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イラン出張報告
河原弥生(イスラーム地域研究東京大学拠点・研究員)

 概要

  • 日程:2013年4月5日〜4月18日
  • 用務地:イラン・イスラーム共和国
  • 用務先:ペルシア語言語文学研究所(テヘラン)ほか
  • 用務:中央アジア史に関するペルシア語史料の出版のための準備作業および聖者廟の予備的調査

 報告

調査者は、2013年4月5日から4月18日にかけて、イラン・イスラーム共和国を訪れ、主として中央アジア史に関するペルシア語史料2点の出版のための準備作業および聖者廟の予備的調査をおこなった。

出版予定の史料のうち一点は、当拠点から刊行予定のDocuments from Private Archives in Right-Bank Badakhshan 1849-1944 (Introduction)である。本書は、2009年と2011年に実施したタジキスタン共和国山岳バダフシャン自治州における民間所蔵史料調査(2011年の調査は当拠点の公募研究「近現代の中央アジア山岳高原部における宗教文化と政治に関する基礎研究」(代表:澤田稔)による)で収集した、バダフシャンのイスマーイール派の信徒たちの歴史に関する約150点の文書の詳解である。収集文書は、イスマーイール派の指導者アーガー・ハーン1世および3世からの書簡、現地の宗教指導者の系譜書、土地関係の証書、ロシア帝国支配期の行政文書などから成り、バダフシャン史に関する大変貴重な史料群である。本史料群については、上述の公募研究によって現地の研究協力者Umed Mamadsherzodshoev氏と共同で整理を進めてきたが、保存状態の悪いものも多く、史料のジャンルが多岐にわたる上、類似の史料に関する先行研究に乏しいこともあり、解読に困難をきたしていた。今回、テヘランのペルシア語言語文学研究所において、Mohammad Reza Nasiri教授をはじめ数名の研究員の方々にご協力いただくことができ、我々の解読上の疑問点に関して専門的な立場から助言を得ることができた。

もう一点の史料とは、調査者がかつて日本国内で校訂出版したムハンマド・ハキーム・ハーン著『選史』である。本書は、伝統的な普遍史、中央アジア史、ブハラ・ハーン国史およびコーカンド・ハーン国史から成る浩瀚な史書であり、18-19世紀の中央アジア史に関する最重要史料の一つであると同時に著者のメッカ巡礼記をも含む興味深い回想録でもあるが、研究は長らく立ち後れていた。調査者が本書を校訂出版したのもその重要性ゆえであるが、出版部数が少なく、非売品という出版事情もあって、入手の希望に応えることができないでいた。そのような中、近年のイランでは歴史的にペルシア語文化圏であった中央アジア史への関心が高まっており、このたびテヘランにおいて長年歴史書の出版を手がけてきた出版社と本書の改訂版出版について合意し、編集責任者と具体的な編集上の目処を立てることができた。なお、この出版社との交渉の際にもMohammad Reza Nasiri教授に全面的にバックアップしていただいた。この場を借りて感謝を申し上げたい。

また、イスファハンおよびシーラーズにおいては、中央アジアの聖者廟参詣との比較という観点から代表的な聖者廟を訪問し、その参詣活動のあり方、地域的な存在意義などについて予備的な調査を行った。
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