10月13日 第2回
題材:岸本美緒(人文社会系研究科教授)「風俗と時代観」
担当:村上 衛(東アジア歴史文化博士課程1年)
本論文は、明末清初の知識人の時代観として、顧炎武の歴史風俗論を取り上げている。顧炎武の関心は個人の倫理的主体性と個人を超えた社会全体の大きな動きとの接点にあった。そして、顧炎武の歴史像は、「風俗」という語で表されるような人々の倫理的行動様式のリズムを基調として描かれており、人々が強い倫理的共同感覚で結ばれている状況と、人々の心がバラバラに離れていく状況との間をゆれ動く、大きな波動の形象が、彼の歴史感覚を形作っていたとする。
このような顧炎武の歴史像からの有益な示唆としては、今日、歴史に対する一種の「同時代的感覚」が出現するなかで、顧炎武の歴史論の特徴の一つが「同時代的感覚」にあることと、顧炎武の歴代風俗論が、近年の研究者の注目する「行動パターンの時代的変化」を扱おうとしたものであることが挙げられている。
本論文では顧炎武という知識人の歴史観に焦点があてられていたが、顧炎武ら知識人とは倫理的な座標軸を異にした人々や、彼らの行動パターンといった面からも研究を進めていく必要があるだろう。
当日は、「行動パターン」「風俗」等の本論で使用されている用語をめぐる問題、歴史観の時代による変化、日本の中国史研究のあり方、顧炎武の考えていた人々の範囲など、多角的な議論が行われた。
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