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北京調査報告
小沼孝博(学習院大学東洋文化研究所・助教)

 概要

  • 調査者:小沼孝博(学習院大学東洋文化研究所・助教)
  • 日程:2008年9月8日(月)〜9月19日(金)
  • 用務地:中国・北京市
  • 用務先:中国第一歴史档案館、「回子営」跡地(西城区東安福胡同)

 報告

2008年9月8日から19日まで、オリンピックの余韻さめやらぬ北京を訪問し、18世紀中葉の清朝の東トルキスタン征服にともない、北京内城に成立したトルコ系ムスリム(現在のウイグル族)の居住区「回子営」に関する調査を行った。

調査期間中は、主に中国第一歴史档案館(以下、一史館)において文献史料の調査・収集にあたった。一史館は故宮西華門内にあり、清代を中心とする歴史文献史料の保存・整理・公開を行う機関である。報告者は、2000年の初訪問以降、毎年一史館で調査を実施してきた。ここ数年、公開性の低下がしばしば取りざたされてきたが、今回の訪問ではそれを最も実感することになった。閲覧においては、利用者(館員を含む)はマイクロフィルム化あるいは電子化されたごく一部の史料のみ閲覧可能となっていた。結果として、「回子営」に直接関わる史料の収集は思うように進めることができなかった。史料の管理・保存という面では有効な方法であるし、その点は十分に理解できるが、たとえばマイクロフィルムが不鮮明な場合などは特例的な措置を講じてほしいと思う。また、今後のためにも電子化による公開の進展が望まれよう。もちろん館員各位からは、今回の利用に際しても変わらぬ親切な対応とご協力を賜った。この場を借りて御礼を申し述べたい。

故宮西華門 中国第一歴史档案館


また休日を利用して、「回子営」跡地を訪問し子孫の方々から聞き取り調査を行った。「回子営」跡地は、現在の西城区東安福胡同(新華門の長安路を挟んだ南側一帯)に位置する。「回子営」は、1760年(乾隆25)に東トルキスタン出身者の居住区として成立し、敷地内には乾隆帝勅建の壮麗なモスクが建設され、北京におけるトルコ系ムスリムの活動の中心地であった。現在ではモスク正門のレリーフの一部が民家の壁面に残されているのみで、当時の面影はしのぶべくもない。しかし、なお「回子営」のムスリム住民の子孫が居住しており、1940-50年代の状況について貴重な情報を得ることができた。今回は3度目の訪問であったが、インフォーマントである常宝成・常宝光の両氏(兄弟)はともにお元気であった。今回は報告者が持参した20世紀前半のモスクの写真を見ながら記憶を辿っていただいたこともあり、これまでになく具体的で詳細な話を聞くことができた。また2008年3月14日発行の『中国民族報』に特集記事が組まれており、インタビューに応えた常宝光氏から記事が掲載された紙面の恵贈を受けた。さらに、期せずして常宝成氏の手料理を振る舞われ、ご家族の方々からも暖かいもてなしを受けた。厚く御礼を申し述べたい。

ただし、「回子営」跡地は区画整備の対象地域となっており、近い将来住民は立ち退かねばならない。250年の歴史を持つ「回子営」が名実ともに消滅することに、何ともいえない寂寥感を覚えた。

以上、今回の調査では一定の成果を収めることができた。その成果については、本拠点が刊行するCentral Eurasian Seriesの一冊として年度内に公表する予定である。


東安福胡同 常宝光氏(左)と常宝成氏(右後)、右前は両氏の妹
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