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奈良田方言のアクセント:概要

奈良田方言では、次のように、語の各拍における高低関係が東京アクセント(東京方言および標準語のアクセント)と大きく異なっています。(ここでの東京アクセントの型は『NHK日本語発音アクセント辞典』新版(1998年)、『新明解日本語アクセント辞典』第4刷(2002年)に拠ります。)

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奈良田 東京
[エ。 [エ]カ゜~。 [コ]ノエカ゜。 [エ。 エ[カ゜~。 コ[ノエカ゜。
●。 ●○~。 ●○○○。 ●。 ○●~。 ○●●●。
[エ。 エ[カ゜]~。 [コ]ノエ[カ゜。 [エ。 [エ]カ゜~。 コ[ノエ]カ゜。
●。 ○●~。 ●○○●。 ●。 ●○~。 ○●●○。
[ハ]ナ。 [ハ]ナカ゜~。 [コ]ノハナカ゜。 ハ[ナ。 ハ[ナカ゜~。コ[ノハナカ゜。
●○。 ●○○~。 ●○○○○。 ○●。 ○●●~。 ○●●●●。
ア[メ。 ア[メ]カ゜~。 [コ]ノア[メ]カ゜~。 [ア]メ。 [ア]メカ゜~。 コ[ノア]メカ゜~。
○●。 ○●○~。 ●○○●○。 ●○。 ●○○~。 ○●●○○。
[ハ]ナ。 [ハ]ナ[カ゜]~。 [コ]ノハナ[カ゜。 ハ[ナ。 ハ[ナ]カ゜~。コ[ノハナ]カ゜。
●○。 ●○●~。 ●○○○●。 ○●。 ○●○~。 ○●●●○。
[ク]ルマ。 [ク]ルマカ゜~。 [コ]ノクルマカ゜。 ク[ルマ。 ク[ルマカ゜~。 コ[ノクルマカ゜。
●○○。 ●○○○~。 ●○○○○○。 ○●●。 ○●●●~。 ○●●●●●。
カ[ブ]ト。 カ[ブ]トカ゜~。 [コ]ノカ[ブトカ゜。 [カ]ブト。 [カ]ブトカ゜~。 コ[ノカ]ブトカ゜~。
○●○。 ○●○~。 ●○○●●●。 ●○○。 ●○○○~。 ○●●○○○。
[コ]コ[ロ。 [コ]コ[ロ]カ゜~。 [コ]ノココ[ロ]カ゜~。 コ[コ]ロ。 コ[コ]ロカ゜~。 コ[ノココ]ロカ゜。
●○●。 ●○●○~。 ●○○○●○。 ○●○。 ○●○○~。 ○●●●○○。
[オ]トコ。 [オ]トコ[カ゜]~。 [コ]ノオトコ[カ゜。 オ[トコ]。 オ[トコ]カ゜~。 コ[ノオトコ]カ゜~。
●○○。 ●○○●~。 ●○○○○●。 ○●● ○●●○~。 ○●●●●○。

[ : ピッチ(声の高さ)の上昇位置、 ] : ピッチの下降位置、● : 相対的に高い拍、○ : 相対的に低い拍

奈良田アクセントについて詳しく記述した稲垣正幸(「奈良田方言のアクセント」『奈良田の方言』1957年)は、「奈良田方言は、その音韻、語法、語彙にわたって山梨県方言の中で特殊なものであるが、わけてもそのアクセントは、その周囲一帯が、東京アクセントである中にあって、全く孤立した、いわば「アクセントの島」とも称すべき特異なものである。」と記しています。

各語の音調を詳しくみてみると、例えば「雨」では、単語単独「~。」、短文「~が…。」、連体修飾語付「この~が。」のいずれにおいても、1拍目の後にピッチが上昇していることが分かります。同じように、「花」では2拍目の後に必ず上昇しています。東京方言で「雨」で1拍目の後に必ず下降し、「花」で2拍目の後に必ず下降するのと対照的です。

こういった点に着目して、上野善道(「奈良田アクセント素の所属語彙」『文経論叢』11-3文学篇11、1976年、など)は、東京アクセントでは、ピッチの下降の有無と位置が弁別的特徴である(言い換えれば「ピッチの下がり目があるか、あるとすれば何拍目にあるか」が決まっている)のに対し、奈良田アクセントでは、ピッチの上昇の有無と位置が弁別的特徴である(「ピッチの上がり目があるか、あるとすれば何拍目にあるか」が決まっている)と解釈しています。そして、東京アクセントにおける弁別的特徴を「下げ核」と呼ぶのに対し、奈良田アクセントの弁別的特徴を「上げ核」と名づけています。

この解釈では、「鼻が」「この鼻が」「花が」「この花が」などにおける1拍目から2拍目にかけての下降(●○…)は、東京方言における1拍目から2拍目にかけての上昇(○●…)と同様に、「アクセント句」の初頭に伴うもの、すなわち、語のアクセントではなくイントネーションの一種とみなします。

また、「上げ核」によって上昇した後は、一拍分高くなるのがふつうですが、上の「この兜が」のように、2拍以上高くなることもあるようです。

この考え方にしたがって、上の各語のアクセント型(上昇の有無と位置)を数字で示すと、次のようになります。参考のために、東京アクセントにおけるアクセント型(この場合は、下降の有無と位置)も示します。「上昇」と「下降」という違いはあるとは言え、それらの有無と位置については両者でほぼ一致しています。

奈良田 東京
1拍名詞 0 0
1 1
2拍名詞 0 0
1 1
2 2
3拍名詞 0 0
1 1
2 2 or 3
3 3

0 : 上昇/下降がない(無核型)、1,2,3… : その位置で上昇/下降する

また、歴史的には、奈良田のアクセントは、東京アクセントが変化して成立したものだと考えられています。