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イラク出張報告
吉岡明子(日本エネルギー経済研究所中東研究センター)

 概要

  • 日程:日程:2015年3月9日(月)〜19日(木)
  • 用務地:スレイマニヤ・エルビル(イラク)
  • 用務先:イラク・スレイマニヤ・アメリカン大学他

 報告

イスラーム地域研究東京大学拠点「中東・イスラーム諸国の民主化」班の予算を頂いて、イラク・クルディスタン地域のスレイマニヤ及びエルビルに出張する機会を得た。スレイマニヤでは、3月11〜12日にイラク・スレイマニヤ・アメリカン大学(AUIS)主催のSulaimai Forum(http://sulaimaniforum.com/sulaimaniforum2015/)に出席し、その後、主都のエルビルに移動して、クルディスタン地域政府・議会関係者、クルディスタン民主党関係者、ジャーナリスト、外交関係者などへのインタビューを行った。

今年で3回目の開催となるSulaimai Forumは、「Fertile Crescent in Turmoil: Challenges and Opportunities」と題され、昨年来イラクにおける最大の懸案として浮上している「イスラーム国」(IS)の問題を中心に、内政課題、イラク政府とクルディスタン地域政府(自治政府)との間の石油問題、中東地域におけるクルド問題、人道危機の状況などが、6つのパネルで話し合われた。パネリストには国内外から政治家や専門家らが集まり、イラク政府からヌジャイフィ副大統領、ジュブーリ国会議長、ハムーディ国会副議長、ズィーバーリ財務相、ジャァファリ外相、シャハリスターニ高等教育相、ファイヤード国家治安顧問、クルディスタン地域政府からはユーセフ・クルディスタン議会議長、ハウラーミ天然資源相、レバズ財務相、フセイン大統領府長官らが参加した。その他、マクガーク米国務次官補、ピステリ伊副外相、ペトレイアス元米中央軍司令官、マッキー駐エルビル英総領事なども登壇した。参加者は国内外から400名以上が集まっていた模様で、大盛況であった。

エルビルでは、特に長期的なクルディスタン独立問題の展望やイラク政府との関係、また、対IS戦の現況と見通し、戦闘に伴う社会・経済問題等についてインタビューを実施した。戦闘そのものはクルディスタン地域に直接的に波及しているわけではないが、すでに1000名以上の兵士が前線で死亡しており、治安情勢を理由に複数の航空会社がエルビル便を一時停止するなど、決して無関係ではない。また、治安情勢に加えて昨年来の油価下落の影響も大きく、約1年前の訪問時と比較して景気が冷え込んでいることが明らかであった。他方、対IS戦で協力しているとはいえ、イラク政府への不満や不信感は依然として根強く、クルディスタン地域が長期的にイラク国家への統合を強める方向には動かないだろうと感じられた。

なお、年初の邦人人質事件の発生や、イラク国内で対IS大規模軍事作戦が続く中でのクルディスタン地域訪問となったことで、多くの方々に多大にご心配をおかけすることとなった。調査を見守ってくださった全ての方々に厚く感謝と御礼を申し上げたい。
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