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2011年度第1回民主化班定例研究会報告
辻上奈美江(高知女子大学)

 概要

  • 日時:7月30日(土) 14:00〜18:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス東洋文化研究所 第一会議室

 報告

1.バハレーン野党のジレンマ―ウィファークの戦略と展望を中心に―

石黒大岳氏より、2011年2月からバハレーンにおいて発展した改革要求を題材に、最大野党ウィファーク(シーア派系)に注目しながら、同国が宗派対立のロジックから抜け出せないジレンマについて報告が行われた。

報告では、当初、穏健な体制内改革を求めて現れたデモが、次第に首相の辞任や議院制内閣、選挙制度改革を要求するまでに急進化したことが指摘された。このように強硬派が優勢になった背景には、これまで事実上国外追放となっていた強硬な反体制派人員のバハレーンへの帰国、隣国サウジアラビアの動向、そして米国との関係などがあると石黒氏は指摘する。

また、今回の騒乱の注目すべき特徴として、(1)若者や女性が参加したこと、(2)既存の政治的対立の構造が継続したこと、そして(3)与党内の穏健派が不在であるために対話を通じた交渉が困難であることが挙げられた。この(2)(3)に加えて、ウィファークを代表とした野党勢力側の組織レベルの問題点、さらには内政レベル、そして域内・国際政治レベルなどの複層的で構造的な問題ゆえに、結果として旧来からの宗派対立の構図から脱却できない事情があるとされた。発表後の質疑応答では、ウィファークへのイランの影響や、今回の騒乱を分析する上で野党を分析することの意義などについての質問が行われた。

2.部族社会と民主化―イエメン―

松本弘氏からは、比較政治学上の「土壌」としての「部族」に着目しながら、2011年のイエメンの政変についての報告が行われた。報告では、現在のイエメンにおいては、反政府デモ、野党勢力の存在、軍・政治エリートの離反、アラビア半島のアル=カーイダAQAPによる攻撃、そして大統領不在という非常に複雑な状況に直面しつつも、それでも政権は崩壊しない複雑さがあることが指摘された。このような政治的混乱において、部族は政府との(1)「対抗と妥協」、そして(2)「弾圧と政治エリートの離反」を経て、現在は(3)「混迷」期を迎えている。

他方で、イエメンは1990年の南北統一以降の政治・経済の自由化によって部族の立場の相対的弱体化が起きていると松本氏は論じる。それゆえ部族は、今回の政治的混乱を利用し、サーレハ大統領交代後の自らの勢力回復を目指しているとして、部族勢力の強さを現状の混乱に単に結びつける既存の議論に対する修正案を提示した。

発表後の質疑応答では、部族弱体化に関する質問が多かった。質問に対しては、政府軍と部族、部族長による起業など部族のおかれた現代的変化といった、具体的な事例に照らし合わせながら詳細な説明が行われた。
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