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内陸アジア史学会2012年度大会報告
清水由里子(中央大学文学部・兼任講師)

 概要

  • 日時:2012年11月4日(日) 13:00-17:10
  • 会場:北海道大学札幌キャンパス・人文社会科学総合研究棟409室
  • 主催:内陸アジア史学会
  • 共催:スラブ研究センター、NIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点

 プログラム

公開講演
  • 荒川正晴(大阪大学・教授)「前近代中央アジアの国家と交易 」
研究発表
  • 長峰博之(希望学園北嶺中・高等学校・教諭)「カーディル・アリー・ベグとその史書について―ジョチ・ウルス「内部史料」の史料的可能性とその歴史認識―」
  • 高本康子(北海道大学スラブ研究センター・学術研究員)「大陸における対「喇嘛教」活動」―満洲国興安北省を中心に―」
  • 秋山徹(日本学術振興会・特別研究員・(財)東洋文庫)「ロシア統治下におけるクルグズ首領層の権威―遊牧世界とイスラーム世界のあいだで―」

 報告

2012年11月4日、北海道大学において、内陸アジア史学会の主催、イスラーム地域研究東京大学拠点の共催により、内陸アジア史学会2012年度大会が開催された。今年度も例年同様、一つの公開講演と、三つの研究発表がおこなわれた。

大会では、まず荒川正晴氏(大阪大学・教授)による「前近代中央アジアの国家と交易 」と題する公開講演がおこなわれた。本講演は、中央アジアにおける遊牧国家とオアシス国家の共生関係を交易という観点から読み解こうとするものであり、講演ではトゥルファン出土文書をはじめとする各種の史料から、中央アジアにおけるキャラバン交易や、オアシス国家の交易と農業の具体的様相が示されるとともに、遊牧国家やオアシス国家による活発な使節の派遣と誘致は、中央アジア地域のキャラバン交易の基盤をなすものであること、またそれがオアシス国家の諸産業のあり方を規定するものであったと結論づけられた。

講演に続いて、若手研究者による三つの研究報告がおこなわれた。まず、長峰博之氏(希望学園北嶺中・高等学校・教諭)による発表「カーディル・アリー・ベグとその史書について――ジョチ・ウルス「内部史料」の史料的可能性とその歴史認識――」は、17世紀にカーディル・アリー・ベグによって著されたテュルク語の史書について、従来、本史料が呼ばれてきた『集史』という名称の見直しも含めて、その史料的価値の再検討を試みるものであり、報告ではこの史料の有するジョチ・ウルスとその敬称政権の歴史研究における史料的可能性と、そこから看取される歴史認識について考察がなされた。

次に、高本康子氏(北海道大学スラブ研究センター・学術研究員)によって、「大陸における対「喇嘛教」活動」―満洲国興安北省を中心に―」と題する発表がおこなわれた。本発表では、1942年に満洲国興安北省で建立された「時輪金剛仏曼荼羅廟」に焦点が当てられ、戦時下の満洲国におけるモンゴル人に対する宣撫工作、とくに宗教工作の実相を明らかにする事例として、満洲国における「喇嘛教」関連施策やそれに対する現地の反応など、同廟建立をめぐる経緯が詳細に示された。

最後に、秋山徹氏(日本学術振興会・特別研究員・(財)東洋文庫)による発表、「ロシア統治下におけるクルグズ首領層の権威―遊牧世界とイスラーム世界のあいだで―」がおこなわれた。本発表は、ロシア統治下におけるクルグズ首領層の権威の様態を、シャブダンという一人のマナプを軸として明らかにすることを試みるものであり、発表ではシャブダンのもつ権威に、「バートゥル」という称号に代表される伝統的な中央ユーラシア遊牧世界の価値観と、クルグズ社会において近代以降にわかに重要性を増したイスラームというファクターの両側面から検討が加えられた。

大会には、開催地である札幌のほか、全国各地から多数の研究者・大学院生が参加し、活発な議論がおこなわれた。
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