『歴史学事典』第6巻(弘文堂、1998)

ステイト・ペイパー(State Papers)
2000.8.22 更新


  英語国の国務文書。狭義では国務大臣(secretary of state)のあつかう公文書をさすが、広義では、内政・財政・外交など国家政治をめぐる公文書の集合をさす。後者の場合、今では public records というほうが普通。

  イギリスの国務大臣の権限は、司法や財政以外の内政と諸外国との交渉をふくんでいた。しかも当該大臣の実力しだいで権限は伸縮したから、国務文書の範囲は反乱をめぐる国情報告やヴェネチア大使の東方通信から、大学教員の任免をめぐる交渉、病身の教区司祭の後任人事についての情報まで、多種多様である。参考として冊子やビラの類が同封されることもあり、大臣側からの発信は必ず控えがとられた。これらの雑多な文書が処理された時系列にそって公文書館(PRO)に保管されているから、研究者はときの国務大臣の職務を忠実にフォローできるかに思える。また19世紀末から年次をかぎって国務文書の要綱(calendar)が編集刊行されたり、最近はマイクロ化されているので、利用もむずかしくない。

  しかし、重要案件は首相や大法官のもとに文書が転送されたまま戻らないこともあったし、また大臣が必要に応じて公文書を私蔵する公私混同も珍しくない。後者の場合は、やがて公文書が家宝として政治家=地主貴族の家に相続され、後年なにかの事情で競売にふされることになる。現在、公文書館以外の図書館や博物館などに「××家文書」として保管されている大規模なコレクションの中核は、こうした国務文書からなる例が少なくない。したがって、よほど研究テーマを限定するのでないかぎり、狭義の国務文書だけを検索することは賢明とはいえない。

  参考:近藤和彦『民のモラル』(山川出版社、1993)第3章 とくに pp.117-118。
 

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