10月21日 園田茂人『証言・日中合弁』
<コメント:小島 毅(東アジア思想文化・助教授)>
日本から合弁の形で中国に進出した企業が、現地でさまざまなトラブルに出会っている。社会主義的思考との落差、会社・職場に対する考え方の相違、官庁との関わり方のむずかしさなどいくつかの理由があるが、その根底には、中国において社会を構成する原理として「関係」主義と呼びうるものが存在すると説く。本書はそれに対する処方箋として、自分側のルールを一方的におしつけるだけでなく、相手を理解することの重要性を述べる。具体的には、対外的に「関係」主義を活用しながら、企業内部では個人の責任を明確にした上で命令系統を機能させること、そのためには、現地に一流の人物を駐在員として派遣する必要があると論じている。
体験談の聞き取り調査に基づく本書の立論には説得力がある。しかし、他面、そのことが穏当・平板な提言に終わってしまう結果にもつながっている。中国研究全体の課題として、中国社会における人間関係のあり方を歴史的・文化的な視点から捉え直し、現在の問題と有機的に結びつけていくことが必要であろう。
<自由討議>
摩擦の原因を制度に求めるか文化に求めるかという見方、およびその当否、中国における地方ごとの差異などが指摘された。また、アジア理解の方法として、政治学・社会学といった方法そのものを問い直すことの重要性が提起された。