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中東・イスラーム諸国の民主化研究班第3回研究会報告
松永泰行(東京外国語大学)

 概要

  • 日時:2015年9月22日(火) 午後2時から6時
  • 場所:東京大学東洋文化研究所3階大会議室
  • 主催:NIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点「中東・イスラーム諸国の民主化」研究班
  • 共催:科研費「アラブ革命と中東政治の構造変容に関する基礎研究」(代表者:長沢栄治・東大教授)
  • 共催:科研費「現代中東・アジア諸国の体制維持における軍の役割」(代表者:酒井啓子・千葉大教授)
報告
  1. ムハンマド・ムーサー Mohammed Moussa(東京外国語大学・日本学術振興会外国人特別研究員)"The Political Centre and Religion in Contemporary Egypt"
  2. マーク・ファルハ Dr. Mark Farha(Georgetown Universit)"Internal and External Sources of Sectarianism in the Arab World”

 報告

英国エクセター大学で政治学博士号取得後、日本学術振興会の外国人特別研究員として訪日し、東京外国語大学に所属しているムハンマド・ムーサー氏と、米国ハーヴァード大学で博士号取得後、ジョージタウン大学外交学部カタル校で教鞭をとり、現在ドーハ学院助教を務めるマーク・ファルハ氏が、それぞれ「アラブの春」以降のエジプトおよび地域情勢に関する独自の分析を報告した。

ムーサー氏は、エジプトにおける「アラブの春」政変の前後からムルシー政権崩壊までの時期において、政治的中心・宗教権威・イスラミストの三者間の不確かな関係とその推移について論じた。とりわけ、宗教権威としてのアズハルのウラマーが、ムバラク大統領退任後の政治的中心の弱体化を受けて、総体として従来からの政治的中心との双方向のクライエンテリズム関係を維持あるいは回復する方向で動き、憲法制定時を含めムルシー政権下でイスラミストと命運を一にする選択を避けた経緯と背景について説明を提示した。質疑では、憲法制定時におけるムスリム同胞団の意図の解釈、アズハル側の行動の背景、同様の分析をエジプト以外の政教イスラーム運動関係に当てはめることができるかなどについて、参加者との間で議論が交わされた。

ファルハ氏は、「アラブの春」政変後、民主化の進展の代わりに宗派集団間の対立が顕在化していることについて、アラブ・イスラーム社会の内部要因と外部要因について議論を提示した。宗派対立については、宗派集団の残存をかけた防衛的な行動と位置づけ、中東の様々な宗派集団の内部要因を真っ向から否認したり、実際に見て取れる外部からの扇動のみに帰すことなく、内部と外部の要因をそれぞれ認め、それらに向き合うことなしに宗派対立や宗派集団間紛争の根絶は困難であると論じた。質疑では、現在の宗派集団間の対立の高まりの背景、アラブ世界における世俗主義の衰勢との関わり、外部要因が変化する契機のありなし等について議論が交わされた。

全体として、どちらも中東にルーツを持ちながらも欧米で育ち教育を受けた両報告者の報告を併せて聞くことを通じ、英米の中東研究における傾向の違いも見て取れる研究会となった。
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