布施郁三博士肖像

布施郁三博士

ごあいさつ

布施 郁三

この度、布文館の開館にあたり、是非一言書くように、とのご依頼がありましたので、 筆をとることに致しました。

去る九月二十五日には、新3号館落成の記念式典にご招待頂きまして誠に有り難うございました。 その際には、森亘総長先生をはじめ、貴顕の諸先生方に紹介して頂きまして、感激致しました。 また披露宴の席上では、私の事に関しまして、丁寧にご説明頂き、非常に嬉しく存じました。 当日は、帰途、本郷にて、同伴した子供ら(女三人男一人)と夕食を共に致しましたが、 子供らが皆、お目出とうと言ってくれました。子供らも喜んだのであります。

私は、東大医学部昭和四年の出身で、長く八日市場市に於て眼科医を致しており、 文学部とは、直接の関係はございませんでした。しかし、学生時代に、二高で白井成允先生、 東大で宇井伯壽先生などから仏教の講義を聞き、大変な感銘を受けました。 今日になっても、その時の感激を忘れることが出来ません。

私ども日本人は、古代から、豊かな仏教思想・文化の中に生き、聖賢の深い智慧の恵みに 浴してきました。現時、科学技術の発展には、目を見張るものがあり、物質文明は私どもに 驚異を与えています。然しその輝きの陰に入って、精神文化は顧みられず、 今衰微しようとして居ります。

私は、若年多感の時に、仏教によって精神的孤独から救われました。人格の貴さと、 連帯性の限りなさとを教えられました。私は仏陀と、学んだ先生とに生涯の恩誼を感じます。 もし仏教が無くなったら、私の生命も亡びます。仏教精神は、物質文明による人間の 変態化を救うものであります。

私は、私自身のいのちのために、また救われて喜ぶ友人の尚多からんために、 仏教の伝統が守られ、又栄えんことを念願します。この願いを以て私は、 私の祖先が残してくれた財産と私個人の財産とを、東大文学部に寄託し、 仏教などの精神文化の高揚と研究とに役立てて下さるよう、お願い申し上げました。

幸い、学部長先生を始めとする、文学部の諸先生がたにお喜び頂きまして、 新3号館の一番素晴らしい一室を、私が郷里に建てた青少年育成施設の名に因んで、 布文館と命名し、私の志を末永く継いで下さいますとの由、身に余る光栄と存じます。 皆様がたのご高配に対しまして心から厚く御礼申し上げますとともに、 文学部の益々のご発展を祈念致す次第であります。

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