トップページ研究会活動
2013年度第5回パレスチナ研究班定例研究会報告
今井静(日本学術振興会/立命館大学)/鈴木隆洋(同志社大学博士後期課程)

 概要

  • 日時:2014年2月2日(日)15:00〜19:10
  • 会場:東京大学本郷キャンパス 東洋文化研究所 3階 第一会議室
【報告1】
  • 鈴木隆洋(同志社大学グローバルスタディーズ研究科博士後期課程)
    「重複する政治経済の転換点と転向方向:イスラエルと南アフリカ2つの新自由主義経済改革とその政治」」
【参考文献】
  1. Lipton, Merle. Capitalism and Apartheid : South Africa, 1910-1986. Wildwood House, 1986.
  2. Edigheji, Omano ed. Constructing a Democratic Developmental State in South Africa : Potentials and Challenges. HSRC Press, 2010.
  3. Shafir, Gershon and Yoav Peled eds. The New Israel : Peacemaking and Liberalization. Westview Press, 2000.
【報告2】
  • 今井静(日本学術振興会特別研究員・立命館大学)
    「ヨルダンのシリア難民受入とその背景―社会経済的インパクトと国際規範をめぐって―」
【参考文献】
  1. Schaffer, Jesse, "The Impact of Syrian Refugees on Food Security in the Northern Badia" (2013).Independent Study Project (ISP) Collection.Paper 1633.
  2. 大矢根聡 2005 「コンストラクティヴィズムの視座と分析―規範の衝突・調整の実証的分析へ―」『国際政治』143、124-140

 報告

今井報告は、ヨルダンにおけるシリア難民受入のプロセスを追いながら、それが中東地域システムおよび国際システムの動態とどのように関わっているのかをコンストラクティヴィズムの国際関係論における規範の概念を用いて検討するものであった。

1948年のナクバ以降、難民保護というかたちで地域政治に関わってきたヨルダンにとって、シリア難民の流入はどのようなインパクトや問題があり、それを解決するためにヨルダン政府がどのような対応を取っているのかが主な論点となった。そこでは、シリアにおける紛争の展開や難民流入の規模の変化に沿って、ヨルダン政府の関心が紛争の解決から難民問題への解決へとシフトしていること、UNHCRとの協力の下で保護政策が推進されていったことが明らかにされた。そして、難民保護のための人権規範や内政不介入の原則といった国際規範の遵守を表明することで、特定の立場を表明することなく諸外国からの協力を取り付け、自らの存立を危うくする可能性のあるシリアにおける紛争の拡大を防ぐという目的を達成しようとしていると結論付けられた。

以上の報告について、参加者からはシリアからのパレスチナ難民の入国拒否といった保護政策の基本方針とは矛盾する対応の実態や、国内の社会的経済的インパクトの詳細、イラク難民との比較といった論点が提示された。また、本報告において規範の概念を適用することの是非やその手法についても議論が行われた。

文責:今井静(日本学術振興会/立命館大学)



鈴木報告は、第二次世界大戦後のイスラエル政治経済と南アフリカ政治経済の発展、政策、制度の歴史を、世界経済のメルクマールを参照しつつ振り返り、もって両国の差異の比較のための分析視角を検討するものであった。

しばしば比較されがちな両国であるが、その体制や政策はけして静的なものではなかった。本報告は、被抑圧民族の統合と分離をめぐる政策の決定要因の一つとして、両国経済を構成する各産業の比率や業種等各種特徴と、各種産業に対する、また経済全体に対する政府の政策・制度と、経済界=国家の相互作用を重視するものである。

鈴木報告は、両国経済政策の、共時的通時的な共通性を指摘する。それにも関わらず明確な、統合と分離に関する、鮮やかなまでの落差の原因として、両国経済それぞれ固有の歴史ゆえの経済的特徴と社会的諸特徴、ならびにそれから影響を受けて策定される国家の産業政策が、示唆された。

以上の報告について、参加者からは、両国政治に関する、先行する比較研究も参照すべきこと、ヨルダン川西岸地区とガザ地区の統治に関しては67年以前と以降を明確に分けて分析の俎上にのせるべきこと、特にイスラエルに対しては外部から注入される、国家や各種団体からの資金に関し追求する必要があること等、本報告の目的を達成するために必要な作業の提起があった。あわせて用語の精緻化や、経済危機の要因と時期を明確にして行くことが必要であることが、指摘された。

文責:鈴木隆洋(同志社大学博士後期課程)

Page top