10月6日 第1回
題材:渡辺 浩(法学政治学研究科教授)「進歩と中華──日本の場合──」
担当:鈴木弘一郎(東アジア思想文化博士課程1年)
「進歩」という理念は、元来東アジアには存在せず、その出会いは、19世紀になってからだった。その時、日本人の精神に何が起こったのかを、その出会い以前の思想史の流れと関連づけて考察している。著者は江戸時代において用いられていた「開け」という語に注目し、これが「文明開化」の推進力になったことを指摘する。ただし、これは「進歩」とは全く異質の概念である。日本においては、江戸時代からあった「中華化」の願望を満たすものとして西洋化が進められた面があり、それが「文明の進歩」の観念に代位したと結論づけている。明治維新は「儒学化」だった。
今後の問題点として、日本・中国・朝鮮におけるダーウィニズムの作用の違いとそれぞれの思想史的背景との関係や、タイムスパンの取り方一つで進歩史観は循環史観と共存しうることへの説明などが必要と思われる。
自由討論では、中国における歴史意識の問題、その日本との異同がまず議論された。また、江戸時代の政治組織が、一見全能な権力機構に見えながら、その実、あらかじめ予想されない事態に対しては機能不全に陥る構造であったことが、幕末に「公論」重視の動きを生じる背景にあったことが、著者から補足的に論じられた。さらに、武士たちが既得権益を放棄して新体制に移行した理由をめぐって議論された。
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