話図について――『金谷屏風』『樽屋屏風』『和漢故事説話図巻』を中心に」
   <指導教員>佐藤康宏
  坂口 彩「洛外図考――『大堰川・宇治川名所図屏風』の虚実と構造」
   <指導教員>佐藤康宏
  野田麻美「狩野山楽の人物画再考」
   <指導教員>板倉聖哲
 中津海裕子「フェルナン・コルモンとその周辺」
   <指導教員>小佐野重利
  藤本真帆「クレーの『アトリエ』――《アトリエのなかの垂直面と水平面》と《アトリエのなかの平面》を中心に」
   <指導教員>小佐野重利

 2007年度
  池田芙美「英一蝶『四季日待図巻』および『吉原風俗図巻』について」
   <指導教員>佐藤康宏
  植松瑞希「董其昌初期作品の研究」
   <指導教員>小川裕充
  佐藤有希子「平安時代の毘沙門天像――清凉寺像を中心として」
   <指導教員>小川裕充
  野村美和「面の特質――蕪村筆〈新緑杜鵑図〉を中心に」
   <指導教員>佐藤康宏
  鷲頭桂「室町時代後期の源氏物語屏風――大画面形式の成立をめぐって」
   <指導教員>佐藤康宏
  岸本光真「深沙大将研究序説――和歌山・金剛峰寺像と京都・金剛院像を中心に」
   <指導教員>小川裕充
  石井真理「〈子宮を開くマリア〉Vierge ouvranteの考察」
   <指導教員>小佐野重利

 (3) 博士論文(甲)題目
 2007年度
  五十嵐公一「狩野永納『本朝画史』の研究」
   <主査>小川裕充<副査>佐藤康宏・板倉聖哲・藤田覚・村井章介

 (4) 博士論文(乙)題目
 当該期間にはなし。

 (5) 博士論文研究計画題目
当該期間にはなし。




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