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中央ユーラシア研究会・特別セミナー「イスラーム地域における聖廟参詣の諸相」 報告
新免康(中央大学文学部)

 概要

  • 日時:2014年2月15日(土) 午後1時〜5時半
  • 会場:東京大学東洋文化研究所3階第一会議室
  • 主催:NIHUイスラーム地域研究東京大学拠点
  • 共催:中央大学人文科学研究所研究チーム「イスラーム地域における聖地巡礼・参詣」

【講演】
  • Pedram KHOSRONEJAD (University of St. Andrews), “Persian Shiite Pilgrimage Art: The Case Study of 18th-21th Century Religious Architectural Mural Paintings”
【報告】
  • SUGAWARA Jun (Tokyo University of Foreign Studies), “Constructing Data Resource of Islamic Sacred Stes in Xinjiang”
  • YASUDA Shin (Teikyo University), “Formalizing “Shi’ite” Sacred Sites: The Renovation Movement of the Sayyida Zaynab Shrine and the Sih’ite Communities in Syria”

 報告

本特別セミナーでは、国立民族学博物館の外国人研究員として来日中のPedram KHOSRONEJAD氏(セント・アンドリューズ大学・研究員)を招いて、特別セミナーを開催した。氏に講演いただくとともに、菅原純氏、安田慎氏からも関連する報告をいただき、イスラーム地域における聖廟参詣の様相とその歴史的背景について、それぞれの地域における政治的・社会的・文化的条件も視野に入れつつ、通地域的に検討した。

KHOSRONEJAD氏の講演は、近現代のシーア派イランにおいて重要な位置づけをもつイスラーム聖地への参詣をとりあげ、参詣地として機能している聖者・スーフィー指導者の墓廟の建物に施された美術に焦点を当てて考察を加えたものである。イランの各地域に見られるこれらイスラーム聖廟における美術作品が、歴史的に変化してきた地域社会における必要性を反映しつつ特有な役割を担ってきたこと、またそれらは政治-宗教的システム、社会変動、他の聖地との競争関係、美術様式の流行といった様々な刺激に応じて変容してきたことを明らかにした。実例として、イスファハン、フゼスタン、シーラーズ、ヤズドといった各地域における聖者・スーフィー指導者の墓廟の建造物内部における、アリー、ハサン、フセインなどをモチーフにした壁画美術を主に取り上げ、画像の提示とともに紹介した上で、それらの参詣者にとっての機能、描き手の特徴、歴史的な変遷や地域的な多様性などについて興味深い検討を加えた。

 菅原純の報告は、中国・新疆ウイグル自治区、とくにカシュガル地域のイスラーム聖域に関するデータの集成を目指す自らの科研費プロジェクトの概要について紹介した上で、その成果の一端を披露した。とくに、とくに文化財(重点文物保護単位)に指定され、公的な保護の対象となっている聖域が、当該地域の聖域の中でどのような位置づけを占めるかについて初歩的な考察に基づく見解を提示した。

 安田晋の報告は、シリアのダマスクス近郊に位置する「シーア派聖地」、サイイダ・ザイナブ廟をとりあげ、20世紀初頭から参詣地として大きく発展してきた歴史的プロセスについて系統的な検討を加えた。とくに、ダマスクスのシーア派コミュニティにおけるシーア派としての意識の高まりがコミュニティとしての結束と自律性の強化を促進し、そのことがザイナブ廟の充実化につながったと考えられることを論じた。
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