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基幹研究「中東・イスラーム圏における人間移動と多元的社会編成」・国際ワークショップ報告 
錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

 概要

  • 日時:2013年1月16日(水) 16:00〜18:00
  • 会場:東京外国語大学AA研 マルチメディア会議室(304)
  • アクセスマップ:http://www.aa.tufs.ac.jp/ja/about/access
  • 最寄駅:西武多摩川線 多磨駅(徒歩5分)/京王線 飛田給駅(バス10分)
  • 使用言語:英語(通訳なし)
  • 主催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・基幹研究 「中東・イスラーム圏における人間移動と多元的社会編成」
  • 共催:
    • 科研費基盤研究(A)「アラブ革命と中東政治の構造変動」
    • NIHUプログラム・イスラーム地域研究 東京大学拠点(TIAS)

 趣旨

パレスチナとイスラエルをめぐる、現行の二国家解決案は見直しを迫られている。それはパレスチナ難民やイスラエル市民のパレスチナ人の権利を無視したことで、限界を示し始めているためだ。新たなアプローチにはいくつかの可能性がある。二国家並立案、国家連合、ベネルクス方式、などはその一例だ。これら新たな解決案に加えて、本報告ではパレスチナ国家を実現するまでの段階についても検討を加えてみたい。それは二段階によって構成される。まずは、両者を明確に分断する合意に基づく閉じられた国境線による並立国家から始まり、次に、安定した状態のなかでの国境の開放により、徐々に両国の市民が相手国での居住が可能になるような状態を目指す。こうした段階を進めるためには、新しい国際的な連携という考え方が戦略として必要である。2012年のパレスチナ国家の国連承認は、こうした連携の構築を促す動きであり、その後に期待される展開について注目してみたい。
  • 講師: ワリード・サーリム(民主主義コミュニティ開発センター(エルサレム)、所長)
  • コメント1:アダム・ケラー(イスラエル平和団体グーシュ・シャローム)
  • コメント2:ヤコブ・ラブキン(モントリオール大学教授)

 報告

本報告では、これまでの和平交渉の問題点と、それに対する具体的な新しい提案として、段階的なアプローチが提示された。中東和平交渉と呼ばれるプロセスの開始から、長い年月が過ぎた。1991年のマドリード会議からは22年、93年のオスロ合意からは20年が経過するが、真の平和は達成されていない。それは西岸地区で入植地が拡大し続け、パレスチナ国家の建設を実質的に妨げているからだ。入植地は、西岸地区の62%を占めるC地区に建設される。C地区はヨルダン渓谷を始めとする農地や水源地を含む豊かな土地だ。地理的にはA地区やB地区を取り囲む形で広がっているため、イスラエルによるC地区の支配は、西岸地区全体の移動の管理を意味する。こうした土地の支配に加えて、ネタニヤフ政権はイスラエル国家のユダヤ性の主張など、妥協のない政策を提示してきた。

こうした事態を打開するには、まずは二国家解決案という考え方を維持した上で、次のような段階的アプローチが考えられる。第一段階では、1967年戦争以前の国境線を基準とした、明確な境界で隔てられた二国家(パレスチナとイスラエル)を確立すること。この際、西岸地区の入植者は、イスラエルへ移動するか、パレスチナ国家の市民あるいは住民として残ることを選択する。第二段階では、この国境を開き、一方の国家の市民であっても、他方の国家の住民となれるような状態を作る。つまりベネルクス三国のような状態を、イスラエル、パレスチナ、ヨルダンの間で形成することだ。それではこの状態をどう達成するか。まずはイスラエルによる入植地建設という既成事実化を止めることが必要だ。そのためにはイスラエルの経済成長を支える国際的な財政支援を止めることが求められる。具体的には、入植地および占領経済そのものへの投資の停止だ。他方でパレスチナ国家の建設のためには、西岸地区とガザ地区、東エルサレムをつなぐ必要があり、東エルサレムでのパレスチナの存在感を強めるよう、国際支援が重要となる。

以上の報告に対し、アダム・ケラー氏からは、アメリカによる対イスラエル支援を止めるのは難しいこと、西岸地区内の限定された土地の範囲であれば、ネタニヤフ政権もパレスチナ国家の独立を認めるだろう、などのコメントが出された。質疑では、抵抗の方法として第三次インティファーダの有効性や、パレスチナ自治政府の経済政策への評価、二民族一国家への意見などが問われた。また報告者のワリード氏自身から聴衆に対して、自治政府はハマースを内部に取り込むべきかどうか、またむしろ自治政府はむしろ解散して、イスラエル右派政権の責任を国連などの場で訴えるべきか、など問題提起がされ、活発な議論がなされた。
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