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国際研究会議
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■ どなたでもご自由に参加いただけます(無料)。事前のお申し込み等は不要です。
近代以前、というより中世までの文化の特徴は、「死の向こう側」について明確な実在感をもっていたことだろう。フランスの歴史家、フィリップ・アリエスはヨーロッパの古い時代の、また民衆文化的な死の意識のあり方を「飼いならされた死」とよんでいる。死が来ると当然のようにそれを迎える準備を行う文化、また死者と隣り合って生きていることを受け入れている文化のあり方だ。そのような「死の近さ」は、中世まではありふれたものだったし、民俗文化の中では現代まで続いている。個にとっての死を重視し、死後の審判を恐れ、あの世の至福を期待する文化においても、異なる意味での死の身近さがあった。
この研究会議では、このように「死の向こう側」を身近に感じる文化について、日本の自死や他地域の殉教、悲惨な死、無念の死に向き合う流儀、また濃密な死者との交流の儀礼などを通して考えていきたい。また、仏教やキリスト教等の個人の救済に思いをこらす思想の影響が、それにどう及んだかについて考察する。さらに現代においてもそうした感覚がまったくなくなってしまったわけではなく、根強く生き残っており、排除しきってしまうことのできないものであることについても考えたい。自爆テロや死刑や安楽死、日本の心中や自殺や靖国問題などもこの論題と関係がないわけではない。
この問題にアプローチするには、さまざまなディシプリンを身につけた研究者の協力が必要だ。日本とフランスの文化人類学や民俗学や歴史学、文学史研究や思想史研究や宗教史研究の専門家に加わっていただき、死生学の観点から議論をしていただく。地域的には東アジアとヨーロッパに力点を置きつつも、世界各地の過去、現在のさまざまな事例を取り上げていく。
研究会議は1つの国際研究会議と3つのワークショップからなる。国際研究会議ではフランス極東学院のFrnciscus Verellen院長にアジアの、トゥルーズ人類学研究所Jean-Pierre Albert所長にヨーロッパの論題を取り上げていただき、基調講演をしていただく。そして3つのワークショップで、テーマをしぼって理解を深めることを目指す。
ワークショップ(A)「進んで死を迎える」では、自ら死に向かって生きていくことを選ぶ人々について、またそのような生き方を準備する文化について考察する。ワークショップ(B)「非業の死を受け止める」では、戦争や災害、事故、若い者の自死・病死など、生き残った者にとって受け入れがたい死を、なお受け止め、納得しようとする文化の諸相について考察する。ワークショップ(C)「死者とともに生きる」では、もはやともに行為し、語り合うことができないかに思える死者と、なおともに行為し、語り合おうとする営みについて考察する。
3つのテーマの考察を通じて、死を遠ざけてきたと言われる現代人にとって「死の向こう側」がどこまで遠いものなのか、現代人は死を「飼いならす」ことができるものなのか、考え直すことができるだろう。そしてこの会議を通して、私たちは死をめぐる過去の人類文化の豊かさに、また、均質化するかに見える現代世界でなお保たれている死の文化の多様性にあらためて目を見張ることになるだろう。