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2014年度第6回パレスチナ研究班定例研究「川上泰徳氏退社記念・講演会」報告
役重善洋(京都大学大学院人間・環境学研究科・博士後期課程)

 概要

  • 日時:2015年1月31日(土)
  • 会場:東京大学本郷キャンパス東洋文化研究所3階大会議室
  • 共催
    • NIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点パレスチナ研究班
    • 土井敏邦 パレスチナ・記録の会
  • プログラム
    • 川上泰徳氏・講演「私の中東取材」(1時間半)
    • 質疑応答・コメント(1時間)

 報告

1994年以来、オスロ・プロセス、第二次インティファーダ、イラク戦争、エジプト革命等、激動の中東を取材し続けてこられた川上氏による報告は、それらの現地取材記事がどのような問題意識やプロセスによって活字となったのかを伝える興味深いものであった。例えば、イラク戦争の際、バグダードのフセイン像を倒した若者たちを探し出すのにタクシー運転手を動員する様子や、エジプトのベリーダンサーへのインタビューを成功させるまでバーに通い詰める努力などは、現地社会の深層にまで切り込もうとする川上氏のユニークな視点を伝えるエピソードであるように思われた。

また川上氏は、「横文字を縦文字に変換するだけ」で、現場での取材をおろそかにする多くのメディア特派員にありがちな姿勢を厳しく批判された。そして、欧米にはできない、日本だからこそできる中東取材や貢献のあり方があるはずだと力説された。

質疑応答ではイスラム国についての質問が相次いだ。川上氏は、タハリール広場に終結した人々の中に、サラフィー主義者が多数いたことを写真で示し、「アラブの春」の失敗が、イスラーム国の台頭へとつながったとの持論を展開された。また、宗教思想とそれを体現する手段としての暴力とを分けて考えるべきであり、前者を内在的に理解することと、後者をしっかりと批判することの重要性を強調された。

講演翌朝には後藤健二さんの殺害が明らかになるなど、緊迫した昨今の日本・中東関係において、欧米/中東/日本という区分の意味や、植民地的状況下における暴力/非暴力、思想/手段の区別等々、多くの考えるべき論点が提示された講演であったように感じた。
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