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第31回中央ユーラシア研究会特別講演会報告
新免康(中央大学文学部)

 概要

  • 主催:NIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点
  • 共催:中国ムスリム研究会・中央大学政策文化総合研究所「中央ユーラシアと日本」プロジェクト
  • 日時:2013年1月21日(月) 午後3時〜5時
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・法文1号館311番教室
  • 発表者:シェリンアイ・マソティ(新疆師範大学言語学院・准教授、大阪大学大学院人間科学研究科・外国人招聘研究員)
  • 報告題目:「新疆ウイグル自治区におけるウイグル語と漢語の言語接触について:2010年における調査の紹介を中心に」
    *発表言語:中国語(日本語通訳がつきます)

 報告

本講演は、2010年に実施された調査の紹介を中心に、中国・新疆ウイグル自治区におけるウイグル語と漢語の言語接触に関して検討したものである。

新疆は、歴史上、テュルク系言語である現代ウイグル語を母語とするウイグル族が多数居住する地域である。これに対し、中華人民共和国成立以後、内地からの移住を通して漢族人口が顕著に増大し、都市部においてはウイグル族・漢族の共存情況が現出した。また、改革開放後の経済発展の中で漢語使用の重要性が増し、ウイグル人の間においても漢語習得の必要性に関する認識が高まっている。このような情況を背景として、現在、中国国内において新疆は言語間の接触が最も密な地域と言えよう。とくにウイグル語と漢語の接触は、当該地域の人々の生活における言語活動の重要な構成要素となっている。

そこで講演者は、中国国家社会科学基金西部項目」の研究課題である「新疆維漢語言接触的社会変量分析」のメンバーとして調査研究を行った。そこでは、ウイグル語と漢語の言語接触と社会情況との関係を調査のテーマとし、社会言語学、社会学、教育社会学の理論と方法を用いて、ウイグル族と漢族の相互の言語に対する認識、態度、学習および認識上の差異について考察した。さらに、このような認識上の差異がバイリンガル教育と言語学習の理論と実践に対してもつ意味についても検討した。

具体的な調査方法としては、ウルムチ、グルジャ、カシュガル、およびホータンという4つの都市を調査地として設定し、社会学的なアンケート調査を行うとともに、付随的に、インタビューと参与観察、漢族の学校に就学したウイグル族学生・卒業生である「民考漢」に関する事例研究を実施した。アンケート調査のアンケート表の総数は3000部で、回収率は70%余りであった。

調査の結果として、以下の点を確認できた。ウイグル族と漢族はウイグル語と漢語に対する認識の上で、顕著な差異が存在することがわかった。ウイグル族と漢族はお互いの言語を学習する態度の上でも、大きな差が存在している。大半のウイグル族は漢語をマスターする必要があると考えている一方で、漢族の方もウイグル語を修得すると就職に有利であると見なす人が少なくない。大半のウイグル族と漢族が常用している言語は自身の母語であるが、ウイグル族の使用言語の選択は、話す相手および場所と比較的密接な関係をもっている。

この調査とその成果を基礎としつつ、新疆における言語接触についてさらに研究を深化させたい。
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