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2013年度第1回「中東・イスラーム諸国の民主化」研究会 
北澤義之(京都産業大学)

 概要

  • 日時:2013年7月6日(土) 14:00-18:00
  • 会場:東京大学 本郷キャンパス 東洋文化研究所 3階 大会議室
  • 報告:
    • 吉岡明子(財)日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究員「イラク・クルディスタン地域出張報告:イラク戦争から10年、自治開始から20年の今」(仮題)
    • 中川恵 羽衣国際大学現代社会学部教授「モロッコ出張報告:『アラブの春』の影響と民主化の行方」
  • 趣旨:
    「中東・イスラーム諸国の民主化」研究班のイラク担当者とモロッコ担当者は、昨年度にそれぞれ調査出張を行った。イラクの場合は、北部クルディスタンの自治や経済の現状を、モロッコの場合は、2011年「アラブの春」以降に生じた政治改革や政治変化を主たる調査対象とした。それぞれの調査結果を研究会にて報告するとともに、民主化にかかわる最近の政治情勢についての考察を提示する。

 報告

吉岡明子出張報告は、イラク・クルディスタンの自治の深化と経済発展の実態を明らかにするものであった。自治地区(KRG)の政治はライバル関係にあるKDPとPUKが、イラク戦争以降、各代表がKRG大統領、イラク大統領を務め、うまく棲み分けながら自治を強化し、他方でKRGやイラクからの投資を呼び込み経済発展につなげていった事情が明らかにされた。また県議会選挙や国民議会選挙の結果から見えてくる域内政治の複雑化やイラク中央政府との関係、そしてトルコやイランとの関係にも目を配る必要性があることが分かった。中川恵出張報告は、民主化を巡る動きが比較的穏健に推移した背景として、王制下の民主化の特殊性を明らかにした。すなわち国王の政治権限縮小を含む国王自らが中心となる憲法改正の動きが、大規模な体制変動を抑えただけでなく、現国王即位以来の10年来の民主化の動きへの評価が変化への要求の規模を抑えたという認識を与野党の指導者の証言をもとに明らかにした。二つの報告をめぐって、同様に中東での調査や研究に基づく熱心な質疑応答が交わされた。近年、中東研究でも理論的アプローチが高く評価されているが、両報告とも地域研究の真骨頂である細部へのこだわりや現地における状況認識への理解も研究上欠かせないことを改めて示唆する報告であった。
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