『歴史書通信』 歴史書懇話会 1998年 春

〈わたしの出会った歴史書〉


@1997年に読んだ2点
1 青木康 『議員が選挙区を選ぶ』 山川出版社〈歴史のフロンティア〉、1997
2 岸本美緒(編)『歴史学事典 歴史家とその作品』 弘文堂、1997
A名著3点
3 柴田三千雄・成瀬治(編)『近代史における政治と思想』 山川出版社、1977
4 内田義彦 『社会認識の歩み』 岩波新書、1971
5 E・H・カー 『歴史とは何か』 岩波新書、1962
 

 1 は英国びいきにあらず、18世紀イギリスの全議員のリサーチに年月をかけた労作で、知的発見の喜びを著者とともにできる。有権者が議員を選び、議員が選出区を選ぶ政治文化。歴史学と政治改革をめぐって発言したい人に不可欠の書。

 2 はヘロドトスから丸山真男にいたる東西の史家列伝。項目執筆者の史観の開陳の場でもある。索引が充実していて、執筆者索引もある。

 3 は林健太郎先生の弟子による献呈論文集。50歳前後の数名が迫真、入魂の力作を寄せている。大学院生にまけず緊密にして若年には及びもつかぬ大きな議論を読んで、20代最後のわたしは感激した。ウェットではない師弟愛にも想い至った。

 4 によって、ことば/概念から社会と歴史の成りたちを攻めてゆくおもしろさを自覚したわたしは、意識的に「辞書を読む」ようになった。

 5 は歴史入門として必ず挙げられるし、わたしも史学概論で推薦する。この本の素晴らしさは、西洋文明の厚みを実感してから再読すると、よく分かる。そのためにも若いときに一読しておくべき古典だろう。

近藤 和彦 東京大学教授 西洋史


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