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Report (1) Walid Salem“The Changes in the Region and their Impact on the Prospects of Comprehensive Middle Eastern Peace”報告ワリード・サーレム氏の講演は、以下に示す多角的な視点から、現状を分析し、問題解決を模索したものだった。77年、サダト大統領がイスラエルを訪問し、79年に和平を結んで以来「冷たい平和」が続いてきたなかで、以下の3つの問いがある。
アラブ諸国の新政権は、イスラエルとの和平に関してどのような姿勢をとるかについては、チュニジア(穏健イスラーム主義)とリビア(かつて反イスラエル)は、全アラブ諸国とイスラエルの和平に賛成した。しかし実際には、占領政策が継続する現状で、外交関係を保持することは敬遠されている。 以上を受けて、和平実施に向けた解決策は、以下の3つが考えられる。
文責:鈴木隆洋(同志社大学大学院) Report (2) Adam Keller ”Wrestling on a Shaky Ground − Israelis, Palestinians, the Arab Spring and a Declining Superpower"ケラー氏の報告は、「アラブの春」に対するイスラエル社会の反応と、パレスチナ自治政府の今後という主に二つの視点から行われた。一点目については、エジプト、シリア、ヨルダンという周辺アラブ諸国における政治変動への反応が取り上げられた。イスラエルでは特に若年層の間でエジプトにおける抗議行動が広く共感を呼び、テルアビブ等で社会問題等の解決を求めるデモが開催されるなど、大きな影響を与えた。その後、エジプトにおけるムスリム同胞団を中心とするイスラーム勢力の台頭がイスラエル社会において不安を惹起した一方で、ムルシー大統領がイスラエルとハマースの間で仲介の役割を果たしたことから、現在では「アラブの春」に対する評価は複雑なものとなっていることが指摘された。 シリア問題についても、シリア情勢の悪化がガザ攻撃への国際社会からの関心を逸らす要因になっていることが一部で歓迎されていると同時に、イスラエルが占領するゴラン高原への過激派の影響力の増大が懸念されるなど、やはりアンビバレントな反応が見られるとのことであった。 最後に、周辺諸国と比較して体制への抗議活動が小規模であるヨルダンについては、イスラエルとの安定的な関係に期待が寄せられていると同時に、過激な右派からは体制転換とパレスチナ人の代替国家化を望む極端な意見も表明されていることが報告された。 二点目については、2012年11月に国連でオブザーバー国家の資格を得たことは自治政府の外交的な成功であるとしながらも、入植地の増設が決定されるなどイスラエルの占領に対して無力であることが支配の正統性を損ない、それがイスラエルへの協力者を生み出す要因となっていることが指摘された。この点については、コメンテーターの小田切氏からも、オスロ合意以降のイスラエルによる占領強化の中で、パレスチナ社会における抗議活動の矛先が自治政府や国際社会に向かいつつあるという報告がなされた。 文責:今井静(京都大学大学院/学振特別研究員) Report (3) Yakov Rabkin “Three Non-Western Nuclear Powers (China, India, Russia) and the Israel/Palestine Conflict”ラブキン氏は本発表において、三つの中核国ロシア、中国、インドと、イスラエルおよびパレスチナとのかかわりについて報告された。ロシアはイスラエルとの間で、建国以前からの古いつながりをもつばかりでなく、現在もまた軍事、戦略的に強いつながりをもつ。ビザなしで渡航が可能なことから、人的交流も多く、旧ソ連圏からのロシア語話者ディアスポラは、イスラエルで最大の人口を抱える。だが一方で外交姿勢としては、ロシアはイランやパレスチナに対しても宥和的態度を示してもいる。中国は、イスラエルにとって兵器市場としての価値が大きく、中国にとってはイスラエルが少数派ムスリムへの対処の参照モデルとして機能している。両者の関係は特に2010年代以降戦略面で深まる傾向にあり、それと並行して中国の対パレスチナ関係は、相対的な外交ツールとしての位置づけに低下しつつある。インドは当初、1947年のパレスチナ分割決議案に反対したが、1950年にはイスラエルを国家承認した。だが実質的な外交関係が始まったのは、1991年以降のことである。両国の関係は、とりわけ米ソ冷戦の終焉後に強化され、軍事技術や治安面での協力、武器の輸入など交易関係が発展してきた。国民感情の面では、ロシア、中国、インドでの対イスラエル意識は、ヨーロッパ諸国と比べてかなりプラスに評価されている。インド国内では、約1億5千万人の少数派ムスリムがパレスチナを支持する傾向が強いものの、全体では58パーセントの人々がイスラエルに強い親近感を抱いている、との調査結果がある。またロシアからは、観光目的でのイスラエル訪問が盛んである。とはいうものの、近年の動向については、これら三国は必ずしもイスラエル寄りではない、ヨーロッパとは異なる路線をたどっている。2006年のハマースの選挙での勝利の際は、ハマースをテロ組織と呼ぶことはなく、封鎖されたガザ地区への支援船に対するイスラエル軍の襲撃を非難した。イランによる核開発については、これら三国は核技術の平和的利用を支持する姿勢を示し、制裁には加わっていない。「アラブの春」に際しては、第三国の干渉に慎重な態度が示された。こうした外交関係は冷戦終結により大きな影響を受けつつ、個別の国益との関係で判断・構築されているといえる。文責:錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所) |