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GCOE Seminar "Religion and Politics in Today's Kazakhstan and Kyrgyzstan"
/第29回中央ユーラシア研究会・特別セミナー参加記
地田 徹朗(北海道大学スラブ研究センターGCOE学術研究員)

 概要

  • 日時:2012年8月5日(日) 午後2時〜5時
  • 会場:東京大学本郷キャンパス 法文一号館2階217教室

 プログラム

  • 司会:新免康(中央大学)
  • 通訳:地田徹朗(北海道大学スラブ研究センター)
  • 使用言語:ロシア語(日本語逐語通訳つき)
14:00〜15:20
  • Bakytbek Jumagulov (Public Foundation "Institute of Peace and Development in Central Asia, Kyrgyzstan)「クルグズスタンにおけるイスラームと非合法宗教政党の活動」
15:30〜16:50
  • Igor Savin (Shymkent State University, Kazakhstan)「カザフスタンにおける宗教事情の現状と特質」

 報告

2012年8月5日、北海道大学グローバルCOEプログラム「境界研究の拠点形成」はイスラーム地域研究東京大学拠点との共催で、カザフスタンとクルグズスタンから2名の研究者を招き、東京大学本郷キャンパスにてイスラーム「過激主義」を中心とする両国の宗教事情に関するセミナーを開催した。両名は札幌で行われたGCOE第3回国際サマースクールでも講師を務めていただいた。

クルグズスタンのバクトベク・ジュマグロフ(中央アジア平和・発展研究所)氏は、「クルグズスタンにおけるイスラームと非合法宗教政党の活動」という報告を行った。ジュマグロフ氏は、最初にクルグズスタンの宗教政策・制度やキリスト教や新興宗教を含む宗教事情に関する概説を行い、その後、ウズベキスタン・イスラーム運動、イスラーム解放党(ヒズブッタフリール)、ジャイシュリ・マフディーといったイスラーム「過激主義」運動のクルグズスタンでの活動実態について説明した。特に、イスラーム解放党の理念、組織構造、資金源に関する説明は興味深かった。ある解放党員は、解放党の理念は「全社会構成員の平等」を謳っている点でマルクス主義と似ているが、アッラーの下で平等を確保する点が異なると述べたという。そして、解放党の組織構造はピラミッド型を成しているが、各階層のリーダーしか上位階層のリーダーを知り得ず、平党員は誰が解放党を指揮しているのか皆目分からない。そして、解放党員には月額の党費があり、寄付や宗教書販売と共に資金源の一つを成している。解放党に加わるクルグズスタン市民は精神的・政治的な理由よりも物質的・経済的な理由が優勢で、それへの幻滅が物理的な当局からの圧力や懐柔策と共に解放党から離れる要因になっている。

続いて、カザフスタンのイーゴリ・サーヴィン(シムケント国立大学)氏は、「カザフスタンにおける宗教事情の現状と特質」とのタイトルで報告を行った。民族学者であるサーヴィン氏は、世論調査の結果に基づくカザフスタン国民の宗教観や政府による宗教政策・制度の変化について述べた後、カザフスタン(特に、サーヴィン氏が住む南部)でのイスラーム「過激主義」浸透の諸要因について分析した。その要因をサーヴィン氏は3つ挙げている。一つ目は、政府や宗教指導者がイスラームをカザフ・ナショナリズムと結びつけて称揚した一方で、公式のイマームは若くて権威がなく、しかも欲深い。これに失望した若者が「過激主義」へと流れる。二つ目は、経済格差が広がる中で、特に農村部の若者に就労機会がなく、不平等な世の中がなぜつくられたのか、自己をいかに実現すればいいのか、その答えを「過激主義」に求めるようになっている。三つ目は、イスラーム諸国の教育機関等を通じた影響であり、貧困層が教育へのアクセスを求めて入学する傾向にある。公式に登録された学校以外にも「過激主義」的な非公式の寄宿制の学校も存在する。カザフスタンでは解放党の勢力は陰りを見せ始めており、より「原理主義的」なサラフィズムの影響力が強まっている。そして、過去には南カザフスタンが中心だった「過激主義」もカザフスタン全土に広まっており、2011年にはタラスとアクトベで「過激主義」信者と警察との衝突事件も発生した。

8月上旬の日曜日ではあったが、15名(報告者と通訳を合わせると18名)の参加がありセミナーは非常に盛況で、予定した時間を1時間もオーバーして熱のこもった報告と活発な質疑応答が行われた。東京でのセミナー開催を許可いただいた小松久男先生、セミナーのセッティングをしていただいた新免康先生、清水由里子さんに心より感謝申し上げる。また改めてこのようなセミナーを札幌だけでなく東京でも開催できるよう努力してゆきたい。
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