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日本学術会議公開シンポジウム「地域研究の「粋」を味わう―現地から中国、東南アジア、アフリカ、中東を読む」報告
秋山徹(日本学術振興会/東洋文庫)

 概要

  • 主催:日本学術会議地域研究委員会地域研究基盤整備分科会
  • 共催:
    • 地域研究コンソーシアム(JCAS)
    • 京都大学地域研究統合情報センター(CIAS)
    • NIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点
  • 日時:2012年12月19日(水) 13:00〜18:00
  • 会場:日本学術会議(最寄駅:東京メトロ千代田線乃木坂駅)

 趣旨

 
地域研究とは何か。海外のさまざまな現象を研究する「地域研究」が、日本で学問として市民権を得るようになって、半世紀近くが経つ。欧米の「エリア・スタディーズ」が冷戦期の戦略的な志向をもち、その学術性に疑問が投げかけられがちなのに対して、日本の地域研究は、より幅広く、特定の利害関係から自由な、豊かな学問として発展してきた。海外の現象から得られる「発見」。 世界のなかに自らをおくことで可能となる「相対化」。海外のさまざまな事象を比較して、一般則を見出す「比較」。そしてそれぞれの地域の文化、社会の独自性を知ることを前提とする「多文化共生」。グローバル化された現代社会に、地域研究は不可欠である。本シンポジウムでは、中国、東南アジア、アフリカ、中東を舞台に、長年「地域研究」に携わってきた専門家が、それぞれの地域研究の「粋」を語る。同時に、同じ地域研究でも、それぞれが専門とする学問分野の違いによって多様なアプローチがあることを、報告から感じて欲しい。

 プログラム


13:00 開催趣旨説明
  • 田中耕司(日本学術会議第一部会員、京都大学特任教授、学術研究支援室長)
13:10-13:40 基調講演
  • 酒井啓子(日本学術会議第一部会員、千葉大学法経学部教授)
  • 武内進一(日本学術会議連携会員、日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センターアフリカ研究グループ長)
13:40 第一報告  
  • 国分良成(日本学術会議連携会員、防衛大学校 学校長)中国「地域研究としての中国研究―世界と日本のあいだ」
14:25 第二報告
  • 桜井由躬雄(東京大学名誉教授、京都大学客員教授)東南アジア「ベトナムの小村バックコックを舐める−「私」の地域学の20年−」
15:10 休憩

15:25 第三報告
  • 松田素二(京都大学文学研究科 教授)アフリカ「アフリカから多文化・多民族共生の技法を学ぶー地域研究の醍醐味」
16:10 第四報告
  • 長沢栄治(東京大学東洋文化研究所 教授)中東「地域研究における私的なものと公的なもの」
16:55 総合討論
  • 国分良成(日本学術会議連携会員、防衛大学校 学校長)中国
  • 桜井由躬雄(東京大学名誉教授、京都大学客員教授)東南アジア
  • 松田素二(京都大学文学研究科 教授)アフリカ
  • 長沢栄治(東京大学東洋文化研究所 教授)中東
  • 酒井啓子(日本学樹会議第一部会員、千葉大学法経学部教授)
  • 武内進一(日本学術会議連携会員、日本貿易振興機構アジア経済研究所地域研究センターアフリカ研究グループ長)
17:55 閉会の辞
  • 小松久男(日本学術会議第一部会員、東京外国語大学大学院総合国際学研究院特任教授)

 報告

本シンポジウムでは、長年にわたって様々なフィールドを舞台に地域研究に携わってきた第一線の専門家たちから、地域研究の魅力や可能性、そして課題が提示された。

シンポジウムは基調講演と報告の二部構成で成り立っていた。第一講演者で、中東地域研究を専門とする酒井啓子氏(千葉大学)は、地域研究が、ある地域・国だけを理解する「外国研究」とイコールではなく、その地域を、日本を含む国際社会の動態が作用する場として見る営みであることを力説した。第二講演者で、アフリカ地域研究を専門とする武内進一氏(アジア経済研究所)は、途上国の研究水準が上昇しつつある昨今の状況にあって、日本人が日本をベースに研究を行なう際に、迅速かつ的確な現状分析力が鍵となる点を説いた。さらに地域研究は、それが他の研究分野から独立した自律的研究領域であることを意味せず、諸ディシプリンとの間に建設的な緊張関係を構築する必要がある点が強調された。

次いで、三名の専門家が、個別の研究に即した報告をおこなった。まず、現代中国研究を専門とする国分良成氏(防衛大学校)は、日本の中国地域研究において、フィールドワークにもとづく地域への徹底したコミットによる政治社会のミクロな実証研究が流行している一方で、中国の中枢の権力構造や統治機構の分析が欠落していることを指摘し、両者のバランスをうまくとる必要性を説いた。次に、アフリカ研究を専門とする松田素二氏(京都大学)は、「地域の叡智」(African Potentials)にもとづくアフリカの紛争解決をめぐる自身の研究から、地域研究者にとって、地域の論理を見通す想像力の重要性を説いた。最後に、中東地域研究を専門とする長沢英治氏(東京大学)は、地域研究の出発点は、研究者個人の内発的な動機にもとづく「自由」なものあるとしつつも、それは研究の進展に従って次第に社会的かつ公的な意味を自ずと帯びるのであって、地域研究における「私的なもの」と「公的なもの」は対立するのではなく、むしろ最終的には結びつきうるものであることを指摘した。同時に、地域研究者にとって、地域の人々が語り、形作る論理との対話が重要であることを説いた。
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