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2014年第5回パレスチナ研究班定例研究会報告
鈴木隆洋(同志社大学博士後期課程)
児玉恵美(日本女子大学文学専攻科史学専攻博士課程前期)

 概要

  • 日時:11月1日(土)13:00〜18:00
  • 会場:会場:東京大学本郷キャンパス 東洋文化研究所 3階大会議室
【報告】
  1. 大伴史緒(筑波大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程)「パレスチナ経済の成長要因分析」
  1. 武田祥英(千葉大学博士課程/日本学術振興会特別研究員DC)/鈴木啓之(東京大学博士課程/日本学術振興会特別研究員DC)「パレスチナ/イスラエルにおける資料調査:現状と課題の共有」

 報告

大友史緒報告「パレスチナ経済の成長要因分析」

大伴報告は、パレスチナ経済の成長要因を、Total Factor Productivity(TFP、総合要素生産性)の観点から説明しようと試みるものであった。

1967年の第三次中東戦争による占領以降のパレスチナ経済はこれまで、構造的従属の観点から、経済発展を妨害する要因の分析が中心であった。そのため、本報告はこれまで十分に分析されてきたとは言えない、経済成長の説明変数を主な論点として俎上に上げた。まず経済成長率の説明変数として、資本と労働の移動、経済政策の変化が説明変数として措定された。次に分析の前段階として1967年以降の資本と労働の移動、そして経済政策の歴史ならびに傾向が明らかにされた。そして、労働と資本が所得をつくるという新古典的な生産関数を想定した上で、労働と資本による生産性の増加以外の部分を、TFPに対する技術進歩の貢献部分とした。その上で、パレスチナにおける経済成長は、オスロ合意以前は資本投入の貢献が大きいマルクス型、オスロ合意以降はTFPの貢献が大きいクズネッツ型である、すなわち技術進歩による貢献が経済成長のドライブ要因として大きいと結論づけた。

以上の報告に対して、パレスチナ実体経済の考察にある、農工業の縮小という分析と、技術進歩が経済成長のドライブ要因であるという結論は矛盾するのではないか、またTFPにおける技術進歩がブラックボックスとして措定される結果となっていないかといった論点が提示された。またそもそも、通常の新古典派経済学が占領下パレスチナにおいて成立するのかどうか、適用が適切か否かについても議論が行われた。

文責:鈴木隆洋(同志社大学博士後期課程)

武田祥英・鈴木啓之報告
「パレスチナ/イスラエルにおける資料調査:現状と課題の共有」

本報告の目的は、パレスチナ/イスラエルにおける現地調査において、書籍・文書資料の調査に伴う課題や現状を共有し、パレスチナ/イスラエル研究会メンバーの今後の研究に役立てることであった。

鈴木氏の報告は、パレスチナ研究における現地調査と資料収集に関して、自身の体験に基づき、現状と課題の共有がなされた。具体的には、アラビア語現地資料の探し方買い方に始まり、行政機関・大学および地方資料館・図書館における設備や利用上の問題点、そして、ラーマッラーやナーブルスを中心に各々の書店の特徴等が提示され、実際に現地で経験しなければ分からないことが共有された。また、パレスチナ関連の一次資料が、ビールゼイト大学・アル=クドゥス紙・WAFAのウェブサイトで公開されていることも紹介され、パレスチナの情報はインターネットでかなり収集可能であることが示された。課題として、パレスチナでは、日本のCiNiiのような横断検索可能な文献情報サイトがなく、各研究機関のOPACで検索を繰り返す必要があること、ISBN未取得書籍の把握が難しいこと、書店での出版年度の古い書籍の確保が困難であることが提起された。鈴木氏報告は、資料調査を行う上で、知っておくと大変有益で参考になる情報で溢れており、資料にアクセスする入口を大きく開いてくれるような報告であった。

武田氏の報告は、今夏パレスチナ/イスラエルで現地調査を行った際の、史料館調査、宿泊施設などの生活情報、現地の状況等について提示された。イスラエルの史料館(イスラエル国家公文書館・中央シオニスト文書館)を利用された経験から、役に立つ情報や注意事項などが明瞭に示された。双方とも、利用時間が短いこと、史料館のデータ検索においては現地で調べるのが一番良いこと、また、史料内容が英語であっても、史料館のリスト・表紙の表記がヘブライ語である場合があり、検索が難しいことなどが共有された。さらに、エルサレム、ベイト・ウンマール、ヘブロン、ハイファを訪れた体験が報告され、イスラエル占領下に生きるパレスチナ人の現状が提起された。エルサレム旧市街アラブ人地区で、拳銃と無線で武装した私服入植者をよく見かけ、「エルサレムのユダヤ化」が進行している事態に直面したこと。ベイト・ウンマールで、農耕地の隣に建設された入植地から、催涙・傷痍・音響などの各種手りゅう弾が撃ち込まれていたこと。ハイファを再開発すべく、そこに住むパレスチナ人に対して家屋破壊・追い出しが行われており、それに抵抗する若者の共同体運動Al-Mahataの人たちと交流されたこと。武田氏報告は、資料収集とともに、現地に足を運んだからこそ見えてくる、パレスチナ/イスラエルの実情が提示され、現地調査の重要性が改めて強調された。

両者の報告は、将来的にはウェブサイトでの公開が予定されており、研究会メンバー以外の研究者・学生にも利用できる形となるそうだ。一学生として大変待ち遠しく、心底期待している。

文責:児玉恵美(日本女子大学文学専攻科史学専攻博士課程前期)

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